____四月十七日。午前八時。
「……ん? もう……朝か。まだ眠いけど、そろそろ起きないといけないよな……って、なんで俺の布団はこんなに膨らんでるんだ?」
その直後、ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)は布団が膨らんでいる理由に気づいた。それは。
「おーい、みんなー。頼むから起きてくれー。いくら俺の触覚が麻痺してるからって、俺の布団で寝ていい理由にはならないぞー」
その時、十一人のモンスターチルドレンとその他の存在たちが目にも留まらぬ速さで俺の布団から脱出し、お茶の間に向かった。
「なんで俺の布団で寝ようとするんだろうな。さて、そろそろ起きるか」
俺はそう言いながら、起き上がると、背伸びをした。……さてと、行きますか。
*
朝にしなければならないことを全て終えると『家族会議』を開いた。(ちゃぶ台の周りに座っている)
「さて、これから『蒲公英《たんぽぽ》色に染まりし花畑』に行くわけだが……」
「ナオトと一緒に行く組と留守番組を決めないといけないのよね?」
俺の右隣に座っているミノリ(身長『百三十三センチ』の吸血鬼)が俺のセリフを言ってしまったため。
「まあ、そういうことだ」
と言うしかなかった。
「それで? 今回もジャンケンで決めるの?」
ミノリ(吸血鬼)が俺の顔を見ながら、そう言った瞬間、全員の顔が戦《いくさ》に行く前の武士の顔になった。
「いや、今回はジャンケンはやらなくていい。というか、やらないでくれ」
それに対してミノリ(吸血鬼)が。
「え? どうして?」
疑問符を浮かべながら、訊《き》いてきた。まあ、そうなるよな。
けど、今回は違う方法で決めないといけないんだよ。じゃないと……。
「偏りが出るからだよ」
「偏り?」
「みんなが俺と一緒に冒険したいのは分かってる。けど、毎回ジャンケンにしてきたせいで、行くメンバーが偏ってるんだよ」
「ソーナノ?」
「ソーナンス」
「……へえ」
「リアクション薄いな。うーん、それじゃあ、これから、お前に現状を知ってもらおうかな」
「現状?」
「ああ、そうだ」
「それってどういうものなの?」
「うーん、分かりやすく言うと、この物語の現状……かな?」
「そんなこと話してる暇《ひま》あるの?」
「大丈夫、大丈夫。ちょっとだけだから」
「そう……。じゃあ、早く話して」
「ああ、分かった。それじゃあ、話すぞ。俺たちの現状を」
ナオトはゆっくりと彼らの物語の現状を話し始めた。
「まず、俺たちの家族の説明だ」
「……え? それがどうかしたの?」
「ミノリ、お前は知らないかもしれないが俺以外の家族の説明はこんな感じだぞ」
「どんな感じなの?」
「えーっと、『十一人のモンスターチルドレンとその他の存在たち』だ」
「別にいいんじゃないの?」
「いやいや、前者は良くても後者はダメだろ」
「でも、間違ってないじゃない」
「確かにそうだな。けど『その他の存在たち』ってザックリしすぎだと思わないか?」
「うーん、まあ、そうかもしれないわね」
「だろ? だから、それに変わる表現方法を考えてくれないか?」
「それは〇〇が考えればいいんじゃないの?」
「まあ、そうだな。たしかに、そうなんだけど、うちの〇〇が気まぐれなのは知ってるだろ?」
「それは知ってるけど、だからって、あたしたちにどうこうできるものじゃないでしょ?」
「いや、できる。というか、しないとダメだ」
「あたしはそこまで悪くないと思うわよ。『その他の存在たち』って表現」
「いや、それはお前がそれに属していないから言えることだろう?」
「ええ、そうよ」
「即答すんなよ……」
「だって、本当のことでしょう?」
「まあ、そうだな」
「それで? あたしたちは何をすればいいの?」
「だから、『その他の存在たち』に変わる表現方法を考えてほしいって言ったろ?」
「そうだったかしら?」
「ああ、そうだ」
「あら、そう……。それじゃあ、こんなのはどう?」
「え? もう考えたのか?」
「あたしを誰だと思ってるの? こんなの朝飯前よ!」
「そうか……。なら、早速聞かせてもらおうかな」
「ええ、いいわよ。絶対気に入ると思うわ!」
「それは〇〇次第だから、分からないぞ?」
「大丈夫よ! あたしはメインヒロインなんだから!」
「いや、今それは関係ないと思うぞ……」
「細かいことはどうでもいいの! それじゃあ、発表するわよ!」
……不安しかない。
ミノリ(吸血鬼)は咳払いをすると、部屋全体に響くくらいの声でこう言った。
「……あたしが考えた『その他の存在たち』に変わる表現方法は! ……『|その他の存在たち《エージェンツ》』よ!!」
「……『|その他の存在たち《エージェンツ》』か。うん、いいんじゃないか? なあ、みんな」
俺がそう言うと。
『ハラショー!!』
なぜかロシア語で素晴らしいと答えた……。さて、そろそろ本題に戻るか。
「コホン。えーっと、それじゃあ、俺と一緒に行けるメンバーを選ぶ方法をこれから話すけど、準備はいいか?」
俺がそう言うと。
