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第三話 「夜に残されたノート」
「お姉さん……?」
私と怜の声が、ほとんど同時に重なった。
美園は静かにうなずいた。
手に持っていた古いアルバムの表紙には、
薄く色あせた名前が書かれていた。
『白鷺 美咲(しらさぎ みさき)』
——1年前に姿を消した生徒の名前だ。
「どうして……今まで言わなかったの?」
私が問いかけると、美園は小さく笑った。
けれど、その笑顔はどこか壊れそうで。
「誰も信じてくれなかったの。
“放課後に呼ばれた”なんて言っても、
ただの噂だって、みんな——。」
彼女の手が震えていた。
怜が一歩、前に出る。
「つまり、美咲さんは“放課後に呼ばれた”と言っていた?」
「ええ。最後の夜……“理科準備室で誰かを待つ”って言って、
それきり、戻らなかった。」
静まり返る廊下。
誰かが遠くで窓を閉めたような音が響く。
その夜。
私たちは再び学校に忍び込んだ。
夜の校舎は、まるで別の世界みたいだった。
蛍光灯の明かりがひとつ、またひとつと点滅する。
「ここ……だよね。」
怜が理科準備室のドアノブをゆっくり回す。
中は前と同じように静まり返っていて、
ただ、机の上に一冊のノートが置かれていた。
表紙には、インクでこう書かれている。
『放課後日誌』
美園がそれを手に取る。
ページをめくるたび、古いインクの匂いが漂う。
「……これ、姉の字だ。」
1ページ目には、こう書かれていた。
『次の放課後、私は“声”の主に会う。
もし戻らなかったら——このノートを読んで。』
怜がページをめくる手を止めた。
そこに書かれていた次の言葉を、
彼は震える声で読み上げた。
『白石紬に伝えて。君は、私と同じ夢を見ている。』
「……えっ?」
私の心臓が跳ねた。
どうして——私の名前が、ここに?
怜と美園が息をのむ。
ノートの最後のページに、赤いインクで書かれた日付。
『10月19日——放課後。』
……今日の日付だった。