その部屋に小さめのスーツケースを置かせてもらうと、尊さんがまた手招きして手前の部屋を案内してくれた。
「ここは俺の書斎」
「ほう……」
部屋にはデスクやパソコンがあり、あとは本棚に本がびっしり詰められてあった。
奥にある十五畳ほどの寝室には、どでかいベッドとゆったり座れる長ソファセット、こちらにも液晶テレビがある。
ウォークインクローゼットは二箇所あり、スーツや私服、小物などが整頓されて並んでいた。
主寝室には専用のトイレ、洗面所、シャワーボックスまでついている。
「あと、リビングから通じる防音部屋にはピアノがある。質問は?」
「……ピアノ弾くんですね」
「まぁな」
「……一人で寂しくないです?」
心から疑問に思った事を言ったけれど、嫌そうな顔をされて終わってしまった。
そのあと、ポンと頭に手を乗せられる。
「これからお前と住むんだろ」
「…………はい!」
そう言われると、顔のにやつきが止まらなくなってしまった。
リビングに戻ると町田さんが料理をダイニングテーブルに並べていて、尊さんがワインセラーからワインとシャンパンを出した。
尊さんいわく「仕事を頑張った褒美に、肉を用意しておいた」らしい。
綺麗な薔薇色のローストビーフが、大きく厚めに切られ、お皿の上に並べられている。
他にも前菜三種盛り、様々な種類の温野菜を山葵ベースのドレッシングで和えたサラダ、ゴボウのポタージュもある。
「それでは、どうぞ召し上がれ」
町田さんはすべての仕事を終えたあと、明るく言って帰っていった。
「彼女、今日で仕事納めなんだ。正月料理とか、張り切って作ってくれて、冷蔵庫や鍋の中にある。ま、年末年始、食っちゃ寝しようぜ」
尊さんはシャンパンの栓を開け、グラスを斜めにして注いでいく。
「楽しみです」
「お前が好きそうな酒、とりあえず全部揃えておいた」
「嬉しいですけど、大酒飲みみたいな言い方やめてください」
減らず口をたたくと、彼はクスクス笑った。
その日は美味しいご飯とお酒を食べて飲んで、お風呂に入ってイチャイチャして寝た。
翌日、三十日は早めに起きて、尊さんと一緒に築地まで行ってでかいカニや海老、大トロに中トロ、ウニ、いくらを買ってくる。
尊さんに「なんでそんなに目を見開いて食い物を凝視してるんだよ」と笑われたが、無視した。だって美味しそうだったんだもん……。
買い物を終えて車で帰ったあとは、海鮮をでかい冷蔵庫にしまい、近くのラーメン屋さんへ行く。
午後はテレビで映画を二本見て、夜になってから銀座にある高級寿司店に向かった。
メニューが〝お任せ〟しかない恐ろしいお店で、最初は緊張していたけれど、最初の平目を食べてから美味しくて感動し、集中して味わっていった。
お寿司に合う日本酒も飲んで満足した私が、帰ったあとに〝寿司代〟として尊さんにペロリといただかれたのは言うまでもなく……。
三十一日は遅めに起きて、お昼前に尊さんが作ってくれた海鮮丼を食べた。
昨日築地で買った海鮮を使った高級食材丼で、私は「おいしい、おいしい」と涙ぐみながら食べた。その姿を見た尊さんが、震えるほど笑っていたのは言うまでもない。
そのあとはまたゆっくり過ごし、夕方にお風呂に入って落ち着いたあと、A5ランクの但馬牛リブロースで最高のすき焼きを食べた。
お肉が溶けるという現象を初めて味わった私は、満足いくまですき焼きを食べ、少し脂っぽくなった口の中を、尊さんが前もって自由が丘で買ってくれたソルベで洗い流す。
二人で片付けをしたあと、私たちはテレビをみながらソファでぐうたらしていた。
「……死んでしまうかもしれないです」
尊さんに膝枕をしてもらっていた私は、ボソッと呟く。
「は?」
「こんなに美味しい物、食べた事なかったです。こんな幸せな年末も経験した事なかったです」
「あと、カロリーやべぇな」
「言わないで!」
ボソッと言った尊さんの言葉を聞き、私はバッと両手で耳を覆う。
それを見て彼はクスクス笑い、私の髪を弄ぶ。
コメント
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朱里ちゃん、カロリーは大丈夫👌 尊さんがゼロにしてくれる😂 飲んで食べて寝てイチャイチャ🥰これでいいんです〜😉