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「元ヤクザだってんなら、もっと酷く突き放せばいい。最低な言葉でも殴るでも、俺のことちゃんとズタズタに傷つければよかった……」
「優しさを武器にして俺を遠ざけるなんて、そんなの……そんなの、一番残酷じゃないですか…っ!!」
俺は一気に捲したてる。
「……俺だって本気なんですよ。“守るため”とか“俺のため”とか言って、勝手に決めて、勝手にいなくならないでください……!!」
俺は、彼の目を真っ直ぐに見つめ、自分の本心をぶつけた。
俺の言葉には、彼への不満と、しかしそれ以上に
彼を失いたくないという強い思いがあった。
「確かに、俺のために仁さんが離れようとしてくれたのは、分かります……っ」
「でも!俺には、仁さんを忘れる選択肢なんてない…だからどうか、仁さんも俺や誰かのために平気なふりなんて、もうしないでください……っ」
そう言うと、仁さんは息を呑む音が聞こえてきた。
彼の表情は、一瞬にして凍りつき
その瞳の奥に、何か深い感情が揺らめいたのが見えた。
そしてしばらく沈黙が続いた後
仁さんは、まるで自分自身に言い聞かせるかのように、小さく呟いた。
「……そういうとこ、ほんと……俺には敵わねぇよ」
その言葉と同時に、ふわりとした温かい何かに包まれた。
それは、仁さんが俺を抱きしめているのだと
数秒後にようやく気付いた。
彼の腕が、俺の背中にしっかりと回され、俺の体を包み込んだ。
「…….仁さん?」
俺は驚いて身を捩った。
彼の腕の中で、俺の心臓が激しく脈打つ。
しかし、さんは腕に力を入れて、俺を離してくれない。
それどころか、さらに強く抱き締めてきた。
彼の腕の中に閉じ込められ、俺は彼の鼓動を感じた。
その鼓動は、俺の心臓の音と重なり合っていた。
「こんなとこまで来させて…今更手放すなんて、無理だな……」
耳元で囁かれる言葉と共に、彼の温かい息が俺の首筋にかかる。
その瞬間、俺の目から涙が溢れそうになった。
彼の声には、安堵と、そして深い後悔が混じっていた。
彼の声が、俺の心を優しく包み込んだ。
「仁さんが、まだ俺と同じ気持ちなら――俺は、逃げません」
「どんなに否定されても、ちゃんと俺の口で伝えます、俺が愛した人は、人様を殺すような人なんかじゃない」
「たとえ違う世界で生きてきたとしても、筋を通して、歯食いしばって地に足つけて生きてきた人で
俺の恋人は、俺が胸を張って“誇れる人”だって」
「だから…たとえ信じてもらえなくても、信じてもらえるまで何度でも言いますから…!俺の恋人は、仁さんしかいないって」
俺の言葉は、仁さんの心に響く分からない
それでも、彼に届けたい想いが山ほどあって
彼の腕の中で、俺はさらに強く彼を抱きしめ返した。
「………っ」
仁さんは、何も言わなかった。
ただ、俺の言葉を、静かに受け止めているようだった。
彼の震える肩が、俺の頬に触れる。
「仁さんが…大切な人を目の前で亡くしてきたのも、将暉さんから聞きました……」
俺は、仁さんの瞳を捉えながら続けた。
彼の目には、まだ癒えない傷跡があることを知っていた。
その傷跡が、彼をどれほど苦しめてきたのか、俺みたいな一般人には理解はしきれないと思う。
それでも、彼の痛みに寄り添いたかった。
「俺は――そんな簡単に死にません。たとえ何があっても、仁さんを置いてどこかへなんて、絶対に行かない」
「……!」
俺の言葉に、仁さんはまたビクリと身体を震わせた。
そしてそのまま、ぎゅっと背中に回していた手に力を込めて、強く抱き締められる。
彼の腕の力が、俺の決意を確かめるかのように強まった。
俺は、彼の温かい腕の中で、安心感に包まれた。
「仁さんは、俺のこと、今はどう思ってますか……?」
彼の答えが、俺の未来を決める。
その言葉には、俺の全ての希望が込められていた。
「……もちろん、愛してる。もし一緒に生きることを選べたなら――俺はこの先ずっと、何を失っても君だけは守り続けたい」
「それでも、楓くんがそんな選択をしたら、俺のせいで楓くんが苦しむことだってたくさん出てくるだろ」
