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ランドルフ帝国の王宮―――
その皇族専用の区画の一室で、皇帝との会談が
開かれていた。
相手は、新生『アノーミア』連邦の宗主国の
第九王子、エンレイン・マルズ。
そして婚約者であるワイバーンの女王……
ヒミコも参席していた。
「……マルズ国とは、帝国であった頃からの
友好国であった。
最近は疎遠になっていたようだが」
マームード皇帝は、孫を見るかのような目で
エンレイン王子とヒミコ女王を見る。
「今は連邦制を取っており―――
マルズはその中の一国に過ぎません」
「新たな関係を築くため、この度はこうして
参った次第」
淡い紫色の短髪の、幼い面影を残す青年と、
真っ赤な長髪と抜群のプロポーションを持つ、
女性ながらにして長身のカップルが皇帝と
対面で座っていた。
「とは言え、新生『アノーミア』連邦の
代表として来られているのであろう。
して、そちらからの要望だが……」
そこで皇帝は一枚の書類に目を通し、
「先に会談を行った、ウィンベル王国とほぼ
同じであるな。
帝国はマルズとの国交を完全に絶った
わけではない。
ただ海の向こうという事もあり―――
年に一度程度しか、使者を送っては
来なかったが。
往来を増やす、という事か?」
「はい。互いに意思疎通を欠くというのは、
今回のような行き違いを生みかねません。
とはいえ、我が国には渡海能力のある
船はまだありませんので……
そこはランドルフ帝国頼みとなりますが」
マームードの問いに、エンレインはやや
緊張しつつ答える。
皇帝は彼から隣りの女性へと視線を変え、
「そなたは……ワイバーンの女王といったか。
ヒミコ殿、そちらからは何か無いのか?」
『無いわけがない』という前提で―――
マームードは彼女に問う。
「……今回、私は夫の補佐・支援という形で
この会談の場におります。
その夫が何も言う事が無いのであれば、
私にも言う事はありません」
その発言に周囲はざわめく。
ヒミコがワイバーンであるという事は、
最初の謁見の場ですでに明らかになっている。
しかも立場はワイバーンの『女王』。
そして帝国におけるワイバーンの扱いは、
ティエラ王女経由で知っているはずであり―――
不満が無いはずは無かった。
そこで皇帝とその側近に共通認識が出来上がる。
話し合いや交渉が可能な事もさることながら、
ワイバーンは『公私』を分けられる。
それは自他の立場を尊重する事が出来……
かつ自重し、冷静に折衝を重ねる事が可能だと
いう事だ。
それは高機動かつ圧倒的な破壊力を持つ、
ワイバーンの印象を覆すには十分で、
「……そうか。
だが、ワイバーンの女王がせっかく来たのだ。
帝国のワイバーンに対し、余が便宜を図れる
事があれば聞こう。
何でも言ってみるとよい」
するとヒミコはエンレインといったん視線を
交えた後、
「では、二つほど……
一つは、卵や雛を親と離していると
聞き及んでおります。
どうかそれは改善して頂きたく」
「うむ」
皇帝はうなずくと、片手を側近に向ける。
「ハッ!」
「ただちに!!」
それだけで、皇帝の命を実行すべく、
複数の人間が走り去った。
「そしてもう一つは―――
どうやら、私には他のワイバーンを
人間の姿に変える庇護があるようなのです。
そこで今しばらく、帝国のワイバーンと共に
暮らす事をお願いしたいのですが」
「よかろう」
ヒミコのお願いをマームードは即座に
許可するが、
『それは……』
『少し考えた方がよろしいかと』
と、側近たちの中から反発の声が上がる。
どうやらワイバーンの女王が帝国のワイバーンと
交流する事で、反旗を翻す可能性を恐れている
ようだが、
「彼女―――
ヒミコ殿は、武力に訴えず脅しもせず、
ここにこうして交渉に応じておる。
帝国の恥を晒すでない」
皇帝の言は重く、側近たちは押し黙る。
マームードはフッ、と一息吐くと、
「エンレイン王子殿。
そちらには何か」
その申し出に彼は少し思案していたが、
「私の前に会談した……
ウィンベル王国は、一度代表者が集まっての
会議を要望しませんでしたか?」
「うむ。
ライオネル殿から、各国の使者、代表者と
帝国の重鎮を交えての交渉の話はあったが。
