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#恋愛
#長編
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その日、買い出しに出ると都市の様子が少し変わっていた。
冬自宅で忙しいのもあるけれど、それとは別にお祭りの準備に勤しんでいる。特に蝋燭がいっぱい売られていて、蜂蜜や木の実がたっぷり入ったケーキが売られていた。心なしか周りの人たちの雰囲気も明るく、ワクワクしている感じがする。
(ブリジットの記憶にも冬のお祭りはなかったはず。秋祭りと春祭り、あとは年越し前と、祝年祭り……)
ルティに聞こうとしたけれど、サクサク歩いている。両手に荷物を抱えているので、手を繋いでいないから気づいてくれていないのかもしれない。
「ルティ」
少し前を歩いていたルティを呼び止めようと、ちょんと、服を掴んだ。それがルティ的には良かったのか「その呼び止め方いいですね」と感動していた。
「ちょん、と掴んで可愛い。なによりシズクに求められるのなら、どんなことでも至福……」
「戻ってきてください、ルティ」
「すみません。日に日にシズクが可愛くて、可愛くて……」
「さらっとまた……って、お祭りが近々あるのですか?」
「ん? ああ、そうですね。冬迎えの祭であり、魔女の大晦日サーオインでもあるのですよ。新しい日に蝋燭を取り替えるのが習わしなのです」
「そうなのですね。じゃあ、あの木の実がたっぷり入ったケーキは?」
思わずお菓子に目が行ってしまう。去年はこちらに来て間もなかったのと、殆ど家の中で過ごしていたので、季節の行事とかは疎遠だった。今はルティと一緒に季節の行事を楽しみたいと思っている。
「死者への手向けとして家族で切り分けて食べます。その時期になると大切な人が戻ってくることを望んで」
「(元の世界だとお盆……ううん、ハロウィンみたい?)この世界では亡くなった方が現れるのですか?」
「転生してなければ思念体が現れることもあるとか聞きますね。あとは夢に出てくることがあるそうですよ」
「そうなのですね(ブリジットの時代に亡霊が一時的に現れるとかはないから、人族以外の伝承だったり?)」
「人も増えてきましたし、手を繋ぎましょうか」
「うん」
ルティは両手に抱えていた荷物を亜空間に格納して、恋人繋ぎをする。普通の手を繋がないところがこの人らしい。
(最初から亜空間に格納すれば……。もしかして私が呼び止めるのを期待して、わざと荷物を両手に抱えていた? ありえる)
「せっかくだから蝋燭と、木の実のケーキを買って帰りましょうか?」
一瞬で私の頭の中は、木の実のケーキ一色に切り替わった。
「良いのですか!? あのケーキ、ホールですよ、ばら売りしていません」
「ふふっ」
ルティはクスクスと上品に笑う。食い意地が張っていると思われただろうか。ちょっと恥ずかしい。
「本当にシズクは可愛いですね。貴女が望むのなら、いくらでも買って差し上げます」
「充分貰っていますよ?」
「そうですか? もっと我が儘になってくれてもいいのですが……」
(ああ、そういえば最近何かを強請ってなかったわ!)
このままだとルティは贈物が全然できてないって凹む。そして凹んだ後のフォローが割と面倒──というか時間が掛かることがある。
しかし衣食住や安全面も含めて、お世話になりっぱなしな恩人でもあるルティに、これ以上強請るのは図々しいのだが、天竜狐族は片翼に貢ぐのが大好きな種族だ。そのため定期的にいろいろな物を贈ろうとしてくる。彼ら種族なりの愛情表現の一つだ。これは色々話し合い「些細な物でも人族は嬉しいと感じる」という認識には持ち込めた。
それからは適度に必要そうな物を言うようにしている。だいたいが本か調理器具、食材や珍しい香辛料、花束、高級毛糸の束など。アクセサリーや服は基本的に季節ごとに贈られてくるので十分過ぎるのだが、こういうイベントごとになると熱心に贈物を贈りたくなるらしい。
「(うーん、可笑しいわね。当初は我が儘を言って欲しい物を買いまくって、散財させようとか思っていたのに……)では、その、……今度一緒に、クレープのあるカフェに行ってみたいです」
「はーーーー、我が儘が何処までも可愛すぎじゃないですか」
「で、でも、その……好き……というか、気になる人と一緒にカフェでお茶したいって、ずっと夢だったのですよ」
ぱああ、と笑顔になった途端に、顔色が青ざめる。またどんな解釈をしたのだろう。
「はにかんだシズクが可愛すぎる。ああ、どうして私は記録魔導具を常時展開していなかったのか! これではシズクの素晴らしい音声と笑顔が永久保存できない」
「(途端に犯罪臭な感じの台詞が!?)あの、ルティ」
「うん、結婚しましょう(カフェに行きたいと聞こえたのですが、いつにしましょう?)」
「本音と建て前が逆になっているような?」
「今、私はなんと?」
「『結婚しましょう』って」
「え、シズク。私と結婚してくれるのですか? 嬉しいです。絶対に幸せにします」
「ひゅっ、あ、えあ、ルティの言葉を繰り返しただけです! ハッ、さてはわざと!?」
「早速教会に提出しないと」
「ルティ!」
いつもの冗談、あるいは悪ふざけだと分かって睨んだらニコニコしたまま「冗談ですよ(今のところはね)」と答える。うん。今副音声で(今のところは)ってばっちり聞こえました。
(まあ、ルティは嫌いじゃないので……吝かではないのだけれど)
「本音を口に──悪乗りしすぎました」
(本音って口にしているじゃないですか……)
ルティは困った顔で微笑む。
「……シズクが嬉しいことを言うものですから、理性を三千世界に吹き飛んでしまいそうでしたよ」
「理性はそう簡単に手放しては、駄目なのでは?」
「シズクだけですよ。私をこんな風に振り回せるのは」
「ルティ」
嬉しい。それと同時に結婚、伴侶になった後のことが怖い。本当に今までのルティと変わらないだろうか。今までのように私を大切にして愛してくれるだろうか。
大丈夫だと、信じたい。
でも──。
不安を口にしようとして、下唇を噛みしめた。
「それは──光栄です」
笑えているか分からないけれど、沈めても、封じても過去がふとした瞬間に溢れ出す。なにもかも聞いてしまえば、相談してしまえば楽になるのに、今積み上げている関係が心地よくて、愛おしくて壊したくない。
もう少しルティのことを観察していけば、一緒に暮らしていれば──そうやって先送りして良い結果が出たことなんてないのに、私は愚かだった。