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第4話:天敵
「ボー…」
{なにぼさっとしてんのー?}
「あ、舞…、いや何でもないよ」
この子は、ここでの僕の唯一の友達と呼べる存在だ
昨日の女官の一件もあったし、これからはもっと気軽に接することができるだろうと踏んでいる
舞(まい)は、僕よりも2ヶ月早くここへ来た先輩である
でも、正直僕の年季明けの時とほとんど時期は変わらない
だから、ここでの生活が終わっても仲良くしたいものだ
{えぇ〜、気になるじゃん!}
「何もなかったって」
{じゃあ昨日の夜、何してたの?}
「ギクッ」
{昨日の夜、寮室にいなかったじゃない}
{それに、外が少し騒がしかった}
{きっとさくらでしょ?}
この子……舞は、兎に角勘がいい
何事でも、こうかもしれない、ああかもしれない、なんて、予想ごとでもだいたい当たる
本当にすごい子だ
図星を刺された僕は何も言えず、黙り込んでしまった
{当たりですか、w}
なんでわかるんだよ…なんて、今更疑問にも思わない
これがこの子の個性なのだ
否定するほうが可笑しいだろう
私達はいつものように階段下の廊下を掃除していると、二階からあの人が降りてきた
『お、仕事に精が出てるな』
僕らは嫌々ながらお辞儀をして、
{黒崎様にお褒めいただけるとは光栄でございます}
舞は丁寧な口調で返事をした
さすが、先輩である
『よいよい、そんな畏まらなくても怒りゃしないよ』
{寛大な御心で、}
{ですが我らのような者にはそのような不躾はできません}
これまた、遠回しな皮肉な言葉で返す
これは上手い…
これじゃまるで、狸の化かし合いだな…
舞は、遠回しに関わってくるなと、
黒崎様は、格の違いと、身分の違いを口調と言葉遣いで見せつけてくる
その証拠にどちらの表情も無理やり笑顔を作ったような、口角が上がりすぎてる表情だった
それに、渋い顔
…どちらとも喧嘩したくないものだ
〈はぁ…、面倒…〉
あ、ここは同じ意見なんだな、感心…
〈お二人共、余りゆっくりと話し込んでいる暇などありませんでしょう?〉
〈どちらもお忙しいのですから〉
〈それとも、ここで何時迄も他愛の無い会話を続けるおつもりですか?〉
おお…、これは杠の一枚上手だな
二人とも渋い顔をしている
流石にそうか、何せ杠は、
(邪魔だから早く行ってくれ)
(どっちも仕事が大変ですね、w)
(本当に邪魔です。何の役にも立たない、他愛と意味のない会話を続けるほど馬鹿じゃないですよね?)
と、言っているようなものだからだ
一番喧嘩したくないのはこいつだったか…
と、僕の中で喧嘩したくない奴リストが更新された気がした
『そ、そうだな、』
『えー、コホン、では失礼する』
何、おっさんみたいな去り方…
別にかっこよくないですよ
なので、こっちをチラチラと見てこないでください
なんて、睨みつけて言ってやりたい
が、流石に我慢する
もう怒られたくはないのでね
{……私、あの人嫌いだわ}
「(でしょうね〜…)」
{何なの!?あの厭味ったらしい言い回し方…}
「まあまあ…」
{いや、二人ともムカつくわ…}
{てか、杠?って人、苦手すぎる}
「天敵……ってやつ?」
{それに近いかもね、できればもう話したくもないね}
僕としては、三人とも苦手です…
舞は遠回しな毒舌以外はいいんだけどね…w
{あ、そういえば、}
?
{さくら、花御格子に呼ばれてたよ}
{何かしでかしたの?}
「え…?いや…心当たりは__」
“ない”と、言いかけた。
でも、喉の奥で詰まってしまったその言葉は、
二度と出ることはなかった
たしかに、しでかしたかもしれない
昨日の夜、花御格子は黒崎と一緒にいた
そして、負けてないから、と
一言僕に言い残して行った
その件だろうか…?
