第四話 「声の正体」
『白石紬に伝えて。君は、私と同じ夢を見ている。』
その言葉が、頭から離れなかった。
“どうして、1年前に消えた彼女が私の名前を知ってるの?”
夜の校舎は、風の音すら止まっているようで、
自分の鼓動だけが響いていた。
「……紬、顔色悪いよ。」
怜が心配そうに私を見る。
「大丈夫。ちょっと、息が詰まって……」
でも本当は、怖くてたまらなかった。
ノートに書かれた日付——10月19日、放課後。
まさに“今、この瞬間”だった。
そのとき。
理科準備室の奥から、**カラン……**と小さな音がした。
「なに、今の……?」
美園が怯えた声でつぶやく。
怜がスマホのライトを向けた先、
床に古びた鍵が落ちていた。
タグには小さく、「2-B」と刻まれている。
「2年B組……私たちの教室?」
怜が鍵を拾い上げると、空気が一瞬、凍ったように感じた。
『……きこえる?』
耳元で、誰かの声がした。
確かに“誰か”が呼んでいる。
それは、どこか懐かしく、悲しい声だった。
私たちは息をひそめ、2-Bへ向かった。
夜の教室は、見慣れたはずなのにまるで別の場所。
机の影が長く伸びて、
月明かりの中で静かに揺れていた。
「……鍵、開けるよ。」
怜がドアを回すと、
ギィ……と鈍い音を立てて、ドアが開いた。
黒板に、何かが書かれていた。
白いチョークの文字で、たった一行。
『放課後に来てくれて、ありがとう。』
そして机の上には、
小さなメモ帳と“白いリボン”が置かれていた。
美園の手が震える。
「これ……お姉ちゃんの、だ。」
怜がメモを開いた瞬間、
スマホのライトが突然消えた。
闇の中で、誰かの“足音”が近づいてくる。
一歩、二歩、三歩。
「誰……?」
私の声が、震える。
その時、耳元で——
確かに“彼女”の声がした。
「紬、逃げて——」
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