TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する


朝の光はやけに眩しかった。

けれど、あれは陽射しのせいじゃない。

眠れていない目が、ただ痛んでいるだけ。


教室の席についた遥は、机の上に肘をついて俯いたまま、誰の視線も拾わないようにしていた。

耳の奥には、まだ蓮司の声が残っている。


──言ってみたら? 抱いてくださいって。

──おまえの中で、“あいつ”が終わるんだよ。


(……あれ、嘘じゃなかったら、どうすんだよ)


怖かった。

優しさが、罪悪感からの施しだったら。

ほんの一時の贖罪が済んだら、日下部は──いなくなるのかもしれない。


ふと、視界の端に影が落ちた。

顔を上げなくてもわかる。日下部だった。


「……おはよ」


声は、変わらなかった。

あの日も、昨日も、何度も交わしたそれと、何も変わらず、ただ優しく響いていた。


けれど──今日は、それが遠かった。


遥は返事をしなかった。

目も合わせないまま、ノートの端に指先で意味のない線を描き続ける。


沈黙。

その数秒が、ひどく長く感じた。


「……なんか、あった?」


日下部の声は、ごく静かだった。

問いかけるのではなく、そっと置くように。

けれど、遥にはそれすら“測られている”ように感じた。


「別に。いつも通りだけど?」


返した声は、どこか乾いていた。

感情を押し殺すつもりだったのに、喉が勝手に軋んだ。


日下部が何か言いかけて──やめた気配がする。

その気配だけが、遥の神経を逆撫でした。


(なに、やめてんだよ。……言えよ、なんでも)


叫びたいのに、声にならない。

逃げたいのに、なぜかその場を離れられない。


「……無理すんなよ」


ぽつり、と日下部は言った。

その“優しさ”が、遥を突き刺す。


(無理してねぇよ。してねぇ……ふりしてんだよ、ずっと)


──おまえに壊されたくねぇから。

──汚れてるのは、俺のほうだから。


遥は俯いたまま、かすかに眉を寄せた。


日下部の足音が、教室の後ろに消えていく。


──追いかけなかった。

いや、追いかけられなかった。


“いなくなったらどうしよう”と怯えてるくせに、

“ここにいる日下部”には、なぜか声をかけられない。


(……ほんとに、俺、なにやってんだよ)


机の上に落ちた髪の影が揺れた。

その下で、遥の指先はまた、ノートの上をぐちゃぐちゃに引っ掻き回していた。



この作品はいかがでしたか?

5

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