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第5話:下町
朝、珍しく暗い空が広がる
雨は降りそうにないが、天候はイマイチだ
これなら断る理由ができる…
と、心の中でガッツポーズをした
“天候が悪いので、黒崎様のお洋服を汚しませぬよう、お出かけはまたの機会に…”
と、言いたい
が、そんなに現実は甘くなく、朝から舞に身支度をされていた
華やかな服に、いつもはしないような髪飾り
メイクも丁寧にしてくれた
別にいいのに…、どうせ雨が振って台無しになるから
そう言ったら舞は残念そうに怒った表情をして
{さくらは黙ってやられなさい!}
って言われて、何も言い返せなくなった
結局、下町に似合いそうなお洒落で綺麗な中華系の服に着替えさせられ、万全の装備で約束の時間になった
正直、行きたくないという気持ちより、恥ずかしく、周りからの視線が痛いことのほうが問題である
下町でも、ここでも、黒崎様は人気だ
とても有名で、何より格好良い…そうだ
僕はそうは思わないが
黒崎様が来るまでの間、店の前のベンチで座って待つことにした
曇り空が広がる、普段の晴れ晴れとした朝模様とは違い、少し肌寒い
が、嫌いではない
実家の、母と兄が営む八百屋も喜んでいるのではなかろうか
父は…、知らん
僕を売った男のことなんて知るはずもない、知りたくもない
そんな嫌悪を抱きながら、少し襲ってくる眠気に耐えていた
…、い
…お…、い
『おい…!』
はっと我に返る
眠ってしまっていたようだ
『こんな所で寝るな…、風邪を引いてしまうぞ』
「お気遣いありがとうございます」
僕は無難に、黒崎様との間に少しの壁を作るように、返答した
『それで?行くのか、行かないのか?』
にやにやと、意地悪く聞いてくる
本当は行きたくないに決まってる
でも、ここで行かないと、馬鹿にされるようで気に食わない
「よろこんで、行きます」
どう見ても目元は笑っていないように、笑みを作った
僕らは下町へと、向かい歩き出した
歩いている最中の会話は、特に目立ったものはなく、無言というわけでもなかった
ただ、他愛もない時だった
そして、お目当ての下町へと足を踏み入れた
流石遊郭、下町といえど品があり華やかなお店が多い
しばらく、2人で話し歩いた
『おい、大丈夫か?』
黒崎様が顔をのぞいてきた
『なんか顔が暗いぞ』
「いえ、なんでもございません…」
冷たくあしらう、これも僕の役目だ
もう、この人に振り回されるのはごめんだからな
『そうか?じゃああそこに入ろう』
黒崎様が指差したのは、お洒落な甘味処だった
店内は、家具も店員も来るお客でさえお洒落
その客のなかでも一際目立っている黒崎様
…なんで僕はこの人とここにいるんだろう
『何を頼む?』
「では、餡蜜を…」
『俺は茶を』
餡蜜は昔から好きだった、甘くて、家では滅多に食べられなかったから
それにしても、こんな所まで来て御茶なんて…
質素ですね、なんて口が滑っても言えない
『…お前、以外にも甘いものが好きなんだな』
「……以外とはなんですか、酷いです」
「うちだって、甘いものが好きなんですよ」
名前…知っているはず…、呼んでくれてもいいのに、
…なんて、このもやもやはなんだろう?
ポツポツと、雨が振り始める
街を歩いていた人たちはいそいそと帰路につく
やはり、雨が降ったか
やめておけばよかった
もう帰りましょうと、伝えなければ
大雨になる前に
ふと、黒崎様の顔を恐る恐る見ると、
彼は微笑んでいた
餡蜜を頬張る僕を見て
先程まで、暗くなっていた僕の心が晴れていくように
明るくなるように、その微笑みに呑まれていた
『なんだ?俺の顔に何か付いてるのか?』
よく言う、俺が一番格好良いと知っているような表情をしておきながら…
「いえ…、なんでも、」
少し、照れたように
なんでもございませんと、言うつもりだったのに
言葉が続かなかった
喉で引っかかるように、敬語は言葉にできなかった
『なんだそれ、w』
『敬語なのか、敬語じゃないのか…w』
「別にいいでしょう?」
意地悪な人
わかってたくせに
僕が敬語使い慣れないから、所々不自然なところがあったなんて、気づいていたでしょ?