それが何か?」
それを聞くと、彼は軽くうなずいた後、
「―――そこへ、アストル・ムラトを
同席させる事をお願いいたします」
その言葉に、再び側近たちの間にざわめきが
広がった。
「どうですか、土精霊様」
「成長を促進させましたから、
もういくらか収穫しても大丈夫ですよ」
グリーンの短髪にエメラルドの瞳をした
美少年が、畑を前に答える。
ここは帝都郊外にある田園地帯で―――
例の『奴隷殺し』栽培の件を帝国に伝えた
ところ、
検証用という事で、畑の一角を貸してもらう
事が出来たのである。
「ていうか他の人たち、すごい目で見てたね」
「『奴隷殺し!?』『アレをか!?』って
半信半疑どころではなく……
正気を疑うような目をしていたからのう」
「ピューイッ」
アジアンチックな外見の妻と、欧州モデルの
ような体形の妻二人が会話に参加してくる。
「まあ無理も無いかなあ……
こっちで言えば『奴隷殺し』って、
食材であると同時に魔物だし―――
私が向こうで、食人植物を
増やそうって言い出すようなものだからなあ」
そう言うとメルとアルテリーゼは
うんうんとうなずき、
「あー……
確かにシンでもそりゃ引くわー」
「『何をする気だ?』って思われるで
あろうのう」
「ピュウゥ」
家族も同調するが、それで納得してくれて
良かったのやら悪かったのやら―――
「さて、と。
他の人たちにも収穫を手伝って欲しい
ところだけど……」
何せ『奴隷殺し』だからなあ。
安全に品種改良されましたって言ったところで、
先行したイメージはなかなかぬぐえない。
私が両腕を組んでうなっていると、
「ねー、先に土精霊様を連れて、
いろいろ手伝って来るというのは?」
「せっかく来てもらったのだ。
彼がいれば、話も通りやすいであろう」
そうだ。
せっかくのスペシャリストがいるんだし、
そこで能力を使ってもらえれば―――
不信感も無くなるかも知れない。
「よろしいでしょうか、土精霊様」
「専門なので、ボクは構いませんよ」
こうして土精霊様の快諾を得ると……
他の畑を『手伝う』事にした。
「本物の精霊様だ―――」
「枯れかけていた木が、一瞬で蘇った!」
「ウチの畑も……
精霊様の助言とお力で、見違えるように
変わったぞ」
あちこちで土精霊様と一緒にお手伝いしてきた
からか、すぐに協力を申し出てくれる人たちが
十人弱ほど出来た。
私は集まってくれた協力者たちを前に、
「では、私がこれからここの『奴隷殺し』を
収穫しますので―――
それを見ていてください。
とはいえ、他の野菜類とあまり変わらないと
思いますが」
一応、軍手のような手袋を着け……
地面に出た葉っぱを目印に、その下を掘り進む。
大根のような形状のそれをゆっくりと引き抜き、
それを掲げるようにして見せると、
「と、このように普通に収穫出来ます。
この通り襲ってくる事はありませんし、
毒もありません。
これは土精霊様のお力により品種改良された
ものでして―――」
私の説明に、他の農家の人々はジロジロと
『奴隷殺し』を見ながら、
「この無数の手のような蔓は……
確かに『奴隷殺し』だ」
「俺は本物は知らないが、こんな野菜見た事は
無いな」
「安全だという事はわかった。
じゃあ、収穫を手伝えばいいんだな?」
「お願いします」
と、頭を下げると―――
それぞれが収穫作業に入ってくれた。
「……というわけで出来上がったのが、
この『奴隷殺し』の料理です」
あの後、国や種族ごとに改めて部屋が用意され、
宿泊部屋が別々となったのだが、
謁見前や交渉前に集まる『待機部屋』は
そのまま使用しても良いという事だったので、
そこでみんな集まり、試食会を開く事になった。
「スープですか」
「でも、すごくいい匂いです」
ブラウンのロングヘアーのラミア族、
エイミさんと……
その専属奴隷兼許嫁の少年アーロン君が、
まず感想を口にする。
「嗅いだ事のない匂いだが、美味しそうだ」
「かなり強い匂いですが、食欲をそそります」
赤髪のアラサーの中年、ケイドさんと、
その妻である―――
魔狼の毛皮と同じダークブラウンの長髪を持つ
リリィさんが続く。
「まあ、とにかく食ってみようや」
筋肉質の、白髪交じりのグレーの短髪の
王族、ライさんの号令で、みんながそれに
口を付けた。
「これはすごいだべ!
