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第五十四話 クリスマス・イブ
「同じ時間にシャッターを切る。それだけで、心はすぐそばにある気がした。」
十二月二十四日。
街はクリスマス・イブの賑わいに包まれていた。
駅前には大きなクリスマスツリー。
イルミネーションが
夕暮れの街を優しく照らしている。
学校は冬休みに入り、
湊は朝からカメラの手入れをしていた。
今日は、ずっと楽しみにしていた日。
紬との約束の日だった。
*
午後四時。
スマートフォンに紬からメッセージが届く。
《準備できた?🎄》
《もちろん。》
《午後六時ぴったりね!》
《うん、約束。》
その短いやり取りだけで、自然と笑みがこぼれた。
*
午後五時三十分。
湊は駅前の広場へ向かう。
大きなツリーの前には、
家族連れや友達同士、恋人たちが集まっていた。
笑い声があちこちから聞こえる。
カメラを構えながら、ふと空を見上げる。
冬の空は澄み切っていて、
夕焼けがゆっくりと夜へ変わっていく。
*
一方その頃。
紬は留学先の広場に立っていた。
広場の中央には、
日本より少し大きなクリスマスツリー。
雪が静かに降り続いている。
白い息を吐きながら、カメラを握りしめた。
「あと少し…。」
時計を見る。
17時59分。
あと一分。
*
そして——
18時00分。
日本と海外。
離れた場所で。
二人は同じ瞬間にシャッターを切った。
カシャッ。
*
写真を送り合う。
《送るね。》
湊が撮ったのは、
イルミネーションに照らされた大きなツリーと、
その前で肩を寄せ合う親子。
紬が撮ったのは、
雪が舞う広場で、小さな女の子が
サンタクロースの帽子をかぶったおじいさんに
手を振る一瞬だった。
《やっぱり神崎くんらしい写真。》
《紬の写真も、すごく温かい。》
どちらもクリスマスの景色。
でも、本当に写っていたのは、
人を想う優しさだった。
*
夜。
二人はビデオ通話をつなぐ。
画面の向こうで、紬が小さな箱を見せた。
「クリスマスプレゼント。」
「え?」
「帰国したら渡すね。」
「そんなの気になるじゃん。」
湊が笑うと、紬も笑い返した。
「神崎くんも、何か隠してる顔してる。」
「ばれた?」
机の引き出しには、小さく包装されたプレゼント。
帰国した日に渡そうと決めていた。
「それも、お楽しみ。」
二人は同時に笑った。
*
通話が終わったあと。
湊は今日撮った写真をアルバムへ貼る。
その隣には、
紬から送られてきたクリスマスの写真。
違う国。
違う景色。
それでも、二枚の写真を並べると、
一つの思い出になった。
ページの下に、湊は静かに書き添える。
『来年は、同じ場所で。』
その願いは、きっといつか叶う。
そう信じながら、アルバムをそっと閉じた。
📷 Photo.054『同じ夜の約束』
撮影日:12月24日 18:00
離れていても、
同じ時間を大切に想える。
それだけで、
この夜は特別な思い出になる。
コメント
1件
リオンです。第54話、読み終えました。 離れた場所で同じ時間にシャッターを切る――その演出が本当に美しくて、胸がじんわり温かくなりました。湊くんが撮ったイルミネーションと親子、紬さんが撮った雪とサンタ帽の女の子、どちらも「人を想う優しさ」が写っていて、写真の持つ力ってこういうことなんだなと感じました。最後の「来年は、同じ場所で」という一行が、希望に満ちていてとても素敵です。遠くても、同じ夜を共有できる――そんな特別なクリスマスの話、ありがとうございました。
都築七美
106
花月夜れん
1,957