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「契約の亀裂、静かなる反撃」
–静寂の水面に生じる亀裂。それは、ひび割れた“仮面”の音–
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〔翌朝・学園 廊下〕
登校途中のユウとグリム。
その前方、エースとデュースの姿が見える――が、いつにも増して様子がおかしい。
「おい、デュース? 目の下クマすごいぞ……って、エース!? お前……手、震えてんぞ」
「……あ、ああ。平気だって……ちょっと寝てねぇだけ。
“契約の納品期限”が近いから……早くやらねーと……」
言葉が途切れる。
そのまま、ふらりとデュースがよろめいた。
「デュースっ!?」
ユウが慌てて駆け寄ると、デュースは汗をかいて座り込んでいる。
「っ、だめだ……まだ、“商品”が……“ノルマ”が終わってない……」
その様子に、ただならぬ空気が走る。
背後から、静かにフェイドが歩いてきた。
その目に、一瞬だけ冷たい光が宿る。
「……お身体に異変が出るほどとは。契約の根が、かなり深いようですね」
ユウが振り向く。
「ネメシス……っ、これってやっぱり……!」
「……ええ。あの“契約”は、明らかに心身の限界を超える拘束力を持っています。
ですが、あくまで“本人の意思”に基づくもの。今はそれを見届けるしかありません」
ユウは拳を握りしめ、顔を俯けた
「……だからって、放っておけない……!」
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〔その夜・ナイトレイブンカレッジ 中庭裏〕
夜。月光の届かない中庭の裏手――
そこに現れたのは、フェイド、そしてジェイド。
「ふふ……この時間にお呼び出しとは、珍しいですね、ネメシスさん。
それとも……“フェイド”?」
フェイドは微笑んだまま、小さく首を振る。
「今は“ネメシス”で通していただけると助かります。
……ですが、兄としてのお顔で来てくださったなら、少し安心いたしました」
「それはどうも。……アズールの“動き”、少々不安定ですね。
彼自身が、仮面の向こうで何かを掴みかけているような……」
「はい。彼は、過去の自分に縛られています。
“力を持つ者”になれた今でも、その仮面を脱げずにいるのです」
ジェイドは一歩踏み込み、フェイドの目を見据える。
「フェイド。……いえ、“ネメシス”。あなたは、彼の仮面を壊すつもりですか?」
「……それは、私ではなく“彼自身”が選ぶべきことです。
ただ――その時が来たら、私は迷わず支えます。それが、友達としての、責任ですから」
風が、静かに二人の間を吹き抜ける。
ジェイドは目を細めて、優しく微笑んだ。
「……相変わらず、誰よりも冷静で、誰よりも“情が深い”ですね、あなたは」
フェイドは、言葉を返さず――静かに夜空を見上げた。
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〔翌日・学園 廊下/突然の事件〕
昼休み。廊下を歩いていたユウの元に、突然生徒たちの声が響いた。
「あっちでエースが倒れたって!」「保健室!誰か呼んで!」
ユウとグリムが駆け寄ると、そこには力尽きたように床に座り込むエースの姿。
その表情は苦悶に歪み、胸元には――魔法石のような“契約の光”がちらついていた。
フェイドもまた現場に駆けつけ、鋭い目でそれを見据える。
「……限界です。これはもう、“強制解除”を視野に入れるべき段階です」
「解除って……そんなことできるのか?」
「“術者本人”の核心に触れ、契約の“根”を揺らがせる――それしかありません。
……ユウさん。あなたにしかできないことが、きっとあるはずです」
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「心の根へ、潜る者たち」
–仮面の奥の声、沈む意志に届く祈り–
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〔オクタヴィネル寮・ラウンジ〕
静かな夜のラウンジ。
水槽のライトが青くゆらめき、魚たちが静かに泳いでいた。
ユウが一人、勇気を振り絞ってドアを開ける。
