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「ほんま、ちぐさってさ……可愛いな」
私は笑いながら言った。
口角を上げる角度も、声のトーンも完璧。
でも、心の中では別の言葉がぐるぐるしていた。
――重い。
――息が詰まる。
――もう、笑うのもしんどい。
彼女の目が私をじっと見てくる。
毎回、同じようにまっすぐで、同じように私だけを捕らえてくる。
それが、なぜか怖かった。
「ほんま、そんなにじっと見んといてや」
思わず言葉をにじませたけど、ちぐさは首を傾げて笑う。
「え? なんで?」
無邪気な笑顔。罪悪感も、責める気も、何も湧かない。
それどころか、少しだけ、苛立ちすら覚える。
――可愛い、けどウザい。
私は軽く肩をすくめて、口角を上げる。
「なんでもない、ちょっと恥ずかしかっただけ」
ちぐさは目を逸らし、頬を赤くした。
その小さな仕草に、私は冷たく胸を締めつけられる。
でも同時に、あの視線に縛られている自分にも気づく。
廊下のチャイムが鳴り、教室がほんの少しだけ現実に引き戻される。
私は笑顔のまま鞄を肩にかける。
――今日も、無事に“仲良し”を演じきった。
でも、どこかでひっかかる感覚がある。
ちぐさの依存、私の偽り、そして自分の薄ら寒い感情。
全部が混ざり合って、胸の奥でモヤモヤと渦を巻いていた。
一歩廊下に出ると、ちぐさが後ろから小さな声でついてくる。
「ねぇ、さな、もうちょっとだけ一緒におってもいい?」
私は微笑む。もちろん、演技の微笑み。
――ほんま、どうでもええ質問や。
でも、今は言えない。
そうして私たちは、今日も“仲良し”のふりを重ねて歩く。
ちぐさのため⋯⋯いや、私のためにも“仲良し”を演じきらなきゃいけない。
微妙にずれた距離感を抱えながら。
それだけが、私の小さなルールだった。