コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「よし、全員テキトーに撃ちまくれー!」
完全に投げやりになったスタークの号令が響き、サイロバクラム人による散発的な攻撃が開始された。
ネフテリアの攻撃によって既にバラバラになっているドルティパスにはそれでも効果的なようで、逃げる個体にはさらなる脅しとなって遠ざけ、近づいた個体には直撃して食材になり果てる。今夜は肉パーティだと喜びながら、殺傷力を持たせたエーテルガンのようなアーマメント『Eブラスター』を撃ち、各々駆逐していくのだった。
「で、明らかに異常な興奮状態だと思うんだけど、心当たりは?」
「あんな派手に爆散させた後で、そんな事聞かないでください」
スタークが頑張って指揮しているので、この場一番偉いもう1人の人物、ハーガリアンに事情を聞くことにしたネフテリア。しかしハーガリアンにも分からないようだ。
「いくら巨大な餌がここにあるとはいえ、他にも危険な猛獣は集まっています。あれほど興奮しながら集団でやってくる理由が分かりません」
ドルティパスは集団行動をあまりしない鳥。それが群れを成して同じ方向に走るなど、普通ではあり得ない。しかもツインテイラーの残骸が見えていないようにも見えた……と、ハーガリアンは言う。
ますます不明となるドルティパスの行動。だが手がかりが無くなっているわけではない。
「アトは、ナニかにおわれていたパターンか」
「ですねぇ」
シーカー達はグラウレスタにも足を運ぶので、獣の大まかな行動パターンは当然把握している。つまり、何か別の脅威が、ドルティパス達がやってきた方向に現れたという事である。
「とべるヤツらでチョウサしたほうがイイな」
「分かりました。おーい!」
ここまで決まると、総司令であるハーガリアンの動きは早い。空からの調査はサイロバクラム人の得意とする所でもある。ほどなくして数名が個別に飛行し、ドルティパスがやってきた方向へと調査に向かった。そしてすぐに戻ってきた。
「大変です! 巨大なエーテルの壁が現れました!」
「はぁ? ……はっ?」
なんだそれは?と問いかける前に、それが目視できた。
高くそびえ立つ壁の幻の様に見えるそれは、サイロバクラム人であれば誰もが見慣れたエーテルそのもの。幻のように見えているのは、それがはるか遠くに存在しているせいであろう。そんなもの、先程まで見えなかった。つまり存在していなかった筈である。
突然の大規模な異変に、サイロバクラム人達の動きが止まった。その隙にと、動物達は散り散りに逃げていく。
全員が唖然と見上げているので、アリエッタもそれを見た。
「お?」
その瞬間、アリエッタの髪は虹色へと変化。つまり入れ替わったのだ。
(よいしょ。ゴメンねアリエッタ。あとはミューゼに抱き着いてっと)
「およ? どうしたのアリエッタ? 怖いの?」
「た、たすかった。よしいまのウチに」
エルツァーレマイアがアリエッタの体を操作し、ピアーニャから手を離し、ミューゼにしっかりしがみついた。ミューゼは嬉しそうにしている。ピアーニャは慌ててその場を離れ、シーカー達の指揮に向かった。
そして、体を安定させたエルツァーレマイアは、そのまま目を閉じ、アリエッタの精神世界へと戻った。
『どうしたの、ママ』
『いやなんかねー、このままだと危ないなーと思ったから』
のほほんとした雰囲気だが、何が危ないのかいまいち分からないアリエッタに色々と説明する必要を感じたので、今回は強制的にアリエッタを精神世界に呼ぶという手段に出たのであった。
『アレほっとくと、この世界滅んじゃうかも?』
『えっ、それ大変じゃん』
『そーなのよー。世界滅ぼすなんて酷いわよねー』
誰かが聞いたら「お前が言うな!」と憤慨しそうな話を、これっぽっちも大変そうじゃない雰囲気で始め、女神2人はこの後どう動くか相談するのだった。
「一体なんだありゃ?」
「エーテルだよな?」
サイロバクラムでも前例のない現象。しかもそれが徐々にはっきりと見えてくる。ということは、
「だんだん近づいて来てるみたいだけど……」
遥か遠くに見える物が近づいているのが分かる。それはつまり、実際は猛スピードで接近中という事である。
「人々を避難させねば」
「しかしあんなモノ相手に逃げ場は……」
「それならまかせとけ」
どうしたものかと悩む2人の総司令に、ピアーニャが提案する。
それは、可能な限りの人々をヨークスフィルンに避難させるというもの。それならばサイロバクラムで何が起ころうとも身の安全は保障される。
「だから、ソルジャーギアにはあっちのコロニーへ、ヒトビトをユウドウしてほしい。いきさきはテンイのトウだ」
安全が確保出来るならば、総司令2人にとっては願っても無い話である。
「で、ケイン。オマエたちはヨークスフィルンのウケイレをたのむ」
『心得た!』
警備隊長が丁度良い所にいたので、受け入れ先はヨークスフィルンになったのだった。あそこならば多人数をホテルに収容する事が可能なのだ。
ただし問題はある。
「……いきなり2人に増えたケイン見て、逆に警戒するんじゃ」
「しらん。そんなコトはあっちにまかせる」
なんとピアーニャはドルナ・ケインの問題を、ヨークスフィルン側に丸投げしてしまった。
そんなわけで、指示をうけて飛び去るソルジャーギアと数名のシーカー、そしてケイン達。
ミューゼがアリエッタをどうするか質問しようとした矢先、何かが飛んでくる気配を感じた。
「へっ?」
きゅいんっ
ずどおおおおおん!
