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どっちのタルトもおかわりしたかった、と盛り上がったところで、店の前にハザードランプを点けてタクシーが停車した。


穂乃里がドライバーに軽く頭を下げてから、


「ほんとに乗っていかなくていいの?」

「近いから大丈夫。逆方向だし。歩いてちょっとでもカロリー消費する」


穂乃里は笑って頷くと、またねと声をかけてタクシーに乗り込んだ。


それに手を振って、雪緒も傘を差して歩き出した。


お洒落で感じのよい店で、美味しい料理を楽しみ、ようやく気分が上向きになった。


気に入った店が徒歩圏内にあるのは嬉しい。傘に当たる雨音すらも楽しいリズムに感じられる。


あと2日働いたら休み、と前向きなような後ろ向きな励ましを自分に聞かせつつ夜道を歩く。


自宅マンションに向かう通路に差し掛かり――雪緒は足を止めた。


植栽の植わった花壇に、郁が腰掛けてこちらを見ている。雨に打たれながら。


唖然として立ち竦む雪緒の前で、郁が億劫そうに立ち上がる。全身、余すところ無くびしょ濡れだった。

前髪をかきあげて、目をしばたたかせる。


「おかえりなさい。――って、言うの二回目か」


直前にここに来たような濡れ方には見えない。


あれからずっとここにいたの? ――なんで?


「……なんで?」


雨音に紛れそうな声で問う。郁は不思議そうな顔をして、


「話がしたいって言いましたよね? 最初から」

「そうじゃなくて……」


脇の道路を、車が水音を立てて走り去っていく。雪緒は眉根を寄せて郁を見た。


一瞬、頭を過ったのは「怖い」という感情だった。夜に、家の前で、こんな状態で男に待ち伏せされたというシチュエーション。


ただ、相手が夫の弟であること、年下であることがそれを緩和もしていた。おまけに、捨てられた犬みたいにびしょ濡れだ。――計ったように、郁がくしゃみをした。


思わず苦笑いしてしまう。

まだ秋とは呼べないまでも、夏も終わりかけだ。ひっきりなしに水浴びするのに適した気温ではなかった。


「寒いでしょ、さすがに」

「寒くな……寒い」


体を抱くようにして、郁が目を逸らす。



好きだったのはきみじゃない

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