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私達の住む世界には、「運命」という言葉がある。それは、人が自らの力で変えることのできない事柄を指す言葉で、主に悪い意味で使われることが多い。しかし、運命という言葉は本来良い意味で使われていて、例えば「宿命」とか「天命」などといった言葉と同義で使われているはずだ。
「天命」なんて言葉を耳にするのは、歴史の授業くらいしかないと思うけれど……。それとも、大人になった今でも使っている人がいるんだろうか? 少なくとも私は聞いたことがない。
さて、私がこんなことを考えている理由は一つ――今まさに、その「天命」を感じ取っているからだ。
私は目の前にいる男性から目を離せなくなっていた。彼は私を見つめながら言う。
「君の名前は?」
「あ、えっと……美波です。下の名前……」
「……へ?」
「だからぁー! 名前ですよぉ!」
「ああ、うん。よろしくね」
「はいぃ! よろしくお願いしま~す♪」
「……」
(なんだコイツ)
「うわぁ! お兄ちゃん見てみてぇ! めっちゃ可愛い子だよぉ!?」
「ちょ、ちょっと凛音さん……恥ずかしいからあまり大きな声で言わないでくださいよぅ///」
「あっはーん! あぁ~ん!」
「もう、ダメよ……ダメェッ!!」
「お姉ちゃんだってその気だったじゃないですか~?」
「うふぅっ!?」
「じゃあ、次はあたしね♪」
「ひゃあんっ!! そこは違うわぁっ!!」
「えぇ~? どこが違うんですか~?」
「ほぉら、こんなにヌルヌルしてるんですよ? これは間違いなく準備万端ですね!」
「えーっと……お姉さん、俺にはよく分からないんですけど?」
「大丈夫ですよ! きっと貴方にも分かりますから!」
そう言って、受付のお姉さんは自分の胸元に手を入れて―――そこから取り出した何かを、俺の手の上に置いた。
「はいこれ。これがローションになります」
それは透明な液体の入った小瓶だった。
掌の上で転がすと、中でちゃぷんと音が鳴る。
「へぇ~、これがねぇ」
「それじゃあ頑張って下さいね♪」
「はい!ありがとうございました!」
「いえいえ~ではまたお会いしましょーう」
そう言って彼女は去って行った。
ここはどこなんだろうか……
俺の名前は田中一郎。
年齢は20歳になりたての大学一年生。
自分で言うのもあれだが顔立ちは整っていると思う。
ただ髪色は黒で身長もそこまで高くはない。
今は一人暮らしをしており、実家から通えない距離ではないのだが親には反対された。
理由は「女遊びばかりしてないでちゃんとした職について欲しい」らしい。
俺は生まれて今まで一度も自分のことを不幸だと嘆いたことは無い。
何故ならば俺の人生には良いことがたくさんあったから。
だがその反面悪いことも沢山あった。だからトータル的に見れば普通の人生だと思う。
普通に勉強して、普通に受験をして、普通に高校に入学して、普通に友達を作って……
本当に普通の学生生活を過ごしていたと思う。