テラーノベル
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涼太との初デートで告白した話が終わると、阿部ちゃんは椅子から立ち上がり、「ぁ“あっ」と唸ったかと思うと、そのまま床に突っ伏した。
「…あ、あべちゃん……?大丈夫?」
「ふふふっ、阿部はしっかり者に見えて面白いところもあるんだね」
…涼太。流石に面白いだけでは済まないと思うんだけど…。
息してる?これ。
変に能天気なところが、涼太の可愛いところの一つでもあるんだけどね。
俺と涼太は、阿部ちゃんを囲んで、ぺちぺちと背中を優しく叩いてみた。
「阿部ちゃん生きてるー?」
「阿部、こんなところで寝たら風邪ひいちゃうよ?」
「…っは!!すみません。取り乱しました。」
そう言って阿部ちゃんはバッと起き上がって、その場に正座した。
動きがいちいちコミカルで面白かった。
「さて、そろそろ遅い時間だし、お開きにしようか。阿部が良ければ泊まっていっても大丈夫だけど、どうする?明日はお休みでしょ?」
「いえいえ!そんな!悪いです!ただでさえお邪魔してしまっていて申し訳ないですし…!お二人のお話ずっと聞いていたくて、、気づいたらついこんな時間まで…。すみません…。」
「そんなに気にしないで?阿部ならいつでも大歓迎って言ったでしょ?」
「阿部ちゃんならいいよ。あいつらは絶対やだけど。」
「翔太、そんな意地悪ばっかり言わないの」
「む。涼太が取られるのやだ。」
「誰も取らないよ?仮に取られたとしても、翔太が取り戻してくれるでしょ?」
「当たり前じゃん。つか、その前にまず、取られるなんてこと絶対させないし」
「ふふ、なら大丈夫でしょ?」
「〜っはぁ!!ごちそうさまでした!!!」
阿部ちゃんは俺たちのやりとりを見て、背中を大きく仰け反らせていた。
「また、おいで。」
「はい!また続き聞かせてください!お菓子もご飯もお話も、全部ごちそうさまでした!」
「またね、阿部ちゃん」
店先まで阿部ちゃんを見送って、俺たちはまた二階へと戻って行った。
「ねぇ、涼太。」
「なぁに?」
優しく返事をしてくれる、涼太のその柔らかい声に胸がきゅっとする。俺は後ろから涼太をふわっと抱き締めた。
「今日いい?」
と聞くと、涼太は「明日早いんじゃなかった?」と俺を気遣ってくれる。
「平気、それより涼太とずっとくっついてたい。ねぇ、だめ?」
ともう一度お伺いを立てると、涼太は「いちいち聞かないで」と言った。
顔は見えないけど、耳が真っ赤なのが丸見えだった。
かわいい。照れてる。
いつもはあんなに余裕があって、俺のことたくさん揶揄うし、小っ恥ずかしいことも平気で言っちゃうし、阿部ちゃんとかラウールとか康二とかの頼れるお母さん?お兄ちゃん?って感じなのに、こういう甘い雰囲気になるときだけは、いつも恥ずかしそうに照れちゃうところ、ほんとに可愛くて、しょうがない。
俺は早く奥深くまで涼太とくっつきたくて、涼太の手を引いてバスルームへ向かった。
あっという間に次の店休日が来て、阿部とのお茶会の時間になった。
この間、阿部に思い出話をしたあとは、大変だった。
何が翔太のスイッチを押したのかはわからなかったが、翔太は朝になるまで離してくれなくて、翌日はものすごく腰が痛かった。久々だったこともあって、腰はおろか、脚もだるくて、「加減とか衰えとか、そういうものを知らないのか 」と翔太に訴えてみたが、「涼太がずっと可愛くて、気付いたら朝だった」とすっとぼけられたので、翔太の頭を思い切り引っ叩いた。
調理台に立っているのがやっとで、事情こそ話せなかったがラウールに「辛そう…。今日は僕がたくさん動くよ!オーナーはできるだけ座ってていいからね!」と気遣われてしまったのがものすごく居た堪れなかった。
そんなことがぼーっとした頭に蘇ってきて、顔が少し熱くなったのを感じていると、律儀に阿部から「着きました!」と連絡が来たので、下へ降りて店のドアを開けた。
「おはよう。いらっしゃい。」
「おはようございます!お邪魔します!」