『……〜〜…、』
「え?今なんと?」
『あ、いや、聞こえていないのならいい…』
「なんですか、気になります…!」
『なんでもない、!』
「えぇ〜…!?」
2人で甘味処の窓際
久しぶりに笑った
先程まで曇って、雨が振っていた暗い空は
明るく、茜色に染まる
「晴れたようですね」
『だな…』
『さてと、じゃあ帰るか、!』
「そうですね、」
少し淋しい気もする
この時が終わらなければいいと
無性に感じてしまう
始まる前まではあんなに嫌だったのに
この人は不思議だ
僕が見つめていると、自慢げな顔して
『どうした??』
と、聞いてくる
なんでもないと、仕返しに言う
この何気ない時、僕は好きだ
『……また、こんなふうに誘ってもいいだろうか…?』
ポカンと、してしまう
でも、
「もちろん」
一言だけ、でもとても嬉しい一言だろう
彼はぱあっと、笑みを浮かべ
またなと、手を振りその背中を見送る
また、1日が終わった
僕がここにいられるのは、あとほんの3ヶ月
それまで、彼は飽きないだろうか
…そもそも、僕は好きにならないだろうか
消えるなど、迷信は信じてはいない
が、本当だったとき取り返しがつかなくなる
だから今は、友として、彼に接していよう
それに、先程言った言葉
聞こえてしまっていたよ
意地悪なことに、僕は返事をしなかったけれど
内心照れていたんだ
恥ずかしくて口にも出せないけれど
『そういうところが可愛いんだよ…、』
なんて、聞いてないフリするしかないだろう…
第5話(裏話):甘味処に入る前
下町に着いた
賑やかではあるが、表だけ
裏では貧困が目立つ
この人はそんな裏にも目を向けなければいけない
だからこそ、今こんなことになっているのだろう
〝おいおい、いいもん着てんなぁ?〟
そこらの野盗だろう
それも、この街が生んでいる
この人はどう対応するのか…、
いや、その前に何故私らは裏路地などに入ってきているのだろう
『それがどうした?お前ら、ここのやつに暴力を振るっていただろう』
そうなんだ、知らなかった…
だからここに来たのかな…?
でも、僕を連れてくる必要ある…?
なら、杠と来ればいいのに…
〝はぁ?変な言い掛かりはやめろよ〟
〝その状況を目にしたのか??〟
御尤もだ
見ていないなら当てずっぽうで言っているだけだろう
偏見、とてもじゃないが謝って済む話じゃない
その事は彼らも分かっているようだ
さあ、この人はどう対処する
『ああ、見ていたさ、ずっと』
『俺はここで小店をしているからな』
……は??
え、偉い方なのに…?
〝なっ、馬鹿なこと言うな!〟
〝お前みてぇな金持ちがここで働いているわけねぇだろ!〟
これも御尤も
彼がここで働く意味がない
『はぁ…、想像できんのかあんたらは』
〝はぁ…?〟
『俺は、ここのやつらの空腹を満たすためにやってんだ』
彼は食い気味で話した
『さすがに俺の金ではできんからな』
〝そ、そんな…〟
そりゃ野盗も驚きだろう
正直顔には出していないが、とても驚いている
『さっさとここから立ち去れっ!』
迫力満点の顔と声に足が竦む
まあ、当然だろうに…
それより店をやっているのは本当かな…?
「あの、小店を出しているのは…本当なのですか…?」
『ん?ああ、』
『ここに来たのは、お前にここの現状を知ってほしかったのと、俺の店を見てもらおうかと思ってな』
……変な人だ、
ここまで偉い地位にいるのに、裏の人まで気にかける
本当に、変な人だ
彼が案内してくれた店は、裏路地に面したこぢんまりとした、パン屋だった
「…可愛らしいお店ですね、」
店内には、子供向けのためなのか、とても明るい照明や、壁紙
動物の置物などがあった
『そうか?』
少し、照れているようだ
わかりにくい人め、
でも僕は彼の耳が少し赤いことを見逃さなかった
「あれ、照れてるんですか?」
にやにやと、ご自慢の嫌味でも言うのかと思っていたが、彼は以外にも冷静に
『そりゃ、褒められたら嬉しいだろ…//』
と、なんですか、それ
ずるいです、反則です
そんな顔されたら、こっちだって照れます
「……///」
無言の中、彼が渡してくれた暖かいパンがとても美味しかったことは覚えている
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次回第6話➫♡70新人
さくら:デート服イメージ
コメント
7件
にやけるわ
めっっっっlちゃいいよぉおお!