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「何? 星埜は、加害者家族が、被害者家族の墓参りしちゃダメって言いてえの?」

「はっ、誰がそんな――」




どうでもいいというように、朔蒔は俺の前に立って、供えてあったしおれかけの花を捨てて、持ってきた花をブッ刺していた。これであってんのか? と独り言を呟きつつ、朔蒔は、乱暴ながらも丁寧に、花を生け、水をたっぷりと入れて、手を合わせた。礼法も何もかもなっていなかったが、ちゃんと形にはしようと努力しているのが見て取れた。そして、墓参りを終えると、俺の方を振返った。




「星埜」

「な……んだよ、朔蒔」

「俺が、学校行かないの怒ってる?」

「はあ?」




何を言われるんだと身構えていれば、そんなことだった。いや、そんなことではないし、かなり重要、成績、進級に関わる事だ。いつもの俺なら「学校に来るのは義務だろ!」なんて、叫んでいただろう。でもそんな気もおきなければ、何でそんなことを言うのかと、そっちの方が不思議だった。感覚が麻痺していることに、気付けなかった。

朔蒔は「別に、怒ってるかなァって気になっただけ」とぶっきらぼうにいう。

何処か刺々しくて、それでいて壁を距離を感じてしまった。あの日以来、あうのは初めてだ。夏休み明け、あうのはこれが初めてで。今度会ったら何を話そうかなんて決めていなかったから、俺は口が開かなかった。




「星埜、聞いてんの?」

「きい、てる。で、なんで俺に」

「ん? 答え、出たのかなァなんて思ってさ。その様子じゃ、まだまだみてェだけど」

「答え……」

「俺の事好き?」




と、朔蒔は、悪戯っ子のように聞いてきた。期待の眼差し、そして、その奥に捨てないで、置いていかないで、と子供の朔蒔が見えた気がした。幻覚だろうかと思ったが、確かに見えたのだ。


何となく察してはいる。けれど、殺人鬼の息子というのが俺にあと一歩を踏み出させてくれない。それがなければ良いのに、と何度思った事か。でも、これも変えられない事実で。




「……き、だと思う」

「聞えない」

「……すき」

「もっと、大きな声で」




そう、急かされて、俺はピキンと何かが切れた音を聞いた。

何で、いわせようとしているのか。俺の気持ちなんて、それほどのものだと思われているのか。ただ、答えが欲しいのか。一つにまとまらなかったが、ただ、この目の前の男は、相容れない存在かも知れない、俺の事を理解してくれない存在なのかも知れないと思ってしまった。




「なァ、星埜……」

「触るなッ!」




バシンッ! と痛い音を響かせながら、俺は朔蒔の手を払ってしまった。本当無意識だった。理性で止める前の手がでた。これじゃあ、一緒じゃないかと。

朔蒔は、驚いたように俺を見つめたあと、叩かれた手をもう片方の手で押さえ、もう一度俺の方を見る。朔蒔の目に俺は、理解できないものとして映っていた。




(違う、違う、違う――!)




「星埜……」

「違う」

「星埜って」

「違う……違う、から」

「怒ってねェし、俺が言いすぎて」

「朔蒔は悪く……ない」




ただそれだけは本当だ、と俺は伝えるために、喉から絞り出して、言葉を発する。痛かった。胸が張り裂けそうだった。

答えが出たような気がしたんだ。

多分、もう止められないって。自分の正義に反する……いや、これはこれで、自分の正しさを選んだ結果なのかも知れない。




「医者の子供は医者になるのか」

「……」

「殺人鬼の息子は殺人鬼になるのか……」

「……」

「なあ、朔蒔はどうなんだ?」




問いを問いで返す。

朔蒔の目が泳いだ。あの真っ黒な瞳が、左右に動き、それから、朔蒔は肩を落とし、目を伏せた。




「なる」

「……」

「……かも知れない。でも」

「分かった、朔蒔」

「星埜?」

「矢っ張り、言い切れないよな。だって、お前には、殺人鬼の血が流れてるんだから」




笑って言ってやった。

事実、変えられない事実。何処に生れるとか、誰の子供に産まれるのとか、それは選べない。それも、運命。

全て、運命なんだ。

俺達が出会ったのも、俺達の親に問題があるのも、楓音が死んだのも、俺がお前を好きになったのも、全部運命って言葉で片付ければ、それでいいだろう。




「悪い、朔蒔。俺、帰るから……また、学校で」

「せ……」




後ろで、朔蒔が俺の名前を呼ぶ。手でも伸ばしているのだろうか。だが、俺は知ったことではないと、朔蒔に背を向け、墓地をあとにした。もう一度だけ、整理したい。今のまま朔蒔と話しても、きっと俺はしっかりと答えを出せない。いいや、曖昧に言ってしまうだけだ。それは、朔蒔にとって失礼だし、俺だって納得できない。

酷い言葉で突き放した、そう思われるかも知れないけれど。

俺は、答え……っていう答えは、もう喉元まで来ている。朔蒔は、きっと気づいていないだろうけどさ。俺が酷い奴に見えたかも知れないけどさ。ヴィランを前にして、焼かれる街を見て逃げ出したヒーローと思うかも知れないけどさ。




(……可能性ってのは、捨てきれないよな)




医者の子供は医者になるのか。殺人鬼の息子は殺人鬼になるのか。


それは、子供を、親の副産物と考えたときの話だろ?


君と見つけた片割れ時の一等星

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