透明に近いのに、こんなにしっかりと
味がついているなんて」
ずんぐりした体形の熊型獣人、ボーロさんが
スープを一口飲んで驚く。
「あの出汁とは、また違った風味が
しますねえ」
「はい。
ウィンベル王国でも経験した事の無い
味ですわ」
人魚族のスクエーアさんと、
ロック・タートルのオトヒメさんも、
未知の味わいに目を丸くする。
「味噌汁とは味が異なりますが……
どこかホッとする味わいです」
「あなた、これ―――
後でここの仲間たちに持っていって
あげましょう」
エンレイン王子様とヒミコ様にも好評のようだ。
「ああ、ヒミコ殿は……
こちらのワイバーンたちに会う許可を
もらったのだったな」
薄黄色の巻き毛の少年、魔王・マギア様が
外見とは裏腹の大人びた口調で語り、
「となると―――
ここのワイバーンたちも、人の姿になる日は
遠くないでしょう」
「そういえば、わたくしどもの皇帝との会談は、
明日でしたっけ」
マギア様の両隣りで二人の女性……
やや外ハネしたミディアムボブの、パープルの
髪をしたキャリアウーマンのような雰囲気を持つ
イスティールさんと、
褐色の肌とは対照的な、銀の長髪をした
オルディラさんが皇帝との直接交渉について
話す。
「私たちやエイミさん、他の亜人や人外は
いつになるんだろーね」
「そっちは別枠だと聞いておるがのう」
「ピュッ!」
家族がその話題に入るが、
「まあ国家の代表と種族代表じゃ、
扱いが異なるからなあ。
そのうち担当者が宛てられると思うが、
それまで待機していてくれ。
それより―――
あっちの料理は何なんだ?」
ライさんが、別に用意されたテーブルの
料理を指差す。
「ああ、『奴隷殺し』は味付け用と聞いて、
まずは細かく刻んだものを入れたスープに
してみたのですが。
それが本来の使い方らしいので……
ただ量が確保出来ましたので、刻むのではなく
すり潰して、そのままお粥状のスープにして
みたんです。
まあ濃いスープ、とでもいいましょうか」
説明しながら、家族と一緒に各自に渡していく。
先ほどまで飲んでいたスープは、細かく刻んだ
『奴隷殺し』を煮込むだけで―――
まるでコンソメスープのような味に変化した。
そしてすり潰し、トロリとした食感となった
こちらのスープは……
「―――!」
ライオネル様がまず大きく目を見開き、
「これは……」
「食べた感じとしては、豆乳に近いですね。
それにすごく甘みがある……!」
エイミさんとアーロン君が評価する。
「いやはや、驚きましただ。
さっきのスープは野菜の旨味を凝縮したような
香りが、飲んだ瞬間しただべが……
これはまるで温かい野菜汁ですだよ」
ボーロさんも続いて味レポをしてくれる。
ほんの少量でコンソメスープの味わいを出した
『奴隷殺し』は―――
すりおろしてペースト状にし、水と一緒に
煮込むと、ポタージュのようなものへと
変化した。
「ボクは先に味見したので知ってはいましたが、
あの野菜だけでこんな味になるんですね」
土精霊様がスプーンでそれを口に運び、
「でも魔物って話だったけど……
調理して大丈夫だったの?