巨大なエーテルの光が飛来し、少し離れた場所に着弾。大爆発を起こした。
『おわあああああっ!』
各々のスタイルで爆風に耐えるシーカー達。
ミューゼも木を生やして壁を作り、アリエッタを守る。パフィを始めとする仲間達も、木の陰に入ってくる。
「うへー、アレどうしましょう?」
「うーん、私は役に立てそうにないのよ」
「魔法も無理だって。遠すぎるし。逃げるしかない感じ?」
「ムームーさまぁ、クォンこわぁい♡」
クォンがここぞとばかりにムームーに密着して少しだけ胸元を撫でているが、それに関しては全員スルー。
なにしろ隠れた直後に、立て続けに遠くから爆音が響いてきたのだ。
そーっと顔を出してみると、遠くにある壁から光がいくつも飛んできている。どうやら先程と同じエーテルの塊が壁から飛んできて、色々な所に着弾しているようだ。
「いやホント、どうしよう……」
ネフテリアが困っていると、ソルジャーギアの総司令達を引き連れたピアーニャが飛んで来て、怒鳴り始めた。
「こらーっ! テリア! おまえナニしてんだ! さっさとボウギョマホウつかえー!」
「え? あっそーか! 【防魔陣】!」
思い出したネフテリアは対魔力用の障壁を広めに張る。どうみてもエーテルのみの塊なので、完全に防ぐ事が出来るのだ。
すると、そこへ殺到する残ったシーカー達。
ぎゅむっ
「ちょっ、狭い! 押さないでっ。誰今変なトコ触ったの!」
狭い範囲で大混雑。丁度その場所に、エーテルの塊が飛んで来た。
全員怖くて悲鳴を上げるも、【防魔陣】によって完全防御に成功する。
「流石は王女様!」
「信じてついてきて良かったぜ!」
「これからもエインデルブルグの為に働かせていただきやす!」
「そーゆーのいいから貴方達もなんかやってよ! 狭い!」
シーカー達の調子の良い賛辞にツッコミを入れつつ、ここからどう自体を好転させるか思考を巡らせるネフテリア。
数人のシーカーの魔法使いが同じ様に障壁を張り、人混みが分割された。だが、動けるようになったところで、根本をなんとかしないとこの事態を収める事は出来ない。
「あの壁に向かって行かなきゃいけないのよね」
「少しずつ近づいてきていますがねぇ……」
「サイゴには、ゼンブつぶされるんじゃないか?」
「それにあれほどのエーテルを破壊する手段などあるのでしょうか」
『うーん……』
全員で悩んでいる間も、エーテルの塊は所々に着弾している。幸いまだコロニーや人々には当たっていない。エーテルも、サイロバクラムのバリアでギリギリ防げているので、避難民に負傷者もいない。
しかし、壁が近づくと、どうなるか分からないのも事実である。
ピアーニャがどうしようか壁を見ながら悩んでいると、2つのエーテルの塊が飛んでくるのが見えた。
「チョクゲキくるぞ。わかっていてもコワイなー」
完全防御できるとはいえ、大爆発を起こす塊を目視しているのだ。ちょっと腰が引けている。
しかし、その塊を防ぐ事はなかった。
「危ないですぞ!」
グニュン
突如空中に現れた黒い影。その付近に穴が2つ発生し、エーテルの塊を飲みこんだ。そして別の場所に穴が2つ現れ、壁に向かってエーテルの塊を射出した。
「お?」
「なんだ!?」
飛んで来たそのままのスピードで帰っていくエーテルの塊は、1つは別のエーテルによって撃ち落とされ、もう1つは壁に着弾、爆発した。
「おお、ありがとうゼッちゃん!」
「いえいえ、お怪我はございませんか?」
現れたのはリージョンシーカーの創始者の1人、空間の歪みを監視する神イディアゼッターだった。
「うむ。このとおり、エーテルをふせぐシュダンが、あったからな」
「おぉ……危なくはなかったようですね……」
ピアーニャのピンチにカッコよく登場したつもりだったが、特にピンチじゃなかったので、ちょっとシュンとする神様であった。