{呉れ呉れも気をつけてよね}
{現、花魁の格子なんて、喧嘩売って勝てるようなもんじゃないからね?}
「わかってるよ」
たぶん、この子はもう勘づいている
僕は、まだわからないけど、最悪な状況下なのはハッキリしている
意を決して、僕は花御格子の個室の戸を叩く
「失礼します。音ノ瀬、参りました」
《どうぞ》
高く、綺麗な声が、今だけは少し不気味に聞こえた
僕は客にするように、両手で個室の戸を引き、正座のままお辞儀をした
「失礼いたします」
もちろん、格好は下女のような格好はできない
でも、いつものような服装や化粧では、位の高い
花御格子の前ではしてはいけない
だから、それなりに普通な格好で、人前に出ても恥ずかしくない程度の化粧で赴いた
《そこに座りなさい》
「はい」
本当に怖い
妙なくらい高く綺麗な声が、個室に響く
《…なんで呼び出されたかはわかる?》
「……何のことなのか、私めにはさっぱりと」
位の高い人の前で、うちや、僕、などの一人称は使えまい
僕は丁寧に返した
《はぁ…、そう、》
《では、質問》
《何故、黒崎様は貴方を指名したのか、知ってる?》
「…それに関しても、存じ上げておりません」
本当だ
本当に、僕は何も知らない
こんな面倒なことになるのなら、あの時隠れなければよかった
恐らく、そのせいであの人は僕に興味を持ったのだろう
なんて、そんな曖昧な理由を花御さんに伝えられるはずもなく
心のうちに留めておいた
《へぇ…?あの方は、貴方に興味をお持ちのようで…》
《何か貴方がしたのかと…》
物騒な、言い方だ
まるでカマをかけるような、僕にボロが出るのを待っている蛇のような
ねちっこい言い回しだ
こんなの、認めるまで部屋を出さないと言っているようなものじゃないか
「いえ、私めなど、黒崎様に興味を持たれるほどの魅力などありませんでしょう」
「それは花御格子もお分かりでは…?」
やられたらやり返す
僕はやられっぱなしなの、嫌いなんだ
花御さんの眉が動く
まあ、当然の反応だ
格下の相手に、(こんなことも理解できないのか)と、遠回しに言われたら…
僕でもそんな顔になるだろうな
これも、舞の教えである
毎日のように、舞の毒舌を見てきた僕からしたら、こんなの朝飯前だ
だが、残念なことに、僕はこの人が苦手だ
相手を品定めするかのような、鋭い視線
正直言うと、だいぶ苦手だ
そんな事言ったら、僕の首が跳ねるだろうな、なんて怖いことを想像してしまうほどに
この人は偉いお方だ
だから、下手には出られない
《…まあ、いいわ、》
《…もう一度言うけど、あーしは、負けてないから》
……花御格子、一人称出てます
こういう時は、もう少し上品に言うべきでは…?
と、思ったりもするが、気にしても無駄なので
頭の隅からどけた
「ええ、私も勝ったつもりはございません」
「そもそも、何の勝負なのかも見当がつきません」
…あ、言い過ぎた…
本音を言っただけなんだが、”貴方なんか敵ですらない”、と捉えられかねない…
《……早くお行きなさい、》
…ちょっと怒らせちゃったかな
眉が動いてますよー…、冷静に保ってるつもりでも、こんなに動揺することもあるんだな…
と、感心する僕に、思わず心の中で吹き出してしまった
「では、失礼いたします」
と、最後まで取り乱さずに冷静にことを終えることができた
「ふぅ…、疲れた…」
〈……やるな、お前〉
なんでお前ここにいるんだよ…
「聞き耳を立てていたんですか?」
「格子の部屋の聞き耳など、破廉恥なことですね」
僕と、こいつは、同格なので皮肉をたっぷりと込めてお返しした
〈……これは、一枚上手だな、w〉
〈いや、不躾だったな、失礼した〉
こいつに謝られるとなんかむず痒い…
「いいですよ、うちも言い過ぎました」
「すみません」
と、思ってもないことを伝えた
〈いや、思ってもいないことを言われても、謝られている気にはならんよ〉
おや、気づいてしまったか
たしかに、舞が気に入らないのもわかる気がする
こいつは、舞と似ている
勘が鋭い
それに、毒舌だ
自分は、自分と似たものが苦手というが、本当らしい
「…では、まだ仕事がのこっているので之にて」
次に何か言い返されたら何も反論できそうにないので、先に撤収させてもらう
〈いや、待て〉
〈俺がここに来たのは、今朝帰られた夜桜様の忘れていた用事を伝えに来た〉
なんだ…?
「なんでしょうか?」
〈お前、相当夜桜様に気に入られたな〉
〈今度、下町へ行こうと誘われているぞ〉
〈だから、明後日仕事が終わり次第、こちらに来て、翌日の朝出かけ用と仰せだ〉
は…??
そんなの、上級の花魁くらいでないと話が上がらないほどのものだ
「…そこまで気に入られた覚えなどないのですが」
動揺を隠すように、すっとぼけた
〈俺だってわからないさ〉
〈でも、俺は夜桜様の伝言を伝えに来ただけだ〉
〈受けるかどうかはお前が決めたらいい〉
〈でも、断れば…どうなるかは賢いあんたなら理解できるよな…?〉
…そんな脅しまがいのことを言って…
必ず来いと言っているのと同じじゃないか
どれだけ主君命なんだよ…
どちらにせよ、気を引き締めたほうが良いことは明確である
次回第五章➫♡60下町
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名前:鞠浪.舞(きなみ.まい)
イメージ↓
格子=花魁の中で2番目に高い位
1太夫(たゆう)
2格子(こうし)
3散茶(さんちゃ)
4切見世(きりみせ)←さくら達の位
※他の呼び方もありますが、省略しています
コメント
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ふぉ!