テラーノベル
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ダンジョンの攻略試験から二週間ほどが経過した。
その間、授業では座学を中心に、実戦訓練なども行われた。
今日は休日で、生徒達は思い思いに過ごしている。
余とイリスは特に予定もなく、二人で街を歩いていた。
「今日はいい天気ですね! 絶好のお出かけ日和です!」
イリスが快活に言う。
今日は機嫌がずいぶんといいな。
こちらまで釣られて笑顔になりそうだ。
「そうだな」
余はイリスの言葉に相槌を打ちながら、ふと考える。
(せっかくだから、どこかに遠くに遊びに行ってみるか)
これまでは学園生活に忙殺され、ほとんど外出していなかった。
たまには気晴らしもいいだろう。
「イリス、今日は暇か? よかったら一緒に……」
「あら? そこにいるのはレアルノートとノイシェルじゃないの」
突然背後から声をかけられ、振り返る。
そこには、フレア・バーンクロスがいた。
「おお、フレアではないか。奇遇だな」
「ふん。変人も、人並みに町を散策ぐらいはするのね。安心したわ」
フレアがそう言う。
相変わらず口が悪い。
「それで、お前は何をしてるのだ? 今日は休日だぞ」
「私は買い物よ。あんた達こそ何やってるのかしら?」
「うむ……。まあ、同じようなものだな」
特に何かをしていたわけではない。
「休日に、レアルノートとノイシェルの二人で? あんたたち、もしかして付き合ってるの?」
「いや、そういうわけではないのだが……うーん……どうなのだろう……うーん……うーん……むぅ……」
余は腕を組み考え込む。
確かに傍目から見るとデートのように見えなくもないのか?
余はリア充とやらになるために学園に入学したわけだが、イリスを伴侶とするのであればその必要もなかったかもしれぬ。
余はチラリとイリスを見る。
「わたしと陛下はそのような関係ではありません! 不敬でぶち殺しますよ」
イリスがギロッとフレアをにらむ。
そこまできっぱりと言われるとはな。
イリスにその気はない……と。
やはり、余の伴侶は学園で探すしかなさそうだ。
「冗談よ。そんな本気にしないでちょうだい。それより……」
フレアがニヤッとした笑みを浮かべ、続ける。
「これから私と一緒にお茶でもどうかしら? おごってあげるわ」
「えっ!?」
余よりも先に反応したのはイリスだった。
「わたしたちとお茶ですか? どうします? 陛下」
「ふむ。別に金に困っているわけではないが、好意を無下にする必要もあるまい。付き合ってやろう」
こうして、三人で茶を飲むことになった。
「じゃあ、付いてきなさい」
そう言って、フレアは歩き出す。
余とイリスは顔を見合わせ、彼女の後に続いた。
王都の大通りにあるカフェ。
そこは、いわゆる高級店だ。
店内は広く、落ち着いた雰囲気である。
ただし、普通の店とは異なる特色も持っている。
店員は全員がメイド服を着用しているのだ。
「おかえりなさいませ、お嬢様、ご主人様。三名様ですね?」
店員がそう言って、余たちを出迎える。
おかえりも何も、余はこの店に初めて来たのだが。
「ええ、三人よ。席を用意してもらえるかしら」
余の代わりに、フレアがそう答える。
どうやら、この店における定番のやり取りのようだな。
「かしこまりました。では、こちらへどうぞ」
案内されたのは、個室だ。
なかなかゆとりのあるスペースに、テーブルとイスが用意されている。
店員は一度下がっていった。
「ここは貴族御用達の店で、一般客が入ることは滅多にないの。だから、ゆっくりできるでしょ?」
フレアがそう説明する。
「へえ。それはありがたいですね」
「うむ。フレアは、このような店によく来るのか?」
「ええ。月に一度ぐらいは来るわね。最近は忙しくて、来ていなかったけど……」
「ほほう」
彼女にこんな趣味嗜好があったとはな。
バーンクロス家の娘として、メイドと接する機会などいくらでもあっただろうに。
わざわざ金を払って同じようなシチュエーションを楽しむとはな。
余たちがそんな会話をしている間に、店員がこちらに向かってきた。
手にはトレイを抱えており、それには飲み物が乗せられている。
いや、そんなことよりも……。
余はその店員の顔を見る。
どこかで見覚えのある顔だが……。
「ご注文はお決まりですかにゃ?」
その店員が話しかけてきた。
頭には猫耳。
メガネをかけ、尻尾まで生えている。
属性を盛りすぎだろう。
猫耳のメガネっ娘のメイドとか。
「「…………」」
イリスとフレアが唖然とした表情で少女を見る。
見覚えのある少女の顔が引きつっていた。
「……おい、シンカ。こんなところで何をしている?」
「シンカとはダレノコトデショウ?」
彼女が裏声でそう言う。
「声色を変えたぐらいで、バレぬとでも思ったか?」
「うぐっ!」
余の言葉を受け、観念したように息をつく彼女。
「……なんで君たちがここにいるのさ。まさかいるとは思わなかった。気づいていれば、他の人に接客を変わってもらったのに」
彼女はそう言いながらため息をついた。
「ここは私の行きつけの店よ! アクアマリンこそ、いつの間に働き始めたのかしら?」
「僕は二週間前からここでバイトしてるんだよ。学費と生活費を稼ぐためにね。学園から補助金が出てるけど、少し足りないし」
彼女は”流水の勇者”として人族に多大な貢献をしてきたはずだが。
まさか資金難に陥っているとはな。
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