痛く無かったのかな」
青髪のウェービーヘアーの人魚が、専用の
移動式バスタブのような物に入りながら
心配するが、
「もともと、植物系の魔物は痛みを
感じないので、大丈夫です」
土精霊様の答えに、思わず私が聞き返す。
「あの、プリムさんは―――」
「あ、プリムさんは別ですよ?
彼女も上半身は人間に近いですので、
そこは普通に感覚があります」
彼の答えに、周囲も『へえ』『ほー』と
感心する。
確かに、上半身は人間の姿だし……
カテゴリーとしては亜人になるのだろう。
「そういや、プリムで思い出したけど、
これで全部ウチのところの亜人や人外を
紹介した、って事にはならねーのか」
ライさんがガシガシと頭をかき、
「アラクネのラウラさんや―――
フェンリルのルクレさんもいますからねえ。
羽狐たちも。
まあ、彼女たちは次の機会に来てもらう事に
しましょう」
こうして後は雑談に興じ……
『奴隷殺し』の試食は終わった。
「ふむ。これが―――」
その夜、皇帝以下王族に……
『奴隷殺し』を使った料理が卓上に上がった。
「品種改良した土精霊様の話では……
魔物という事もあり生命力がかなり強く、
どんな痩せた土地でも育つでしょう、
という事で―――
帝国の新たな名物になる可能性も秘めて
おります」
ティエラ王女が末席からマームードに説明する。
「味は極上だな。
奴隷の命と引き換えにしてでも……
という気持ち、わからんでもない」
「土精霊様って、謁見の場にいたあのキレイな
少年ですよね?
今のうちに、王族の誰かと婚約でも」
皇帝に最も近い席に座る男女―――
恐らく皇太子とその妃が話題を振るが、
「この場で政治的な話は無粋であろう。
時に、お前たちの子は元気か?」
皇帝の問いに、第二太子夫妻が静かにうなずき、
「はい。健やかに育っております」
「そういえば、あなたの息子はいかがですか?
もう生まれて1年になるというのに、まだ
病弱で公の場に顔も出せないとか……」
話を振られた第三太子夫妻の顔が曇る。
「生まれつき体が弱くて……」
「それでも、帝国最高の医師がついていて
くれますゆえ」
ぎこちない微笑みで何とか返すも、
「『先祖返り』―――
という噂もあるが、それは真か?」
皇太子の言葉に、一瞬場が静まり返る。
「……控えよ、余の前であるぞ」
皇帝マームードに全員が振り向き、頭を下げる。
「根も葉もない噂など口にするな。
それにもし『先祖返り』だったとしても、
余の可愛い孫に変わりは無い。
さあ、料理を楽しもうぞ」
その一言で場は和み、食事が再開された。
「お客様? こんな時間に?」
私と家族が用意された一室で目を覚ましたのは、
恐らく日が明ける二・三時間前の事だった。
たずねてきたのは、ティエラ王女様。
人目につきたくない―――
口外法度の相談を持ってきたのは確実で、
とにかく中へ招き入れる。
そして彼女の口から、来た理由が語られた。
「……先祖返り、ですか」
「はい。
我がランドルフ帝国の皇族には言い伝えが
ありまして―――
初代皇帝はドラゴンと血を通わせたとあり、
わたくしどもはその子孫であると」
私はアルテリーゼに視線を向けると、
眠ったままのラッチをその腕に抱いたまま、
「別段、珍しい事ではないぞ?