『アイアーイ! キャプテーン!』
そんなことを言ってきたため。
「聞こえないぞー!」
『アイアーイ!! キャプテーン!!』
俺はみんなに合わせてやった。(ス○ンジ・ボブのop直前のやりとり)
「それじゃあ、新しい選び方を発表するぞ。えー、新しい選び方は……」
その場の空気がガラッと変わったのをなんとなく感じながら、俺は新しい選び方を言った。
「……『指名制』だ」
『………………』
「なんだ? 聞こえなかったのか? それならもう一度……」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
俺が新しい選び方を再び言おうとした時、ミノリ(吸血鬼)がそれを止めた。
「どうしたんだ? ミノリ。何か言いたいことでもあるのか?」
ミノリは俺の襟首を掴《つか》むと。
「どうしたも、こうしたもないわよ! あんたの気分次第でメンバーを決めるなんてこと、あたしたちが許可すると思う!?」
俺はミノリ(吸血鬼)の目を見ながら。
「……えーっと、俺の言い方が悪かったみたいだから言うが、俺は一言も『俺が誰かを指名する』なんて言ってないぞ?」
「……え? そうなの? じゃあ、何なのよ。『指名制』って」
「今から説明するから、とりあえず手を離してもらっていいか?」
「え、ええ、いいわよ」
ミノリ(吸血鬼)の手が俺の襟首から離れると、俺は『指名制』についての説明を始めた。
「いいか、俺が言いたかったのは『いっせーのせ』で誰かを指差すやつだ」
「……それだけ?」
「ああ、それだけだ」
「あんた、あたしたちのことバカにしてるの?」
「別にバカになんてしてないさ。俺はただ『ジャンケン』よりかはいいと思ったから、この選び方にしただけだ」
「ナオト、あんたはそれでいいの?」
「ん? どういう意味だ?」
「いや、だから、その選び方だと……」
「前より偏りが出るかもしれない……ってことか?」
「ええ、そうよ」
「あー、それは大丈夫だ」
「どういうこと?」
「指差すのはお前らだけど、最終的には俺と名取とブラストの全会一致で決めるからだ」
※名取《なとり》 一樹《いつき》。
ナオトの高校時代の同級生。
名取式剣術の使い手で名刀【銀狼《ぎんろう》】の所持者。
前髪で目を隠しているのは、人見知りだから。
普段は途切れ途切れにしか話せないが、武器のことになるとよく話す。
今はナオトたちと共に旅をしている。
存在感が薄い。
「そうなの?」
「ああ、そうだ」
※ブラスト・アークランド。
この世界の人間で一月の誕生石をその身に宿す斧使い。
かなりの大男。ナオトと共に『ケンカ戦国チャンピオンシップ』に参加した。
「……えーっと、今からそれで決めるけど、本当に大丈夫?」
「ん? 何がだ?」
「いや、誰が誰を指したのか、分からなくならないかなって」
「それなら大丈夫だ。みんなから指を指された数の多い上位三人しか紹介しないから」
「そうなの?」
「ああ、そうだ。それに、俺たちの審議次第では、あともう一人、二人追加されるからな」
それを聞いた全員の背後からやる気に満ち溢れたオーラが見えた。
「そんじゃあ、そろそろ始めるぞ」
「ナオト!」
「なんだ? ミノリ」
「えっと、その、ナオトが……ナオトがもし指名するとしたら、誰を指名するの?」
ミノリ(吸血鬼)のその発言にみんなが反応したのち、みんなは一斉に俺の方を向いた。
「……そうだな……俺なら……」
「俺なら?」
「……みんなを指名すると思う」
「……え?」
「だってよ、みんながみんな、俺と冒険したいわけだろ? だったら、いっそのこと全員で行ったらいいんじゃないか?」
「……あんた、それ、本気で言ってるの?」
「ああ、もちろんだ」
俺がそう言った直後、ミノリ(吸血鬼)は「……ふっ」と笑った。そして……。
「……やっぱり、あんたは……あたしたちのマスターにふさわしい人間だわ!」
満面の笑みを浮かべた。
「そうかな? 別に普通にしてるだけなんだが」
「あんたのそういうところがあたしたちを虜《とりこ》にしたのよ? 分かってる?」
「そんなこと一度も考えたことないのだが……」
「へえ、そうなんだ。けど、今のあんたの発言でみんなはその気になっちゃったわよ? ちゃんと責任とれるの?」
俺はミノリ(吸血鬼)以外のメンバーの目を見た。そこには期待の眼差しを俺に向けている者たちがいた。なるほど、そういうことか……。
「責任がとれるかだと? 愚問だな……。そんなのいくらでも俺がとってやるよ! さあ、行くぞ! みんな! 今回は全員で冒険だ!!」
『やったああああああああああああああああ!!!』
一斉に立ち上がりながら、歓喜の声を上げるみんなの姿を見ていると遠足前に、はしゃぎ始める子どものように思えた。
「それじゃあ、行くぞ! 俺たち、みんなで!」
こうして『蒲公英《たんぽぽ》色に染まりし花畑』には全員で行くこととなった……。
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