-scene1- Shota Watanabe
漆黒の闇の中で、俺は横たわっていた。
衣服はとうの昔に脱ぎ捨てられている。
身体の自由が利かない。
固いマットレスと冷たいシーツの感触に俺はまだ生きてるんだなと思った。
ツアー最終日。
俺はステージを降りて、促されるままに帰りの車に乗った。
メンバーがいつまでも乗って来ないので、別移動かと思ったらそのまま車は走り出した。
窓にはスモークがかけられていて、外がよく見えない。
不安に思い、今どこらへん?と聞いても、運転手は何も答えなかった。
仕方なくポケットをまさぐる。
上着に入れておいたはずの携帯電話もなぜか無くなっていた。
流石に異変に気づいて、運転席の後部を叩くと、突然、後ろから羽交い締めにされ、口を塞がれた。
刺激的な薬品の臭いと、手放すしかない意識が混濁していき、俺はもうそこらへんから記憶を失くしていた。
俺は昔から、みんなに何もできないと言われてきた。
移動手段の予約や通信の契約など一人でやったことがない。引っ越しの手続きも友人に手伝ってもらった。
いつも周りの誰かが俺の世話を焼いてくれて、何をしたらいいのか、促されるまま生きてきた。
渡された台本を読み込み、付けられた振り付けを覚え、ステージで歌い、踊った。
主体的でないと言ったら言い過ぎだが、そもそもこの道へ入ったのも親の勧めだ。
俺は俺が決めた、と自信を持って言えるようなものが少ない人生だと感じていた。
高い位置にある小さな窓からようやく一筋の光が射し込んできた。
朝が来たのだと知る。
もう何日ここにいるのか、日付の感覚がなくなりかけていた。
じゃら。
手には鎖が付いた手錠。
寝台にくくりつけられているが、片腕だけなので一応歩き回ることはできる。
しかし、鉄の門扉が冷たく外界からここを遮断していた。
食事が支給される時とあの忌まわしい時以外は人の出入りは無かった。
もう涙も出ない。
いくら声を枯らして叫んでも、助けは来なかった。
周囲に人の気配も全くない。
出される食事もあまり受け付けずに、体力の低下を感じる。
黴臭いエアコンがずっと動いているのに、ちっとも身体も暖まらない。何も身に付けていないので当然かもしれないけれど。
俺は目を瞑って、もう一度眠ることにした。
次に目が覚めたら今度は一条の光もない闇の中。
あの時間が近づいてきているのがわかって、俺は震えた。
薄いシーツを身体に巻き付けて、爪を噛んで正気を保つ。
ドンドンドンドン!!!
いつも固く閉まってほとんど開くことのない鉄のドアが叩かれている。
普段と様子が違うので、俺はおや?と思った。
「渡辺さん!!いるんですか?そこに???」
その声を皮切りに、周囲にパトカーのサイレンがけたたましく鳴り響き出した。
銃声が二発、三発。
大勢の人間の怒号。
「犯人確保!!!」と叫ぶ荒々しい男たちの声。
そして俺はこの暗闇から、10日ぶりに解放されたのだった。
コメント
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今後どうなるのかストーリー気になります! 続き楽しみです♪
しょっぴー誘拐されてもしかして... 犯人の目的は?犯人は?今後どんなストーリーになるのか... 続きが気になります‼️