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現パロ/リオヌヴィ体調不良ネタ/サラッと出る同棲設定。リが体不です/嘔吐表現🐜、設定的にはリオ(大学)→→→←(←←←←)ヌヴィ(大手企業の社長)/かなり暗いところで終わる。続きちょびちょび出します
あぁ、こりゃまずいな、と起きてすぐさま悟った。視界がどうもぼやけるし、頭がとにかく痛む。ベッドの中は相当暖かいはずなのに体が異常に震えて仕方なかった。でもどうにか連絡だけでもしなければ、と思って床へ足を下ろした。そして、ノブへ手をかけた刹那。
「リオセスリ殿、起きているか?」
すーっと春風が吹くかのように耳で踊る、恋人の声が聞こえた。心配するように彼はドアの前で首を傾げているんだろう。その顔を今すぐにでも見たいのは山々なのだが、今自分の表情を管理できる確証はない。というか、今自分はとてつもない顔をしている気がする。ダメだ。こんなところあの人に見せられるわけがないだろ。
「……あぁ、おはよう。ヌヴィレットさん」
「随分遅く起きたのだな。それで……。君は今日講義があるだろう、送っていこうか」
「あー、いや、少し体調が悪くてだな。2限目から行くことにするよ」
「わかった。安静にして、道中には気をつけて行きなさい。……しかし、顔だけでも見せてくれないか、心配なのだ。」
きゅーっ、と悲しそうに下がった声色にリオセスリは顔を歪めながらも首を横に振る。
「すまん、移したら悪ぃから。ヌヴィレットさんも気をつけてくれ」
「…………そうか。それでは、行ってくる」
「いってらっしゃい」
がた、がたと階段をゆっくり下る音が聞こえる。あーぁ、悪いことしちまったかもな。ドアに頭をがん、とぶつけてリオセスリは悲しげに目を細めた。先程から微かに震えていた足に鞭打って再度ベッドへ向かう。が、いくらシーツをかけた所で一向に温まらない。ふる、と身体を震わせ、リオセスリは胎児のように体を丸めながら目を閉じる。ガンガンと唸る頭を無視して愛しい人の姿を思い浮かべ眠りについた。
ぱた、ぱた。
本の頁をめくる音が聞こえる。眠りからふとさめ、不思議に思ってベッドへ腰掛ける何者かに手を伸ばす。ひらりとくうを空ぶったと思った手は、その何者かに拾われ肌に触れた。随分リアルな夢だな、と密かにぼーっと思っていれば突然声が耳に飛び込んできた。
「どうかしたのか。あぁ、何か飲料でも持ってこよう」
「ん、ヌヴィ…レットさん、?」
「ふふ、忘れたとは言わせないぞ。さ、水を汲んでくるから少し手を離してくれるか」
ぱっと花を咲かせて笑った眼前の彼は見慣れた人だった。いや、こんなとてつもない美人見慣れていいのか。別にいいか。
ひらりとリオセスリの握られていた手から彼はすり抜け、廊下に設置されているウォーターサーバーに手を伸ばす。随分多くいれてくれたようで両手にコップを抱えながら、ヌヴィレットは部屋へ再度足を踏み入れた。そしてひとつのコップのみを手に取り、ベッドサイドへ腰掛ける。椅子に座ればいいものを、いいんだ。と彼は微笑むからこれ以上何も言うまい。
「少し体を起こせるか?気管に入って咳き込んでしまっては大変だ」
「おー…」
「それと、熱が随分あるみたいだな。1度病院で診てもらった方がいい。」
こく、こくと水を飲んでいたリオセスリはその言葉にふ、と顔を歪め嫌そうに呟いた。
「また看護師長になにか言われそうじゃないか。それに、もう”不毛”の味は知りたくないんだが」
「それは君が体調を崩すのが悪い。彼女は君のためを思って施しをしてくれているんだろう。羨ましい限りだ。」
リオセスリの頭を揺らさぬように彼は柔らかく撫で、微笑む。その顔を見てはこの謎の病も飛んでいってしまうと思ったが…まあ、そうは簡単に行かないわけで。
ぐる、と突然喉に異物感を覚え、リオセスリは口元に手を寄せた。水を一気に飲みすぎて喉を刺激してしまったのかもしれない。ゆっくりにしなさい、とヌヴィレットさんに忠告されてさえいたのに。とりあえずトイレに行こうとふらりと立ち上がる。
「どうした?君、顔が青いな、吐き気があるのか」
「少し、吐いてくる。」
「すまない、私が水を渡したばっかりに」
「いい、いいから。」
あ、これ結構まずい。そう思ったのも束の間、胃から這い上がってくる感覚を覚えた。あーあ、あと一歩だったのに。
「っお”ぇ」
ぴしゃっ
水音。
…トイレへの1歩前、そこで情けなくも吐いてしまったようだ。これ、どうするか。まあ、少量なのが唯一の救いだろうか。ふら、と立ち上がりトイレのペーパーへ手を伸ばすとそれは静止された。
「リオセスリ殿、君は寝ていなさい。あぁ、いや1度口をゆすいだ方がいいだろうか。」
口をぐっと白い手で拭われ、リオセスリは片方の手で背中をさすられる。せっかくの綺麗な手が……
「いや、いい。吐いて随分楽になった。これは俺が処理するさ」
「いいや、ダメだ。病人にやらせる訳には行かない」
「いいから」
「リオセスリ」
「………わかったよ」
きっと鋭くなる彼の目線に、両手を上げて降参だ、とでも言うようにすれば早くと急かされ、部屋へと押し戻された。
パタリ、と扉が切なげに閉まる。こんな大人になってまであの人の世話になるのか。あれくらい、俺でも出来るはずなんだがな。うがいをし、ベッドへ潜り込んだあと、朦朧とする頭の中で色々なことを考えていたらどうやら始末は終わったみたいで、扉が開いた。体感では数秒だったはずが、実には数十分経っていたのかもしれない。
「リオセスリ殿、体調は」
「あー、大丈夫だ」
「……なぜそうやって君は私に不調を隠すんだ。私は信用ならないだろうか?」
悔しそうに目を顰め、ヌヴィレットさんはそう零す。そんなわけ、ないだろ
「君のためなら仕事だって抜け出す、休みを取ったっていい。そう、今日だって休みを取ったんだ。ナヴィア殿に電話をかけて、君が2限目になって、きたかどうか。それを聞いてここに来た。…次回からでいい、頼ってはくれないだろうか。私は君の役に立ちたいのだ」
次回なんてない方がいいがな。とヌヴィレットさんは切なげに呟き、俺の手を優しく握った。ヌヴィレットさん、と彼の名前を呼ぼうと口を開いた瞬間、それは阻まれる。直接口に触ったわけじゃない。彼の手によって視界が遮られた、その驚きでひゅっと息が詰まったためだ。どうして、と思考していれば、ふいにベッドサイドから重みが消える気配がした。
「……あぁ、もういいんだ。おやすみ」
呆れか、はたまた失望か。どちらにせよ、幸せな感情は含まれていない、そんな哀しい声色でヌヴィレットは呟く。
空ぶった手が、次に掬われることは無かった。