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番外編
数年後。
あの屋上には、もう簡単には入れなくなっていた。
でも――
「ここ、変わってないね」
元貴はフェンスに手をかけながら言う。
無理やりじゃない。ちゃんと許可を取って、久しぶりに来た場所。
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「当たり前でしょ」
隣で涼架が軽く笑う。
背も少し伸びて、雰囲気も前より大人っぽくなっている。
でも、変わらないところもある。
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「元貴は、変わったけどね」
「どこが?」
「いろいろ」
少し意味ありげに言う。
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「そっちこそ」
元貴は少しだけ距離を詰める。
「前よりズルくなってない?」
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「どういう意味?」
涼架が目を細める。
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「なんかさ」
元貴は視線をそらしながら言う。
「前より距離近いし…」
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一瞬の沈黙。
次の瞬間――
「それ、嫌?」
すぐ近くで、低い声。
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気づいたときには、かなり近い距離にいた。
前よりもずっと自然に、当たり前みたいに。
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「…嫌じゃない」
元貴は小さく答える。
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「じゃあいいじゃん」
涼架は少しだけ笑う。
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昔は、触れるか触れないかでドキドキしていた。
でも今は違う。
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涼架の手が、当たり前のように元貴の手を取る。
指が、軽く絡む。
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「ほんと変わんないね、こういうとこ」
元貴が少し照れながら言う。
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「変わってるよ」
涼架が静かに返す。
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「前より、ちゃんと遠慮しなくなった」
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その言葉に、元貴の心臓が強く鳴る。
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「…ずるい」
ぽつりとつぶやく。
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「元貴が言ったんでしょ」
少しだけ近づく。
「離れるのは嫌だって」
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もう、逃げ場はない距離。
でも、不思議と安心する。
「だからさ」
涼架が小さく言う。
「今はこうしてる」
元貴は少しだけ目をそらして、でも笑う。
「…ほんと、変わったね」
「元貴もだよ」
風が吹く。
あの頃と同じ場所。
でも、関係はちゃんと変わっている。
「ねえ」
元貴が少しだけ真剣な声で言う。
「これからも、ずっと一緒にいる?」
一瞬の間もなく、涼架は答えた。
「いるよ」
その声は、迷いがなかった。
「むしろ、離す気ないから」
元貴は一瞬固まってから、笑った。
「じゃあさ」
少しだけ強く手を握る。
「俺も、逃げないから」
夕焼けが、ふたりを包む。
昔よりも少し大人になった距離で。
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でも、気持ちは変わらない。
むしろ――
前よりずっと、強くなっていた。
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