ぺこっと可愛らしくお辞儀をする阿部を、店の中へ招き入れた。
「今日は平日だけど、会社は大丈夫なの?」
「はい、溜まってしまった有休を取りきれと上司から言われてしまったので、昨日から日曜日までお休みいただいてます。」
「そうだったの。阿部はいつも働いてばかりだから、少し心配だったけど、まとまった休みが取れる時もあるみたいでよかったよ。」
「変に休んでしまうと、戻る時に体が切り替えられなさそうで不安ではありますが、久しぶりのお休みなので満喫しようと思ってます!」
「働き詰めだと、なかなか目黒さんとも会えないでしょう?」
「あぁ、まぁ、、それは、そうですね…あはは…。オーナーは今、渡辺さんと一緒に暮らしてますが、なかなか会えないこととかありましたか?」
「そうだね、俺たちもやっと付き合えたと思ったらお互いの予定が全然合わなくて、なかなか会えない期間があったな」
「そんな時もあったんですね!」
「俺、自分のお店持つ前にお世話になってたお店があるの。そこで働きながら、他にもバイト掛け持ちしてお金貯めてたんだけど、働きすぎだって翔太に怒られちゃったの」
「そうだったんですね…!確かに働きすぎは心配になってしまいますよね…。」
「うん、すごく心配してくれてた。」
「このお店ができたのは、確か5年くらい前でしたよね?」
「そうだね、オープンして5年経ったね。そうだ、このお店は阿部とも深い関係があるんだよ」
「そうなんですか!?俺とこのお店…どう繋がるんだろう…?」
「またまた長い話なんだけど、聞いてくれる?」
「ぜひ!お願いします!!」
あれは、そう、付き合ってすぐの頃。
あの日、俺の家に突然やってきた翔太はなんだかむすっとしていて、どうしたの?と聞いてみても何も答えないので、ひとまず家に上げた。
その頃はまだ実家暮らしだったから、両親に気付かれないように、深夜に突然やってきた翔太を自分の部屋にあげることに、とても注意を払ったのを覚えている。
キッチンで麦茶を二杯分淹れて、二階にある俺の部屋まで持って行った。
テーブルの上にお茶を置いて、翔太の前に座る。
なにか怒らせることしちゃったかな?と思考を巡らせてみたけれど、思い当たる節がなかったので、翔太が話し始めるのをじっと待った。
しばらくして、翔太がわずかに息を吸う音が聞こえてきたかと思ったら、
「ここ最近、なんでそんなに忙しそうなの?」
と質問された。
俺は翔太の質問の意図が分からなくて、首を傾げていると、翔太は俺の様子を見て言葉が足りないと感じたのか、また話し続けた。
「涼太、なんだか最近涼太いつも働いてる気がして心配。顔が疲れてるし、なんかげっそりしたし、なによりもデート行きたいのに予定が全然合わなくて寂しい。なんでそんなに働くの?」
あ、なるほど。
確かに、今、俺はバイトを3つ掛け持ちしてるから、毎日どこかしらで働いてるし、翔太からいつ空いてる?と聞かれても本当に休みの日がなくて全部埋まっていると答えていた。不安にさせてしまったかなと少し反省した。
それから、まだ、翔太には言えてなかったことがあったので、いいタイミングだから、その話も含めて、今全部白状してしまおうと、姿勢を正した。
「翔太、なかなか時間作れなくてごめんね。たくさん働いてるのには理由があって、少し聞いてくれる?」
「うん」
「ありがとう。」
今まで、自分の両親にしかしたことのなかった話を、翔太にするのはなんだか緊張するけれど、いつかちゃんと話したいと思っていた。俺は、意を決して、口を開いた。
「俺ね、将来、お店持ちたいの」
「お店?」
「うん、自分のお店、カフェを開きたいの。だから、お店の開業資金貯めるために、今はバイト三つ掛け持ちしながら、お世話になってるとこで料理の修行してます。今まで伝えてなくてごめんね」
翔太は「そうだったんだ」と言ってから少し俯いて、「ごめん」と言った。
「どうして翔太が謝るの?」
「俺、自分のことばっかりで、涼太がどんなことやりたいのかとか、涼太の夢の話とか全然聞けてなかったから。」
「いいんだよ、これは俺が叶えたいことなんだから。」