こうして我も、シンと結婚している
わけだし」
そして今度はティエラ王女様へと向かい、
「うむ。
確かにドラゴンの血が混じっておるようだ。
かなり薄まっているようで、これまで
気付かなんだが、同族の血を感じるでな」
「へー、そうなんだ。
じゃあ、アルちゃんのいた巣にいる
誰かの子孫って事も?」
メルが興味本位で彼女に質問するが、
「どうであろうなあ。
いくらドラゴンとはいえど……
何の休憩地点もなく、あの海を渡り切る事は
無理ぞ?
人間の姿で船に乗って、ならわかるが」
「まあ、それはともかく―――
その先祖返りがどうかしたのですか?」
私が話を元に戻し、王女様に問いかけると、
「実は、第三太子の子供が、1年ほど前に
産まれたのですが……
この子が『先祖返り』と言われており、
それでシン殿に相談したく」
「いえ、でも何で私に相談を?」
するとティエラ王女様は少し視線を反らし、
「え、ええと―――
こちらでもいろいろと情報収集しました。
そこでシン殿は、これまでに数々の難題や
事件、呪いに至るまで解決したという事を
聞きまして」
本当の能力は『自分の常識外の事の無効化』
なので、たいていのケースは確かに解消出来た
けど……
しかしさすがに国家規模だと、いろいろと
諜報は行っているんだなと感心する。
それはそれとして―――
「……先祖返りだと、何かマズい事でも
あるのでしょうか」
言いにくい事だが、聞いておかなければならない
事でもある。
私の問いにティエラ王女様は、そのパープルの
揃えた前髪を揺らし、
「いえ、むしろ『先祖返り』は喜ばしい、
誇らしい事と言われております。
先祖の血が色濃く蘇という事ですから。
ですが……」
そこで彼女は視線をいったん落とし、
再び上げる。
「これは、見て頂いた方が早いかも知れません。
今から同行して頂けますでしょうか」
こうして私たちは、王宮内の一室へと
案内された。
「これは―――」
その部屋で、小さくはあるが豪華なベッドに
横たわって眠る、赤ちゃんを紹介される。
そしてその両親と思われる、いかにも身分の
高そうな二人は、ただ不安そうに私や家族、
ティエラ王女様にすがるような視線を向け、
「名も名乗らぬ無礼をお許しください」
「他国の使者を巻き込む事になるので、
詳しい身分は明かせないのです」
夫婦は揃って頭を下げ、謝罪する。
「2人は皇族であり、わたくしのような末端とは
比べようも無い身分です。
どうかお気を悪くしないでください」
確かに、後継者争いや皇族の何らかの厄介ごとに
巻き込まれるのはカンベンだ。
お互いの立場上、何も知らない方が
ベストなのだろう。
「男の子ですか?」
「見た目は、普通の赤子と変わらぬ気がするが」
メルとアルテリーゼが赤ちゃんをのぞき込む。
別にこれといって何の目立つ特徴も見られない、
普通の赤ん坊に見える。
すると、母親であろう女性が赤ちゃんを抱いて、
その背中をこちらに向けると―――
「!」
「これは……ウロコ?」
「うむ、ドラゴンの鱗じゃな」
背中にびっしりとそのウロコはあり、
「前や、今は目立ちませんが顔にもうっすらと
ウロコが浮かんでくる前兆があります。
このまま……では……」
そう言って母親は声を詰まらせ―――
慌てて父親であろう男性が支える。
確かに背中、そして顔にもウロコが現れると
なると……
いくら誇らしいめでたいとは言っても、
親としては納得のいくものではないだろう。
外見や見た目が異なるというのは、それだけで
迫害や差別の対象になる。
いくら皇族とはいえ、どんな人生を歩むかは
容易に想像出来た。
するとメルがトントン、と俺の肩をつつき、
「(シンの能力なら―――
何とか出来るんじゃない?)」
「(出来るとは思うけど、条件が……)」
「(む? 何か問題でも?)」
家族でひそひそと話していると、余計に不安に
なったのか夫婦が、
「あのう、『万能冒険者』殿に相談に乗って
頂けると聞いたのですが」
「やはり、どうにもならないでしょうか」
絶望したような表情の二人に、私はブンブンと
首を左右に振り、
「失礼しました。
えーと、ちょっと『治療』してみますので、
少し離れて頂けますでしょうか?