中にいたのはアズール。そして、その隣に控えるジェイドとフロイド。
「あら、監督生さん。……今宵は、何のご用件で?」
「“契約”のことです。エースとデュースが……もう限界です。
どうか、解放してあげてください!」
アズールの表情に、僅かな陰りが差す。
けれど、彼は微笑みを崩さなかった。
「……契約は、本人が望んだものです。
その代償を支払う覚悟も、彼ら自身が決めたはずですよ?」
「でもこんなことは、“望んで”なんかなかった! 」
ユウの言葉が、空気を強く震わせる。
その中で、アズールの指先がわずかに震えた。
ジェイドが静かに声をかける。
「アズール。……ここは、“一度見直す”時期では?」
アズールは目を伏せた。
その時、ラウンジの扉がノックもなく開かれる。
「――ご無礼いたします」
そこに現れたのは、フェイド。
その手には一冊の魔法書と、封じられた契約の写しがあった。
「学園長より、“強制契約の審査依頼”が届いております。
手続き上、私が補佐に就くよう仰せつかっておりますので――ご容赦を」
アズールの目が細まる。
「……フェイド。君がこれを選んだということは」
ネメシス――否、フェイドは、言葉を重ねず、ただ一歩、アズールの傍に近づいた。
「私は、ただ静かに、真実を見たいだけです。
あなたが誰かを傷つけることでしか、自分の存在を保てないのなら……それは、悲しすぎる」
「っ……それでも、僕は!」
その叫びに、フロイドが珍しく口をはさむ。
「アズールぅ、もーいいんじゃない?あんた、そんなやり方つまんないって顔してるよ〜?」
ジェイドも、静かに目を細めて言った。
「私たちは、あなたが“昔のまま”でも、“今のまま”でも。
……どちらでも構いません。ただ、あなたが笑ってくれるのなら」
アズールの瞳が、揺れる。
フェイドは静かに言った。
「……仮面を壊すのが怖いのなら、私が手を添えます。
“あなた”のままでいるために、私たちがいるのですから」
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〔翌日・学園中庭〕
エースとデュースが目を覚ます。
その目に映るのは、晴れた空と、安堵の表情を浮かべるユウとグリム。
「っ……ここは……? オレ……」
「無理に“納品”なんてしなくていいんだよ。
君たちの“価値”は、そんな紙切れ一枚で決まるもんじゃない」
フェイドが微笑む。
だがその眼差しは、どこか遠いものを見ていた。
「……ありがとう、ネメシス」
「オレ……ちょっと泣きそうだった。あんたの声、すごく落ち着いた」
フェイドは、ふっと目を伏せる。
「それは光栄です。……どうか、ご自身の価値を忘れないでください」
「仮面の向こうの、本当の顔」
–閉じた扉の奥、誰にも見せなかった“あの頃”の記憶–
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〔夜・オクタヴィネル寮 地下書庫/回想〕
静かな灯りがともる、オクタヴィネル寮の地下書庫。
そこはリーチ兄弟とアズール、そして“フェイド”のかつての憩いの場所だった。
今夜、そこに集っているのは――
フェイド、ジェイド、フロイド、そしてアズール。
アズールは分厚い帳簿を静かに閉じると、ぽつりと呟いた。
「……昔、貴方に言われましたね。“誰かの価値は、数字では測れない”って」
フェイドは、隣で静かに紅茶を注ぎながら応じた。
「ええ。その言葉は、今も変わりません。
……ですが、あなたが“数字”で自分を守っていた理由も、私は知っています」
フロイドが机に肘をついて、退屈そうに声を上げる。
「アズールってさー、昔から“自分のこと”は話さなかったよねぇ。
でもフェイドには、よく話してたみたいだけどさぁ」
ジェイドも続ける。
「“知ってほしい”と思える人がいたこと。……それだけでも、あなたは強くなったのですよ」
アズールは黙って紅茶を口に運び、そしてゆっくりと口を開いた。
「……僕は、恐れていたんだ。“無力だったあの頃”に戻るのが。
力を持って、取引して、価値で全てを管理して……ようやく、僕は“誰か”になれたと思えた」
フェイドはそっと目を伏せ、しかし揺るがぬ声で言った。
「あなたは、“誰か”になどならなくても、最初から“あなただけの価値”を持っていた。
私は……それに気づかせてあげられなかったことが、今でも少し、悔しいのです」