「今まで、涼太が俺のことたくさん応援してくれた分、今度は俺が涼太の夢を応援する番。俺もできること、なんでも協力する。」
「ありがとう、嬉しい。」
「涼太がやる店なら、間違いなく人気になるだろ。それはそれで高校の時みたいに、変な奴が寄ってこないか心配だけどな」
「ふふっ、いいお店にできるように、今は頑張ってお金貯めないとね」
「でも、涼太。流石に働きすぎ。事情はわかったけど、それで倒れたら元も子もないから、せめて週二日は休んで。それから、たまには俺とデートする時間も作って欲しい…。」
翔太の声はだんだんと尻すぼみになっていくが、全部俺の耳に届いていた。
俺を心配してくれる優しさが嬉しくて、自分と会う時間も作ってほしいというわがままが可愛くて、俺は思わず笑ってしまった。
「わかった。無理はしないようにする。それから、なるべく予定合わせるから、これからはたくさんデートしようね?」
そう答えると翔太は嬉しそうに笑っていた。
その日から、翔太は毎日のようにいい物件を探しては、俺にその情報を送ってくれた。
最終的に、すでに建っている建物はどれも決め手に欠けるという結論になって、家を一から建てようという話になった。
そこからの翔太は、立地や商売に向く方角やら風水のあれこれまで考えながら、仕事の合間を縫って土地を探してくれた。
ある日突然、「一階にカフェ作って、俺らで二階に住もう」と翔太が言い出した時は驚いたが、そこまで考えてくれていたことがとても嬉しかった。
通勤する必要がなくなるから涼太の負担が減る、できる限り涼太を経営に集中させてあげたいと翔太は言った。
俺のことを第一に考えてくれること、俺 と生きていこうと本気で思ってくれること、翔太のたくさんの時間を使って、俺とのことを計画してくれることが、この上なく幸せだった。
二人の住処としてぴったりなところを探して、お金を貯めて、たまの休みにデートをして、そんな生活を何ヶ月も送って、ついに見つかったのが、今のこの場所。
日当たりも、立地も、交通の弁も、方角も、風水も全部が良いという好条件な土地を翔太が見つけてくれたのだった。
翌日の朝一番で、不動産屋さんへ二人で駆け込んで、その土地を押さえてもらった。
その後すぐに、翔太は「行きたいところがある」と俺の手を引いて歩いて行ったが、 着いた先は俺の実家だった。
何かうちに忘れ物でもしたのかな?なんて呑気に考えていた。
二人で家に入ると、珍しく両親が玄関まで「おかえり」と出迎えてくれた。不思議に思っていると、母親が「翔ちゃん久しぶり、来るって昨日連絡もらった時はびっくりしたよ! 焦って掃除したから、散らかってるかもしれないけど上がって」と翔太に声をかけた。
連絡してたのか…。いつも思うけど、翔太は用意周到というかなんというか…。
自分で言うのもなんだけど、俺が関係することとなると、途端に行動力が増し増しになる。翔太のそういうところを、俺は尊敬してはいるのだが、翔太はいつでもサプライズで何をするのかは教えてくれないので、俺としてはいつもドキドキしてソワソワしてしまう。
実家に来たはいいものの、俺は翔太が何をするのかは分からなくて、自分の家のはずなのに翔太の後をずっと着いてまわっていた。
リビングのソファーに座る両親の目の前に、翔太は正座して座ったので、俺も真似して同じようにした。
すると、突然翔太は頭を下げた。
「挨拶が遅れてすいません。今、涼太と付き合ってます。俺の一生をかけて涼太を幸せにします。だから、涼太を俺にください。涼太とずっと一緒に生きていきたいんです」
「翔太…」
翔太の言葉に、俺はとてもびっくりした。
まさかこんな、今日挨拶するなんて思ってもいなかった。
たぶん、あの時の翔太は、お店が出来上がる前にけじめをつけておきたかったんだろうなと、今は思う。あの時はすごく驚いたけど、それ以上に翔太の迷いのない声と、意志の強い言葉に泣きそうになるくらい嬉しさを感じたのを今でもはっきりと覚えている。
普段は素直じゃなくて、思ったこともすらすらとは言えない翔太だけど、こういう時はちゃんと言葉に出して、俺が大切だって言ってくれる。翔太のそういうところがかっこよくて、俺は大好きなんだ。
