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赤桃
呪いじゃない、これは愛の証
― プロローグ ―
「お前は呪われてる」
そう言われたのは、中学生のときだった。
けれど俺は、そんな言葉をずっと信じてなかった。
いや──信じたくなかった。
だって、それはつまり「俺のせいで、誰かが不幸になる」ってことだから。
それはつまり、「好きな人を幸せにできない」って意味だから。
「……ほんとに、呪いだったらどうする?」
ある日、冗談のつもりでそう言ったら、りうらは真顔で俺のほうを見た。
「それでも、お前がいい」
その言葉が、呪いよりも怖かった。
—
出会いは春だった。
まだ制服の袖がごわごわしてて、どこか身体に馴染んでなかった頃。
桜が舞う校門の前、俺は見知らぬ男に声をかけられた。
「……なあ、君、去年もここいた?」
赤髪で、ちょっと猫背で、目つきの鋭いその男は、なんともいえない真剣な眼差しで俺を見ていた。
「去年? いや、今年入学したばっかだけど」
「……そっか」
不思議そうに眉を寄せて、そいつ──りうらは、ふっと小さく笑った。
「ごめん。なんか、すげえ懐かしい顔してたから」
俺はその一言に引っかかった。
懐かしい?
まだ会ったばかりなのに?
—
それから、何度か偶然が重なって、りうらと俺はよく顔を合わせるようになった。
同じクラスではないのに、図書室でも屋上でも、保健室でも。なぜか“彼”はそこにいる。
「もしかして、俺のことストーカーしてんの?」
冗談混じりに言ったら、りうらはちょっとだけ目を伏せて、こう言った。
「……うん、まあ」
「え、ちょ、冗談で言ったのに!?」
「俺、本気だから」
その目はまっすぐで、俺を見逃さないように追っていた。
—
ある日、俺は熱を出して倒れた。
誰もいない保健室で目を覚ましたとき、真っ先に目に入ったのはりうらの顔だった。
「りうら……?」
「よかった。目、覚めた」
汗ばんだ額を拭いてくれていた手が、震えていた。
「なんで、いるの……?」
「なんとなく……お前が倒れそうな気がして」
その言葉を聞いたとき、俺は思い出した。
昔、同じように高熱で倒れた日のこと。
あのときも、誰にも知られず保健室でひとりだった。
けど、夢の中で誰かがずっと手を握ってくれていた気がした。
それが、りうらだったような──そんな気がした。
—
「なあ、ないこ」
ある日の放課後。
夕暮れに染まった教室で、りうらがぽつりと口を開いた。
「俺たち、前にも会ったことあると思わない?」
「前って、いつのことだよ」
「何回も。たぶん、何十回も」
「……何を言ってるんだよ」
「信じられないかもしれないけど……お前と俺、ずっと前から“繰り返してる”」
「繰り返す……?」
りうらは、言葉を選ぶようにゆっくり話した。
「お前が死ぬたびに、時間が巻き戻る。俺だけが、全部覚えてる。最初は意味が分からなかったけど、気づいたんだ。これはきっと、呪いなんだって」
俺は笑った。冗談だと思った。
でも──笑えなかった。
その目は、何かを“背負っている人間”の目だった。
—
「俺のせいなんだ。お前が死ぬのも、時間が戻るのも。俺がお前を好きになった瞬間から、全部繰り返してる。何十回も。何度も、お前の死を見た。……それでも、どうしても、忘れられないんだ」
俺は、りうらの手を握った。
「じゃあ……俺が死ななければ、終わる?」
「……そうかも。でも、そうしたらお前に会えなくなるかもしれない。俺の記憶も全部消えるかも」
「それでもいいよ。次こそ、終わらせよう」
りうらの目が大きく見開かれた。
「なんで……?」
「だって、お前が苦しんでるのが一番つらいから」
「ないこ……」
「でも、ひとつだけ確かに言える」
俺は、彼の手を胸に当てた。
「これは呪いじゃない。──愛の証だよ、りうら」
りうらの手が、俺の鼓動と一緒に震えていた。
—
たとえ何度繰り返しても、君の手を離さない。
呪いなんかじゃない。これは、間違いなく──
愛の証。
コメント
1件
うわぁ...美味しい...