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「お客様の言葉に反応しちゃだめだよ賢一」
入ってきた時、たしかにテーブルにはグラスが置かれていた。いつの間に戻って来たのか、どのあたりから話を聞かれていたんだろう。しかもバーテンダーは名前で呼んでいる。
「北山さんと別れたんですね豊田さん」
ハニワのようになっている私の前でバーテンダーの片方の眉がクイッと上がる。
「賢一君、わかっていて黙って話を聞いてたんだ」
そうだそうだと私も大いに頷くが気まずいので空のグラスを持ち上げておかわりの催促をする。
「豊田さんがぜんぜん俺に気がつかないし、それ以前に豊田さんが和也に話していることで活き活きとしている感じだったから」
新しいロックをグイッと飲み干す
「バーテンダーさんは和也さんて言うのね、それなら和也さんて呼んでいい?」
「もちろん、いいですよ」
少し飲み過ぎていることはわかっていた。でも、和也さんに話したら給湯室での二人に対して感じたどす黒いモヤモヤとした物が少し薄らいでいた。
「豊田さんはリアルオフィスラブに興味があるですね、なら俺としましょう」
3つ年下の秘書課の後輩は楽しそうに微笑んだ。
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