問題は、俺の母だ。
母は怒ると昔の感じが出てきてしまうし、沸点が分からないから、いつどこから竹刀が出てきてもおかしくないのだが、大丈夫だろうか…。
しかし、そんな俺の心配をよそに、母さんも父さんもニコニコしていた。
「翔ちゃんのママからずっと色々聞いてたよ。オーディション受かったことも、デビューできたことも。翔ちゃんはママに伝えてなかったんだろうけど、あんたたちがちっちゃい時から、翔ちゃんがうちの涼太のこと好きでいてくれてたことは、あたしたちも、翔ちゃんのパパもママも、みんな気付いてたよ。まずはデビューおめでとう。それから、こんな子だけど、翔ちゃんが良いなら、もらってやってください。うちの子、ずっと大切に思っててくれてありがとね」
母さんが話し終えると、翔太は下を向いて鼻を啜りながら、小さく「ありがとうございます」と言った。
許してもらえたことに、俺はほっと安心した。
「それで、あんたたちいつから一緒に住むの?」とおもむろに飛んできた母さんの質問に、翔太は「実は、さっき二人で住むための土地を買ってきました。」と包み隠さず答えた。
翔太の言葉と迷いのない目に、母さんは何がツボに入ったのかは全く分からなかったが、ずっと笑っていた。
「それでこそ翔ちゃんだね」と何度も何度も笑っていた。
その日は、父さんが翔太を離そうとしなくて、「飲み明かすぞ、翔くん!涼太も付き合え!」と、日本酒の一升瓶を抱きしめながら騒いでいた。勘弁して欲しいと思っていたのは、どうやら俺だけではなかったようで、そんな父さんを、母さんが「良い加減にしろ!酔っ払いは黙って寝てろ!」とドスの効いた声で叱りつけていた。
…母さん、、、昔の性格出てるよ……。
夜も更けてしまったので、泊まっていけと翔太は母さんに促され、俺たちは一緒に自室へと向かった。
客人用の布団をちょうどクリーニングに出してしまっていたようで、二人で一つのベッドに入った。
すっかり大きくなってしまった俺たちの体には少し狭いくらいだったが、翔太はくっつけるからこの方がいいと言っていた。
多分、翔太はまだ寝ていないだろうと思ったので、話しかけてみた。
「翔太」
「ん?」
やっぱり起きていたみたいで、後ろから返事をする声が聞こえてきた。
俺は、これまでのことを振り返りながら、翔太に伝えたいことを紡いでいった。
「ありがとね。全部嬉しかった。一緒に夢を追いかけてくれることも、一緒に過ごしたいって動いてくれることも、母さんと父さんに思いを伝えてくれたことも、全部全部ありがとう。俺、すごく幸せだよ。」
「俺がそうしたかったから。涼太とずっと一緒にいられるなら、なんでもする。涼太こそ、こんな俺に着いてきてくれてありがとう。すげぇ嬉しい。」
「それこそ、俺がそうしたかったからだよ。」
「涼太、キスしたい。こっち向いて?」
「キスだけね?」
「ぅ…。頑張る…。」
翔太のことだから、きっとキスだけじゃ終わらない気がして先に釘を刺せば、案の定耐えるような、図星を突かれたような、苦しそうな呻き声が小さく聞こえてきた。
翔太とは何度かそういうこともしてきたけれど、流石に実家でするのは、気が咎められた。そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、無理強いはしないところ、俺の気持ちを尊重してくれるところ、翔太のその優しいところも大好きなんだ。
体の向きを変えて翔太の首に腕を回すと、翔太は触れるだけの優しい口付け何度もしてくれた。深く触れれば歯止めが効かなくなるからと、啄むだけのキスをたくさんする翔太の不器用さが愛おしかった。
満足したのか、顔中に降ってくるキスの雨が止んで、薄暗い部屋の中で翔太と目が合った。まっすぐに見つめ返して、翔太へ伝えた。
「今度は、翔太のお母さんとお父さんのところに挨拶に行こう?俺もちゃんと、翔太と生きていきたいって、伝えたいから。」
翔太の頬を両手で撫でてから引き寄せて、俺からも一つ翔太に口付けた。
