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私
には、それがないのだ。
だから、私が欲しいものは全て手に入るし、私にとって不要なものは全て消える。
「あの女は何を考えてるのかわからない」などと陰口を叩かれることもあるが、「私は何も考えていないから、何を考えてるかわかるはずがない」と言い返せば済む話なのだ。
こんな風に考えていることを自覚して初めてわかったのだが、実は私にも欲望はあるらしい。ただその欲求が極めて薄いだけで。
食欲、睡眠欲、性欲……三大欲求と呼ばれる本能的な欲求のうち、私の場合は睡眠欲だけが突出しているようだ。しかも、かなり強い。眠らない日があるくらいなのだから、当然と言えば当然だが、それだけではない気がする。
夢遊病者のように眠りながら動き回ることがあって、その度に目が覚めるのだけれど、それでもしばらくするとまた同じことを繰り返す。
夢の中で自分が何を見ているのか分からない。眠っている間も起きているような状態で、自分の身体が自分のものじゃないみたいだ。
そんな状態なので、夜中に突然目覚めて、そのまま眠れなくなってしまうことがある。そういう時に限って悪夢を見るものだから嫌になる。
一度精神科に行った方がいいかもしれないと思っているのだが、なかなか踏ん切りがつかないでいる。
私はいわゆるオタクというものに分類される人種だと思う。
アニメが好きで、漫画を読んでいて、ゲームをしていて、小説を書いていて……趣味といえばこれぐらいしかない。
世間的にはオタクというのはあまり良い印象を持たれていないらしく、私も自覚してそういったイメージを避けている部分もある。
だからといって何か問題があるわけでもないし、それで困ったことも特にないのだが、最近は少しだけ気にしていることはある。
それは、自分がオタクだということを周囲に隠そうとしていないかということだ。
もし私がオタクだと知られてしまったら、今まで通りの生活が続けられるか自信がないからだ。
もちろん友人にも家族にも隠し通せると思う。ただ職場だけは別だった。
私はとある出版社に勤めていて、そこでライトノベルの編集を担当している。
ライトノベルと言ってもピンキリで、売れ線もあればそうではないものもある。
私はどちらかと言うと売れ線の部類に入るらしいが、正直よくわからない。
編集者としてはまだまだ駆け出しだが、本への情熱だけは誰にも負けない!そう胸を張って言えるほどには仕事をしてきたつもりだし、実際自信もある。
しかし今日、俺の目の前にいる女編集者は、その俺の言葉を否定した。
「本への愛だけじゃダメですよ。もっと色んなことを覚えないと!」
俺は今年で三十歳になるのだが、彼女はまだ二十代前半ぐらいだろうか。肩まで伸ばした茶髪と大きな目が特徴的で、スタイルも良い美人さんなのだが……如何せん口うるさい。
「いいですか先輩。まず最初に『企画書』を作ってください。どんなジャンルの本を出版するか決めておかなければいけませんからね。それが出来たら次は『あらすじ』『箱書き』『プロット』の順に作っていきましょう。それと並行して『プロットを元に実際に執筆していく作業』を始めてください。ここまでの流れがいわゆる『企画作り』ですね」
俺の担当編集になったばかりの新人女性編集者・七瀬葵がまくしたてる。見た目とは裏腹に仕事熱心な子らしく、「ビシバシ指導していきますよー!」なんて言って張り切っているのだ。正直かなり鬱陶しいが、それでも憎めない。
変幻自在な性格と容姿。
それは、まさにカメレオン!
「君、面白いね!」
「お兄さん優しいから好きー♪」
「俺様がついてないとダメみたいだなぁ?」
「ああんもう可愛いわねぇ~♪」
「お前の気持ちには応えられねえよ……」
「ごめんなさい……どうしても好きなんです」
「オレさ、お前のこと好きだぜ? 付き合ってくれよ」
「あたし、あなたのことずっと見てたの。だから……その……あのね?」
「ふむ、なかなか良い趣味をしているじゃないか。君は見所がある」
「おぉおお!! すげぇじゃねぇか! 見直したぞ!!」
「そうですか? ありがとうございます」
「おいテメェふざけんなよ!? なんで俺ばっか狙うんだって聞いてんだよッ!!!」
「あら、まだ生きてたんですね。しぶといなぁ」
「アンタなんて大ッキライ!」
「あぁん!?テメェの方が大ッキラいだろーが!!」
「はああ!?こっちだってオマエなんか嫌よ!!バーカバーカ!!!」
「うるせぇ!オレ様の方こそテメーなんざ願い下げだよクソブスッ!!」
「フンッ!……あっそ!もう知らないからねっ!!」
「ハッ!上等じゃねぇか!!勝手にしろ!!」
互いに睨み合いながら、二人はその場を去った。