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だらだらと冷や汗を流しながら戦慄していると、
「よし、プロット変更完了! これでどうかな?」
「「どれどれ」」
右側の人影が書き込んでいたコピー用紙を、残りの二人に渡し、それを見た二人が声をあげて読み始めた。
「何々、『コユキはドブネズミに噛まれて人知れず死んだ』、『その魂は妹達に譲渡され二人は復活』、か」
「『妹達は魔法を駆使して悪魔を駆逐(くちく)』、『無事家族も復活』、『コユキは不忍池(しのばずのいけ)の底で腐乱していた』、ふーん、悪く無いじゃん」
「いっそのこと、大幅改稿して、最初からいない事にしても良いかなとは思ったんだけどね♪」
「お、お願いしますぅ! こ、殺さないで下さいぃ! か、神様ぁ!」
コユキは動けないので直立したまま、大きな声で哀願するのであった。
暫く(しばらく)そうして叫び続けていると、人影が揃って立ち上がり、一斉に言葉を発した。
「「「創造者の力、思い知ったか! 敬え、この創作物めが!」」」
「ひいぃ! う、敬いますっ! もう、敬マックスでっすっ!」
「「「よしっ! ならば帰って良し!」」」
コユキの誓いを聞いて満足したのか、三人は踵(きびす)を返して立ち去ろうとしたが、その時初めてチラリと見えた彼等の顔は、それぞれ微妙に顔色が違う物の、揃ってアライグマの様な顔をしていたのだった。
コユキは益々不気味さを感じていたが、敬わねばとの思いから、消え始めたアライグマ達に対して、慌てて声を掛けた。
「神様! これからはちゃんと敬います! お名前を、お名前をお教え下さい!」
「…………………………キースタ」
一言を残して、三人のアライグマっぽい神様はその姿を完全に消した、瞬間、コユキはホテルのベットの上に直立していた。
部屋の照明は明るく周囲を照らし、テレビからは何か良く分からない通販番組のプレゼンが響いていた。
コユキは辺りを見回してから、首を傾げて一人呟いた。
「あれ? なんか夢とか見ていた様な気が…… なんだっけ? それに、なんか立ってるし……?」
どうやら、夢見た内容は綺麗さっぱり忘れてしまっているようだった。
だが、この夜以来、コユキが運営神の事を、悪し様に罵る事は無くなったそうな、めでたしめでたし。
まだ、夏場の早起きの太陽も昇っては来ない時間だったので、二度寝を決め込んだコユキであったが、珍しい事に夢見もなく爽やかに六時過ぎには目覚めたのであった。
顔を洗い、さっぱりとした気持ちで着替えを始めたコユキは、松阪の肥育牛育成農家、秋沢(アキザワ)明(アキラ)から贈られたツナギの上に、無造作に置かれた(自らぞんざいに置いた)作業帽子を目にして動きを止めた。
その帽子は、モラクスの核を取り戻した時に、偶然その場に居合わせた、出荷組合の職員、辻井(ツジイ)道夫(ミチオ)から、他にあげる物が無いから…… と言う、非常に消極的で場当たり的な台詞と共に送られた、アライグマの顔が刺繍された安っぽいキャップであった。
ダセェナァっと思いつつ、辻井なんかにゃこんなモンが精一杯だろうな、なんて失礼極まりない感想を持ちつつ、幸福寺と実家の往復時、そして今回の『東京御のぼりさん上野動物園ブラシス奪還大作戦!』に他に無かったので仕方なく被ってきてあげた帽子の筈(はず)であった。
だが、コユキはこの安っぽい、どこか目線の定まらないアライグマの刺繍を目にした瞬間に、胸の前で両の指を組んで跪き(ひざまずき)、神への感謝を口にしたのである。
「神よ、私の信仰を捧げます、願わくば、貴方(あなた)の敬虔(けいけん)なる信徒の行く道に、御身の祝福があらん事を……」
うーん? なんかちょっと気持ち悪いけど、コユキが良いなら、まぁいいか?
祈りを終えたコユキは朝食を取るために、予約済みのレストランに赴いた。
残念ながら、フルバイキングではなく、セミバイキングで提供された朝食のメインディッシュは、コユキ的には随分少量だった。
こんな御時勢だから仕方ないとは言え、サイドメニューはともかく、メインを赤の他人に取って貰うのは、中々に気を使ってしまうし、何より乙女としては恥ずかしくもある。
そういった理由で、コユキはメインを僅(わず)か六杯お代わりしただけ、都合腹五分目でチェックアウトする事になってしまった。