その代わり、ラッチをお願いします」
と、その夫妻と王女様に眠ったままのラッチを
任せると、少し離れた場所で待機してもらう
事にした。
「どったの、シン?」
「条件がどうとか言っていたが」
そこで私は、小声で二人に心配を明かす。
「まず、先祖返りは帰先遺伝と言って、
私の世界にも普通にあった事なんだ」
だから前提条件として、『先祖返り』そのものを
無効化する事は出来ない、と告げる。
「そうなると、それ以外を条件としなければ
ならないわけだけど、
ただ自分の能力は、実際私自身でも
よくわかっていないからね。
今でこそある程度条件を絞る事が出来るけど、
それでもドラゴンが関わっているとなると」
ドラゴンとのハーフはいずれ―――
私とアルテリーゼの間にも出来るだろうし、
もしドラゴンの血そのものを無効化した場合、
今後どのような影響が出るかわからない。
この場にアルテリーゼもラッチもいるのだから、
下手をすると二人がその条件内に入ってしまう
可能性もあり―――
よく考えて答えを出さないと、と説明する。
範囲もある程度絞れるように練習した事も
あるが、それとて絶対安全確実だと保障された
わけでもない。
さすがに身内が絡むとなると、不確定要素は
なるべく排除しておきたいからな……
「無効化、だからのう。
それは確かに―――」
アルテリーゼが両腕を組んで悩む。
しかし、そこでメルが、
「もー、シンは難しく考え過ぎだよ。
シンの世界に、ドラゴンはいなかったん
でしょ?」
「え? あ、ああ。
想像上でしか……」
「当然、ドラゴンみたいな人間もいないん
だよね?」
「う、うん」
コクコクとうなずきながら相づちを打つ私に、
彼女は続けて、
「じゃあさ、シンプルに―――
『ドラゴンの特徴を持つ人間など
あり得ない』
じゃ、ダメなわけ?」
そこで私とアルテリーゼは顔を見合わせ、
「確かにそれなら―――
特徴だけを無効化するわけだから、
ドラゴンの血を受け継いでいようが
ハーフだろうが何だろうが、関係無い」
「おお、なるほど……!
こういう時メルっちは頼りになるのう!」
ラッチはまんまドラゴンだし、アルテリーゼも
人間の姿の時は、ドラゴンの特徴は無い。
ドヤ顔で胸を張るメルに私は『ありがとう』と
告げ、さっそくベッドの上の赤ん坊に向き直り、
「ドラゴンのウロコや特徴のある人間など―――
・・・・・
あり得ない」
そう私は小さくつぶやく。
そして離れた場所で待ってもらっていた夫妻と
王女様を呼び、
「すいません、こちらへ来て頂けますか?」
私の呼びかけに、三人はすぐにやって来て、
「え、ええと」
「ど、どうすればよろしいでしょうか」
困惑しながら聞いてくる夫妻に、
「まず、抱いてみてもらえますか?」
その言葉に夫婦は顔を見合わせるが、
母親がおずおずと赤ちゃんを抱き上げる。
「……え?」
赤ちゃんの背中をさすり、そして今度は
胸やお腹、そして顔に何度も触れ、
「あ、あなた……!」
「お、おお……!
これは……!?」
赤ん坊を抱いたままこちらに背を向ける。
恐らく、衣装を脱がせているのだろう。
父親の方も、その目で体中の鱗が無くなった事を
確認し―――
そして母親は改めて我が子を抱きしめ、
「あぁ……!
ああぁ、ああぁああ……っ!!」
しゃがみこんで、人目も憚らず泣き始めた。