「知っている人もいるかもしれませんが、明日、うちのクラスに転校生がきます。」
「向こうも、新しい環境で緊張していると思うので、あたたかく迎えてあげてください。」
青葉城西高校。ここが今日からわたしの新しい居場所。
親が静岡から宮城に転勤することになって、どうしても静岡の高校には通えなくなってしまった。
突然のことで、少し気持ちの整理には時間がかかったものの、新しい学校生活に少し期待も抱きつつあった。
担任の先生は、声がハキハキと通っている女性で、やる気に満ち溢れた感じだった。
今年新しく入ってきたらしい。
「わたしもここの高校に勤めるのは初めてなので、一緒に慣れていきましょう」
と言われた。わたしは小さく頷き、手元の書類をなんとなく眺めた。
色々な書類の中に一つ、目に留まる文字。入部届。
「…あれ、今からでも部活に所属できるんですか?」
「はい。色々な部活がありますよ。よかったら今日、見学に行ってみてください。」
「見学?」
「はい。一年生も行くと思いますから」
「ああ…確かにそうですね」
「それと、校舎についてはまだわかっていないと思うので、案内してもらうように生徒に頼んでおきました。」
「ありがとうございます」
「他に何か質問はありますか?」
「いや、特には」
「じゃあ行きましょうか」
先生が立ち上がったので、わたしも書類を持って席を立った。
新しい教室は、少しだけ広く感じた。
2年一組、水鳥呼夏、出席番号31番。
教卓から見て左端の方に、静かに腰掛ける。
机は古くも新しくもなく、机の中に青城最高という落書きがあった。
わたしはその落書きをそっと指でなぞる。
ここでうまくやっていけますように。
少し時間が経つと、教室には人が増えてきた。
親しげに友達と話す人や、来てすぐに読書をする人、わたしの方をチラチラ見てくる人。
わたしは何もせずに、ぼーっとしていた。
後ろの人は女子、前の人も女子、横の人は男子。
後ろの人のネームプレートには、狼牙刹那と書かれていた。
だから、てっきり男の子だと思っていた。
そしたら、黒髪でピアスの空いた女の子がそこに腰掛けたので、少し驚いた。
おおかみ、きば…何て読むんだろう。珍しい苗字だ。
その子は机の上に何か広げるでもなく、席を立つわけでもなく、かといって突っ伏しているわけでもない。
頬杖をついて、ぼーっとしている。
わたしと同じ。
この子って、いつもこうしているのだろうか。
1時間目のホームルーム。
「じゃあ水鳥さん、前へ出てきてください」
先生に言われ、立ち上がった。
みんなの前に立つ。
「転校生の水鳥呼夏さんです。まだいろいろわからないところがあると思うので、みんなでサポートしてあげてくださいね」
先生はわたしに目配せする。
「よろしくお願いします」
わたしはつぶやくように言った。
「じゃあ、校舎の案内を…狼牙さん、お願いできますか」
ろうがさん…先生はそう言った。
返事をしたのは、わたしの後ろに座っていた人だった。
「はい。放課後ですか?」
「うん。あ、バレー部は大丈夫ですか?」
「あーと……先輩に確認しておきます。でもたぶん、大丈夫」
「そっか。ありがとうね」
わたしが思っていたよりも、気さくに先生と話す狼牙さん。
てっきり、冷たい人だと思ってた。
わたしは音を立てないように席に座って、放課後を待った。
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