それから数日経って、俺たちの予定と翔太のお母さんとお父さんの時間が合う時に、お邪魔させてもらった。翔太のお母さんは「涼ちゃん久しぶり!元気にしてた?」と笑顔で迎えてくれた。
それでも、俺はこれから伝えようとしていることを翔太のお母さんとお父さんに許してもらえるかな、と少し怖くて、翔太の手を握った。
翔太は俺を安心させてくれようとするみたいに、俺の手をぎゅっと握り返してくれた。
その強さと暖かさに背中を押してもらって、俺は意を決して、まっすぐ翔太のお母さんとお父さんを見つめて、大きく息を吸い込んだ。
「翔太とお付き合いさせていただいてます。この先もずっと、翔太と生きていきたいです。俺にとって、翔太は世界一番大切な人です。長い時間をかけて俺を迎えにきてくれた翔太と、どこまでも一緒に歩いていきたいです。許してもらえますか?」
翔太のお母さんは、俺が話し終わると翔太のお父さんと見つめ合ってから、「そんな律儀にありがとうね」と言って、一息ついてからまた続けた。
「翔太が小学生のとき、いきなりアイドルになりたいって言ってきた時はほんとに驚いたのよ。家では毎日のように「涼太が涼太が」って涼ちゃんの話ばっかりするし、なんとなくこの子がしたいことも、この子が好きな子のことも気付いてたのよ。」
「バラすなよ…。はず…。」
「不器用でバカなこんな子、大切に思ってくれてありがとね。捻くれてて可愛げのない子だし、迷惑ばっかりかけるかもしれないけど、翔太のこと、どうかよろしくお願いします。」
「翔太、円満の秘訣は、特別じゃない日の何気ないプレゼントだぞ。」
「父さんまで揶揄うなよ…。母さん流石に言い過ぎだし。」
翔太は気恥ずかしいのか、ずっと顔を押さえて自分の両親の言葉を聞きながら、ため息混じりにぼやいていた。
俺は、翔太との未来を許してもらえたことが心の底から嬉しくて、何度も何度も「ありがとうございます」と伝えた。
翔太のお母さんのご厚意で、その晩は翔太の家族と夜ご飯をご一緒させてもらった。
じっとしているのは申し訳なくて、お母さんを手伝った。
翔太のお母さんは「いつか翔太のお嫁さんになる子とこうやってキッチンに立ってみたかったのよ〜!それに、涼ちゃんこんなに料理上手になったのね!未来の料理人のご飯が食べられるなんて、幸せだわ〜!」と嬉しそうに笑ってくれた。
ご飯を食べ終わったあと、翔太のお父さんが、翔太が中学生の時の卒業アルバムを見せてくれた。
俺が知らない頃の写真には、どれも寂しそうな翔太の顔ばかりが写っていた。
「この頃の翔太はいつもイライラしてて、反抗期なのかなって思ってたんだけど、今振り返ってみれば、あれは近くに涼くんがいなかったからだったんだろうね」
遠くを見つめながらそう話す翔太のお父さんに、翔太は「いちいちそうやって涼太に全部バラすなよ!!」と顔を真っ赤にしながら怒っていた。
思い出話に花が咲いて、気付けば夜も更けていた。
「泊っていったら?」と言ってくれたことにデジャヴを感じながらも、せっかくだからまたお言葉に甘えることにした。翔太の家に泊まるのは、幼稚園生ぶりだった。
俺の家に翔太が泊まった時と同じように、また、二人でベッドに寝転がった。
「涼太、嬉しかったよ。世界で一番大切だって言ってくれて。ありがとう。」
翔太がぽそっと呟いた。
「ううん。こちらこそ。許してもらえてよかった。」
「母さんと父さんが反対しても押し切るつもりだったけどね。」
「そうだったの?」
「うん。俺はこれまでもこれからも、ずっと涼太と一緒にいることしか考えてないから。」
「翔太、ありがとう。俺のこと、好きになってくれてありがとう。大切にしてくれてありがとう。」
「ん。俺の方こそ、待っててくれてありがとう。」
ありがとうと言い合うたびに、心がじんわりと温かくなって、全身に広がっていった。
ずっとこんな風に、お互いを大切に想いながら過ごしていきたいと思った。
ずっと翔太と幸せでいられるようにと願って、背中で翔太の鼓動を感じながら、俺は目を閉じた。
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