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ぬま子
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それから自宅のマンションへと到着し、いそいそと部屋へと向かう。
静まり返った自宅の玄関で鍵を閉め、ようやく誰の目も気にしなくていい「二人きりの空間」に戻った瞬間…
「…っ…!」
外で張り詰めていた糸がプツリと切れたように、胸元に顔をうずめ、全身でしがみつくように抱きつかれた。
「…はぁ…怖かった…」
小さく震える声が、胸のあたりから直接響いてくる。
オーバーサイズのTシャツとワイドジーンズに身を包んだ姿は、どう見ても守りたくなる可愛い女の子そのもので、その愛おしさに胸が締め付けられる…と、同時に突きつけられた現実はあまりにも重かった。
――だが。
「…っ…」
思考の端でそんな現実を憂いながらも、自分の身体は別の意味で大パニックを起こしかけていた。
こうして思い切り抱きつかれると、身長が縮んで華奢になったじゅうの身体の線…特に、着ているTシャツの上からでもハッキリと分かる感触が…
(やばい、頭がおかしくなりそうだ…)
医師から告げられた「元に戻る条件」のことが脳裏をよぎる。
“極度の幸福感に満たされた時”
あるいは
“誰かに深く愛されていると心から実感した時”
今、目の前で不安に震えている恋人を心から安心させ、幸せで満たしてやることができれば、もしかしたらこの奇跡みたいな、あるいは悪夢みたいな現象をひっくり返せるかもしれない。
…そう頭では理解しつつも、目の前にある「女の子になった柔太朗」の圧倒的な破壊力と、当の本人が無自覚に押し付けてくる柔らかい感触のダブルパンチに、自分の理性は残りカス程度まで減らされてしまう。
「…ごめん、待って…マジで可愛すぎる…」
「今日、照れすぎだよ、はやちゃん…」
口ではそう言いながらも、腕の中にいるじゅうの耳たぶは、隠しきれないほど真っ赤に染まり、そのツンとした照れ隠しの態度すらも今の姿の前にはただ愛らしく映る。
「だってしょうがないだろ…いつもより小っちぇし、柔らかいし、そのいい匂いするし…その上そんなこと言われたら…頭おかしくなるって…!」
「…ふふっ、はやちゃんがそんなに顔真っ赤にしてる顔、可愛いな…」
形勢逆転とばかりに、背中を優しく撫で、愛おしそうに擦る。そのニコニコとした笑顔は、見慣れたはずの恋人のものなのに、今の破壊力はいつ何倍も高かった。
(くっ…こんなの反則だろ…)
胸の中でふんわりと広がる甘い熱と、この人を絶対に元に戻して守り抜きたいという強い想いが上昇していく。
「…笑うなよ。ほら、こっち向いて…」
これ以上この無防備な笑顔を見せられては理性の方が持たないと、少しだけ強引に、けれど優しくじゅうの顎をキュッと持ち上げる。
「…っ…!」
「…」
じっと見つめられたじゅうは目を閉じる。
唇が重なるまで、後5センチ、
3センチ
1セン…
『♪〜お風呂が沸きました』
「「!!!!」」
息を整えながら、急激に現実へと引き戻された二人は、赤くなった顔を見合わせた。
唇を重ねる寸前までいった濃密で甘い空気からの、無機質な電子音のギャップに、俺は気まずそうに首の後ろをかいた。
「…そういや家に着く前に、スマホから湯張り予約してたんだった…」
「…っ…びっくりした…心臓止まるかと思った…」
じゅうは真っ赤になった顔を両手で覆い、恥ずかしさのあまりその場にふにゃふにゃと崩れ落ちそうになり、慌てて腰を抱えて支える。
「…ごめん…でも、まあ、ちょうどよかったかも。今日はいろいろあって緊張したし、汗もかいたしさ」
自身の荒い息をなんとか鎮めようと深呼吸を挟みながら、優しく髪を撫でる。
「…先に、入ってきたら? 服は買い足したやつから選んでおくから。」
「…うん…ありがと、はやちゃん…」
そう言って顔を覆っていた手を少しだけ隙間空け、指の間から上目遣いで俺を見つめる。
先程の余韻がまだ残っているのか、その瞳は少し潤んでいて、赤くなった耳元が何とも言えず艶っぽい。
「…ほら、あんまりそんな顔で見てくると、本当に風呂場までついて行きそうになるから…早く行きな?」
「…っ、はやちゃんのばか!変態!」
ポンと優しく背中を押すと、照れ隠しに小さく口を尖らせながら、脱衣所へと向かうのだった。
そして同じ頃…グループの公式SNSなどを通じて、1つの発表がされた。
『【ご報告】山中柔太朗に関する大切なお知らせ』
【……To be continued】
コメント
3件
更新、ありがとうございます!今回も山中くんの可愛さが、浮かんでくる描写でドキドキしました。第7話は、対の表現が生かされていましたね。同時に反対のことが描かれていて、思考がさまざまなところへ飛んでいて、戸惑いや驚きが表れているように感じました。 そして、すごーく続きが気になります!無理せず、頑張っていただきたいです。
あ〜第7話、やっと二人きりになれたのに、キス寸前でお風呂の予約タイマーって…! その絶妙な間の悪さが逆にリアルで笑っちゃった😂 でもそれ以上に、じゅうがあんなに無防備に「怖かった」って甘えてくるシーン、胸がきゅーっとなったよ…。女の子になった姿の破壊力もさることながら、はやちゃんが理性保とうとしてるの可愛すぎる。続き、元に戻る条件とかどう絡んでくるのかすごく気になる!