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あぁぁぁ!幸せ!!🤦🏻♀️💙❤️
食後に淹れたコーヒーを飲んでいると、両手でマグカップを持った阿部がまた、俺と翔太の前に身を乗り出して来た。
「お二人がお付き合いするようになったお話聞きたいです!」
「俺が専門学校卒業して、近くのカフェで働いてた時だったね」
「うん、俺らのデビューが決まったとき。」
「翔太が遊園地のお城の前で告白してくれたの」
「王子様みたい!渡辺さん有言実行されたんですね!」
涼太が、料理の専門学校を卒業して近所のカフェで働き始めた頃を同じくして、俺はまた、メンバーと一緒に会議室に集められた。
あの日、グループを結成すると言ったあの人が、あの時と変わらない声のトーンで言った。
「君たちのデビューが決まりました。先輩のライブでお披露目になります。それから、来週からテレビ出演増えるよ。ここまで辛いこともたくさんあったかもしれないけど、よく頑張りました。本当にありがとう。ここからが本番だから、今まで通り、君たちらしくね。みんななら、きっとたくさんの人に愛してもらえるよ。」
突然の知らせに、みんな大声で叫んで喜んでいた。
こいつらと一緒に活動するようになって、5年が経っていた。
あっという間のようでとても長い年月だった。
もちろん俺も嬉しかった。しかし、これは現実なのかと、信じられない気持ちもあった。
なにしろ、ここまで来るのに、11年もかかったのだ。
オーディションを受け続けた小4年の時から、毎日無我夢中で踊り続け、仲間ができて、今日まで夢に向かって走って来た。デビューできるのだろうか、俺はこのままずっと咲けないまま終わってしまうのではないかと不安になる日もあった。
それでも、あの日決めた自分との約束と、涼太の存在があったから、今日まで頑張って来られた。
目の前の偉い人は、俺たちを労ってくれたあと、自分の隣に立っていた人を紹介してくれた。
「これから忙しくなるから、君たちには専属のマネージャーがつきます。さぁ、自己紹介して」
「深澤辰哉です。これからよろしくね。」
色白でひょろひょろのやつだった。
年は俺たちと同じくらいに見えるが、なんだか仕事ができそうな奴、という感じがしたし、マネージャーなんて今までいたことがなかったから、こんな贅沢していいのかな、とも思った。
ふっかから来週からのスケジュールのついて説明を受けたあと、解散になった。
一番最初のテレビ番組の収録が始まれば、そこからはずっと忙しいから、最後の一週間は休みにしてあると言われた。
俺は、この七日間の間で、涼太に全部を伝えようと思った。
俺は、早速涼太に連絡をした。
「涼太、話したいことがある。」そう送ると、「わかった」とすぐに返事が来た。
日程の調整をして、三日後の涼太の時間を丸一日もらった。
やっと、迎えに行ける。
ついに涼太の隣に立てる男になれた。
しかし、ただ伝えるだけじゃダメな気がした。
それに、俺にはずっと、迎えに行けるようになったら贈ろうと思っていた花があった。
遊園地に電話をして、花束をそこで渡したいから受け取ってほしいと頼むと、職員さんは快く了承してくれた。
俺は花屋さんで目当ての花を注文して、でっかい城がある、その遊園地のチケットを二人分買いに行った。
涼太には、当日の朝家まで迎えに行くと連絡しておいた。
本番までに準備しなければいけないことは山のようにあったが、俺の頭を一番悩ませたのは、やはり涼太になんて伝えようかということだった。
俺はこれまでのことや、言いたかった気持ちを、夜が更けて、朝日が昇るまでずっと紙に書いては消し、消しては書き続けた。
ついに涼太と出かける日、俺は一睡もできないまま涼太を迎えに行った。
「クマすごいけど大丈夫?」と涼太に心配されるほどだった。
