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サーオインにルティと一緒に家の蝋燭を取り替えて、木の実がたっぷり入ったケーキを一緒に食べて過ごした。恋人同士なので、ハグやキスも受け入れている自分がいる。嫌いじゃない。最初は保護者で、次に同居人、復讐対象者から、恋人となった。
(恋人? でもプロポーズされていたから……婚約者?)
ルティのことは好きだと思う。今のルティ様と一緒にいられるのなら、過去なんてどうでもいいと思う反面、結婚したら今までの関係が崩れてしまうのではないか
前世のトラウマが私の決断を鈍らせる。結婚するまでヴィクトルも優しかったし、素敵なプロポーズをしてくれた。
しかし天空都市に嫁いでから、ヴィクトルは変わってしまった。まるで別人。おそらく本当に別人だった可能性も高い。天竜狐族は変化が得意だと知った時から、あの幼馴染ならヴィクトルに化けて、私たちの仲を引き裂こうと動いたとしても不思議じゃない。
(でもそうだったからといっても、結婚に対して不安は消えそうにない……)
不安をできるだけ減らすため保険として、自立しようと計画を立てたのだ。その目論見は半分達成して、半分失敗した。ルティとの距離がどんどん縮まって、私のほうが傍を離れたくないと思うようになってしまったのだ。
(うう……まさかこんな風になるなんて……)
思いが強くなればなるほど、前世の私の悲しみと苦痛が胸をかき乱す。その重みに潰される前になんとかしないといけないのに、ルティと離れたくない。嫌われたくない。前世のような関係に戻りたくない。一人でどうにかできる問題でないのは分かっているのに、相談するのが怖い。
(いつからこんなに臆病になったのかしら)
しんしんと静かに雪が降り積もる中、カーディガンを編みながら物思いに耽るのは、ルティが家にいないからだ。もっと一人でお留守番ではなく、眷族の四足獣のモフモフたちが私に引っ付いている。いつも私に甘えてくる子と、臆病で泣き虫な子だ。どっちも可愛く、私の中ではシロが甘えん坊な子で、ハクが泣き虫な子と心の中で呼んでいる。
「ルティ、大丈夫かしら?」
「くう!」
「くうう」
シロとハクは私の傍に引っ付いて慰めてくれた。
今までもお留守番はあったのだけれど、今回は少し遠出するので数日は帰ってこられないらしい。
世界樹都市カエルラで山火事が発生したらしく、消火活動に駆り出されている。こういった災害時は、森の大賢者であるルティ様の出番となるのだ。私も付いて行きたかったけれど、危険だと言われてお留守番である。
『良いですか、急用と言って訪ねてくる者がいても、絶対に家には上げてはいけませんよ。一応、防御結界を張っていますから、どんな相手でも信じない、着いて行かない。私が危険な目に遭っているから──なんていう言葉も無視してください』
#恋愛
#長編
「いやでも」
『シズクが心配してくれるのは凄く嬉しいですが、絶対にそんなことは起きませんから。世界を滅ぼしたとしてもシズクの元に戻ります』
「ルティ」
『眷族も置いていきますから、絶対に危ないことはしないでくださいね』
このセリフを十回以上聞かされた上に、いくつものアクセサリー系魔導具を装着させられている。耳飾りは私の位置が特定できる。真珠のネックレスは魅了及び洗脳効果無効化。指輪は物理攻撃、魔法攻撃無効化。もう一つの指輪には毒無効化。白と藍色の長袖のドレスはドラゴンのブレスには耐えられる一級品の素材を使っている。ブーツは脚力アップと転移魔法が施されている優れもの。
過保護過ぎる。私は魔王城に行く勇者か、と思うほどだ。
でも大事にされている。それが目に見えて分かるのが嬉しい。大事だと愛していると、言葉にしてくれることで胸が熱くなる。
(戻ってきたらルティに、ブリジットのことを聞く! だから……どうか、無事に戻ってきて……)
ピクリと、シロとハクの耳が動いて、玄関に視線を向ける。
(誰か来たのかしら? でも表には休業中と書いてあるし……)
ドンドンッ!
酷く乱暴にドアを叩く音に心臓がドキリとした。ここで暮らして時折、緊急事態でルティを訪ねてくる人たちは何人かいた。
(こんな大雪の中、訪ねて来るなんて急ぎの用よね?)
家の扉の前まで急ぎ向かい、入り口の明かりを付けた。深呼吸をして、扉の向こうの人に声をかける。
「どのような、ご用件でしょうか?」
『──っ、森の大賢者殿か!? 早く開けてくれ! 至急頼みたいことがあるんだ!』
想像よりもずっと若い声だ。耳を澄ませると足音は複数。切羽詰まった声に怯み掛けたが、教えられたとおりの言葉を返す。
「も、申し訳ありません。今、大賢者様は所用で留守にしております。そして主人が留守の場合はいかなる者も、家の中に入れることはできません。戻りましたら伝令を出しますのでお近くの──」
『それでは間に合わない! 部下の命が危ないのだ。宿では迷惑が掛かってしまう! せめてこの家の中なら、彼女も迂闊には手が出せなくなる。頼む!』
「(ど、どうしよう……。事情はよくわからないけれど、追っ手? ルティは森の大賢者で、揉め事の仲裁役もしているからセーフハウス扱いされている? で、でも私一人じゃ対処できないし……ハッ、そうだ)ふたりとも」
私はシロとハクを見て、その場に座り込んだ。
「今すぐルティの元に行って緊急時なことを知らせてくれる? それと君はニコレッタさんを呼んできてほしいの」
「くうう!」
「くぅうん」
シロは任せてとすぐに姿を消したが、泣き虫なハクは私の傍から離れることを嫌がっていた。涙を浮かべて絶対に嫌だという。本当は怖い。だからハクを抱き上げた。
「ごめん、やっぱり傍に居てほしい」
「くう!」
ぐりぐりと私の頬に頭を擦り付けてくる。泣き虫だけれどこの子も甘えん坊だと思った。少しだけ冷静になった私は扉の向こうへ声をかける。
「どんなご事情があるかは存じませんが主人がいない以上、扉を開けることはできません。ただ森の大賢者としての領域で安全を確保したいというのであれば、傍に納屋があり、そちらに毛布や暖炉設備もしています。大賢者様が戻られるまで──」
『王子に納屋で休めと!?』
『無礼が過ぎる』
カチャカチャと甲冑音がドアの前に近づく音に、ブリジットを刺した時に聞こえた甲冑音とダブって──トラウマが蘇った。