彼の声は、切なさと、そして俺を想う気持ちで震えていた。
きっと、俺が泣いてしまうと思っているのだろう
この人は、誰よりも優しい人だから。
その声には、俺を巻き込むことへの躊躇と
それでも俺を守りたいという強い思いが込められていて
改めて、どれだけ心優しい人なんだろうと思えてくる。
それでも、俺の決意は揺るがなかった。
「それでも、それでも俺は…あなたと生きたいで
す、どんな壁があっても、仁さんと乗り越えたいんです」
俺は、彼の胸に顔を埋めて、そう告げた。
彼の温もりが、俺の心を包み込む。
彼の鼓動が、俺の心臓に直接響いてくるようだった。
「…あとから後悔したって、離してやれないぞ、俺なんかと、生きたら」
その質問にも似た言葉は、あまりにも愚問だった。
俺の心は、すでに決まっていた。
後悔なんて、するはずがない。
「……仁さんは無愛想で、不器用で、なんでも一人で抱え込んで。
どうしてそこまで、って思うくらい、情にあふれてて――」
「だからこそ、俺はその隣にいたいんです。
仁さんが一人で苦しむことのない日々を、俺と一緒に生きてほしい。」
「守られるだけじゃなくて、俺も守りたい。
仁さんが、隣で笑える日常を、俺がつくっていきたいんです。」
「だから俺は、後悔なんてしません。」
俺の言葉に、仁さんは再び身体を震わせた。
俺の言葉が、彼の心の奥底に届いたことを感じた。
「…………っ、楓くんは本当に、馬鹿だよ…っ」
そう言って、小さく笑う声が聞こえた。
その声には、少し安堵のような感情が混ざっていて、仁さんは深いため息を吐いた。
彼の肩の力が、少しだけ抜けたように感じた。
「本当に……いいんだな、俺で」
彼の声には、まだ微かな迷いが残っていた。
その迷いを、俺が断ち切ってあげたかった。
だから俺は、迷いなく、そして最高の笑顔で応えた。
俺の笑顔が、彼の迷いを吹き飛ばすようにと願った。
「俺には、仁さんしかいません。それに俺……仁さんになら、たとえ裏切られても構わないって思えるくらい――本気で、愛してる、それが俺の覚悟です」
「自分で決めたんです。この想いに、逃げずに、最後まで貫くって」
「だから、たとえ世界中が仁さんを否定したとしても――俺だけは、最期まで味方でいます」
「っ」
その答えを聞いた瞬間に、仁さんは再び力強く俺を抱き寄せた。
俺の耳では、鼻を啜る音が聞こえた。
きっと、泣いているんだろうと思った。
彼の震える肩が、俺の頬に触れる。
彼の涙が、俺の肩に染み込んでいくのが分かった。
…この人は、一体今までどれだけ我慢してきたんだろうか。
弱さを見せることを、誰かに縋ることを
どれだけ独りで耐えてきたんだろうか。
その重みに、俺は胸が締め付けられるようだった。
彼の背中から、彼の抱える全ての苦しみが伝わってきた。
そこでようやく理解できた気がする。
(仁さんは……ずっと独りでたくさんの重荷を抱えてたんだ…)
自分よりも他人の人生を優先してしまうような性格だからこそ余計に辛かったはずで
その痛みは、計り知れないほど深いものだったに違いない。
彼の涙は何年もの間、心の中に閉じ込められていた感情の表れだった。
その姿は新鮮で、俺はただ、彼の頭を優しく撫でることしかできなかった。
彼の髪は柔らかく、その感触が、俺の心を温かくした。
仁さんはそれを拒むことなく、俺の頭を抱え込むようにしてさらに強く抱きしめてきた。
彼の温もりが、俺の全身に染み渡る。
彼の腕の中で、俺は彼の全てを受け止めるように、強く抱きしめ返した。
俺は、その背中に両手を回し
彼の痛みを少しでも和らげようと、そっと撫でた。
彼の背中から伝わる彼の鼓動が、俺の心と重なる
すると、仁さんはゆっくりと口を開いた。
「楓くんが俺を選んでくれるなら、それだけで充分だ。俺も、きみを生涯懸けて守りたい」
その声は、まだ少し掠れていたが、そこには確かな決意が宿っていた。
「そのためにも……お兄さんと、しっかり話そう。認めてもらえるまで、何度でも」
そう言った彼の声は、もう震えてなどいなかった。
その言葉には、揺るぎない覚悟と俺への深い愛情が込められていた。
その言葉通りに、きっと彼とならどんな困難も乗り越え、やり遂げられると信じられた。