今日どこに出かけるかは、涼太には伝えなかった。
それが吉と出るか、凶と出るかはわからなかったが、ただただ涼太を驚かせたかった。
察しのいい涼太のことだから、話したいことがあると伝えただけで、きっと何があるか気付いているだろうなとは思ったが、一回くらいは涼太の驚く顔が見てみたかったんだ。
伝えるのは夕方頃にしようと決めていたので、それまではジェットコースターに乗ったり、ご飯を食べたり、パレードを見たりして過ごした。
涼太は、ずっと楽しそうにしてくれていて、ひとまずこの遊園地を選んでよかったと安心した。
日が暮れかかった頃合いを見計らって、トイレに行ってくると涼太に伝え、城の前で待っていてもらった。
俺はそのまま、事前に聞いていた遊園地の事務所まで行き、受け取っておいてもらった花束を持って、涼太のところへ戻った。
涼太との距離が近付いていく。涼太の姿がだんだんとはっきり見えてくる。
手すりにもたれて俺を待ってくれているその姿はとても綺麗で、歩み寄っていく俺を見つけると嬉しそうに微笑んでくれるその瞳が優しくて、心が詰まって泣きそうになる。
これまでの思い出が全部蘇ってくる。
涼太と過ごした時間、楽しかったこと、悔しかったこと、幸せだったこと、もどかしかったこと、全部が映画のフィルムのように一つに繋がって、すごい速さで俺の脳内に再生される。
ずっと叶えたかったことを今から実行する。
涼太は俺の手を取ってくれるだろうか。
もし、まだ、俺を待っていてくれてるなら、どうか微笑んで。
足が震える。それでも涼太から目が離せなくて、俺はそのまま、引き込まれるように涼太の前に跪いた。
「涼太」
「なぁに?」
「俺、今日、涼太を迎えに来た。やっと涼太の隣に立てる男になれた。ずっと待たせてごめん。もし、まだ涼太が俺を待っててくれてたら、俺の手を取ってほしい。俺と、この先もずっと一緒にいてほしい。ガキの頃からずっと涼太が好きだ。涼太を幸せにさせてほしい。俺と生きてくれませんか。」
そう伝えて、俺は背中に隠していた薔薇の花束を涼太に差し出した。
どんな答えが返ってくるかわからなくて、怖くなる。
下を向きたくなるのをぐっと堪えた。
涼太は俺と薔薇の花束を交互に見てから、ゆっくりと口を開いた。
「遅いよ、ばか。でも、夢が叶ったんだね。おめでとう。」
「ごめん、、11年もかかった。本当にごめん」
「ううん。そんな長い間、俺のこと考えててくれてありがとう、すごく嬉しいよ。」
「うん…」
涼太の言葉が胸に溶け込んでいって、喉元が熱くなる。目が潤んでいくのがわかる。
涼太が今日、俺の手を取ってくれなくても、「嬉しい」と言ってくれたその言葉だけで、十分報われるような気がした。
涼太は突然しゃがんで、俺と目線を合わせてくれた。
俺が差し出し続けていた薔薇の花束を、涼太は受け取って、大切そうに抱き締めた。
「俺もずっと好きだったよ。俺も翔太と生きたい。一緒に幸せになろう?」
涼太の目に滲む涙と、俺の頬に伝った雫は夕日に輝いていた。
遊園地からの帰り道、涼太は唐突に、「今までアイドルになるために頑張ってたんでしょ?」と俺に尋ねた。
「なんで知ってんの!?」と大声で聞き返す俺に、涼太は笑いながら答えた。
「たまたまテレビつけたら、深夜枠の番組で翔太が、デビュー前のアイドルの卵だって紹介されてたの見たよ?詰めが甘いんだから」
不覚だった。
涼太が夜更かしすることは殆どないからと油断していたことが悔やまれた。
同時に、気付いていたのに、俺が告白するまで知らないふりをしてくれていた涼太がいじらしくて、優しくて、愛おしくてたまらなかった。
「見てたのか、、俺、カッコ悪…」
手で顔を覆う俺を見て、涼太は楽しそうに、いたずらに笑った。
「かっこいいよ。俺だけの王子様、迎えに来てくれてありがとう」
月明かりの下で微笑んだ涼太には、胸の前で抱えられた薔薇の花がよく似合っていた。