アズールの目が、わずかに潤んだ。
「君は……ずっと変わらないね、フェイド。
優しすぎて、誰よりも残酷で……それでいて、誰かの手を離さない」
フェイドは静かに笑った。
「……その評価、私としては褒め言葉です」
〔翌日・講堂前〕
契約の破棄が学園長によって正式に発表される。
エースとデュースもようやく安堵し、いつもの調子を取り戻していた。
「ふ〜、ようやく肩の荷が下りたぜ。ったく、借金返済ってマジで地獄」
「オレも、ちゃんと自分の力で頑張らないとな……次は、自分で乗り越えたい」
ユウが笑いながらエースの背中を軽く叩く。
「うん、二人ともよく頑張った!」
フェイドは少し離れた場所から、その光景を静かに見つめていた。
「……彼らの心の根は、まだ脆いですが……きっと、育つでしょう。
正しい光を、浴びることさえできれば」
リーチ兄弟が彼の隣に並ぶ。
「ふふ……ようやく、落ち着きましたね。フェイド」
「あ〜あ、アズールも大分まるくなっちゃったかもね〜?まぁ、その方が面白いけど〜」
フェイドは、彼らとともにゆっくりと歩き出す。
それはまるで、沈んでいた水面から再び浮かび上がるような足取りだった。
「仮面の隙間に差す光」
–平穏な時間、束の間のぬくもり–
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〔朝・オンボロ寮・ダイニング〕
朝のオンボロ寮。
食卓には、手製のパンケーキ、焼きりんご、そして温かな紅茶の香り。
「うみゃっ!この焼きりんご最高だぞ!もっとくれーっ!」
「はいはい。ですが、食べ過ぎるとお腹を壊しますよ?……グリムさん、口元、汚れています」
「むー……んぐ、最高だぞ!」
ユウは、紅茶のカップを手に、静かにフェイドの背を見つめる。
「ネメシスってほんと、何でもできるよね。料理も掃除も、勉強も。……なんか不思議」
フェイドはティーカップを持ったまま、優しく微笑んだ。
「私自身が“生きる手段”を見つけた結果かもしれません。
……不器用な人を支えるためには、自分は器用でなくてはなりませんから」
「……なんだろ。優しすぎるのも、ちょっと心配になるな」
フェイドは目を伏せ、小さく笑った。
「ご心配なく。私の“優しさ”は、必要に応じて棘を持ちますから」
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〔放課後・魔法薬学の実習室〕
ユウ、エース、デュース、グリム、そしてフェイドの五人で魔法薬の調合中。
「なあネメシス、これ混ぜる順番、オレ合ってるよな!?」
「デュースさん、その分量は少々多すぎるようですね……。
こちらを一摘み、加えてから――そっと回して……はい、上手です」
「おおっ!やった、うまくいった!」
「なーんだ、デュースもやるじゃん。でもオレのが派手な色だし?」
「エースさん?!、それは爆発の予兆だと思いますよ……!」
「……えっ」
――ドガァンッ!!
あたりにススが立ち込める中、グリムがひとこと。
「へへっ、オレのが一番うまくできてたみたいだな~!」
フェイドは静かに言った。
「……いえ、グリムさんのは逆に“未完成”で“反応すらしていない”だけです。
それもまた、ある意味で“安全”ですね」
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〔夜・オンボロ寮・屋上〕
空には星がまたたき、オンボロ寮の屋上にはユウとフェイドの姿。
「……今日は、楽しかったな」
「ええ。賑やかな日々は、やはり良いものです。
人の心は、静かすぎる場所では育ちませんから」
「ネメシスはさ……もし、本当の自分を隠してるんだとしても。
きっと、ちゃんと見てくれてる人がいると思う」
フェイドの表情が、わずかに和らぐ。
「……ありがとうございます、ユウさん。
あなたのような方がいてくださるなら、私は仮面を外す日が来ても……怖くありません」
風が、ふたりの髪を優しく撫でて通り過ぎた。
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–これは、仮面越しに重ねた、ささやかな日常の記録–
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