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【第九話:白日の下の包囲網】
「うわ、やべっ! 遅刻する――!」
江古田の通学路。黒羽快斗は、幼馴染の青子の小言を背中で聞き流しながら、食パンを咥えて全速力で走っていた。
昨夜の松田との一対一の死闘、そして正体がバレかけた恐怖のせいで、一睡もできなかったのだ。
(あのお巡りさん、江古田までは追ってこねぇよな……?)
そんな淡い期待は、次の角を曲がった瞬間に、木膚(きはだ)のごとく粉砕された。
道の端、電柱に背を預けて立っている男がいた。
黒いスーツの上着をラフに崩し、サングラスの奥から真っ直ぐに自分を見つめている。
――松田陣平。
「げっ……!?」
快斗は思わず足を止めた。心臓が嫌な音を立てて跳ね上がる。
松田は快斗の動揺を見逃さず、口元に不敵な笑みを浮かべると、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「よぉ、ボウズ。ずいぶんと朝から元気じゃねぇか」
「え、あ、あの……何ですか、お巡りさん? 俺、ただの高校生なんですけど……青子、先行ってて!」
快斗は背後の青子を強引に先に行かせると、踵を返して路地裏へと逃げ出そうとした。
「おい、待て。逃げられると思ってんのか?」
松田の声が背中に突き刺さる。快斗は裏路地を複雑に曲がり、マジックのステップで撒こうとした。だが、どれだけ角を曲がっても、背後から聞こえる確実な足音が止まることはない。
高い身体能力と、プロの追跡術。ただの高校生として走る快斗では、距離を引き離すことすら叶わなかった。
ついに袋小路に追い詰められ、快斗が息を切らせて振り返る。
松田は追いつくや否や、壁に片手をついて快斗の退路を完全に塞いだ。白日の下、至近距離で二人の視線がぶつかり合う。
「ハァ、ハァ……何の話だか、俺にはさっぱり……!」
「まだ白を切る気かよ。黒羽快斗、17歳。江古田高校の2年B組」
松田が淡々と告げた言葉に、快斗の身体が硬直した。
「今朝、お前の学校の担任と、さっきの幼馴染の父親――中森警部のところへ行ってきてな。お前のこと、隅から隅まで洗わせてもらったぜ」
「中森警部……!?」
「あぁ。お前の親父さんが、8年前に事故で亡くなった天才マジシャンの黒羽盗一だってこともな」
松田のサングラスの奥の目が、鋭く細められる。
「親父の死の謎、そしてキッドが狙う宝石の共通点……。お前がなんで泥棒なんていう泥沼に足突っ込んでんのか、大体の予想はついたぜ。……お前、一人で何と戦ってやがる」
快斗は息を呑み、言葉を失った。
逃げることはおろか、自分の日常も、秘めていた過去も、そして孤独な戦いの理由さえも、この男にはすべて見透かされていた。
命の恩人であり、自分が世界で一番敵に回したくなかった警察官。その松田陣平という巨大な壁の前に、快斗は完全に立ち尽くすしかなかった――。
コメント
2件
快斗さん松田さんについに追い詰められちゃった…! どうするんだろ、
うわ……松田さん、めっちゃ追い詰めてくる……! 朝の通学路であの距離感、しかも青子ちゃんの前でってのがもう緊張感ヤバかったです。快斗くんの心臓バクバクがこっちにも伝わってきて、息苦しくなるようなシーンでした。特に「一人で何と戦ってやがる」って台詞が重くて、胸にグッときました。松田さんの、ただの刑事じゃない“人間としての強さ”が滲んでて、もう好き……🥀🤍 続きが気になって仕方ないです!