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「光の雨――――ッ!」


女性が叫んだ瞬間、私達を取り囲んでいた男達に光の雨が降り注いだ。それは強く、激しく打ち付け、まるで千本の針が降り注いでいるような光景だった。だが、それらは私達に無害だった。


「ぐあああ!」

「があああ!」


男達は、悲鳴を上げながら倒れていく。殺傷能力が高いとは思えなかったそれは、男達を一掃した。


「な、何が起った!?」


司会者の男は慌てふためきながら言うと、倒れた男達を順に見て、後ろに立っていた女性の方に身体を向けた。

女性は、そんな男を見ても全く動じなかった。てっきり彼女は、ヘウンデウン教の関係者か司会者の補佐役かと思っていたが、どうやら違ったようだ。


「貴様、話と違うじゃないか! 裏切ったのか!」

「危ない!」


男はそう言うと懐からナイフを取りだして女性に向かって走り出した。だが、女性はその場から動くことはなく、ぼそぼそっと何かを呟いた。すると、次の瞬間には男はぐらりと前のめりに倒れた。そして、倒れた男はその場で痙攣しているかのように、ぴくぴくと身体を動かしていた。

私達はその様子に唖然としている。

あれだけの人数を一人で片付けたのだから。それに、この暗闇の中でも分かるぐらい凄まじい光魔法の魔力を感じた。普通の魔道士なら、闇の中では光魔法の威力が落ちるというのに。それか若しくは、あの男達が弱かっただけなのか。どちらせよ、光魔法の者と言うことが判明し、少し安堵しているところはあった。

だが、司会者の男が言ったとおり、裏切ったのか。と言っていたため、元はあちらの仲間だったのだ。もしかするとそういう芝居なのかも知れないと、疑い深くなってしまう。

私の後ろにいたグランツは私の前に出て剣を構えた。

まだ信用出来るかどうか分からないけれど……


「待って、グランツ」

「何故ですか?」

「いい人かも知れないじゃん」

「彼奴らの仲間だったんですよ?」


と、グランツは光の灯らない瞳でそう言葉を吐き捨てる。

確かにそうだけど、私達を庇ってくれたようにも見えたため、本当に悪い人というわけではないだろうと、私はグランツに剣を納めるよう言った。だが、彼はひくきはなく、剣を構えたままだった。頑固、駄犬。など心の中で思いつつ、後ろにいたアルバを見れば彼女も同じく、目の前のローブを被った女性のことを警戒しているようだった。


(確かに、気を抜いちゃいけないだろうけど……)


目の前の女性からは殺意も悪意も感じない。その気を隠しているといった感じもしなかった。

けれど、元は敵だったという事実から、グランツは女性にそのローブを脱ぐように叫んだ。


「もし、貴方が我々の味方であれば、そのローブを脱いでください」

「ちょっとグランツ」


そう彼を取れると、彼は何か確信したような目で女性を見つめていた。

彼には何かが分かったのだろう、女性の正体も。

薄々そうではないかと思いつつ、そうでなければいいとも思って私は口にしなかった。だが、そんな私とは真逆に、ルフレが一歩前に出てグランツと同じく、ローブを脱ぐように言った。それはまるで命令だった。


「いいから、そのローブを脱げよ」

「ちょっと、ルフレ!」


もし、彼女が逆上して襲い掛かってきたら。と、最悪のケースも考えて止めたが、ルフレは引く気はないようだった。

暫くの沈黙の間、女性は観念したというようにローブに手をかけ、ゆっくりとその顔が明らかになる。それは、見知った顔だった。


「……ヒカリ」


ローブを完全に脱いだ女性は、ルクスとルフレのメイドであり、ルクスを連れ去ったと考えられていたヒカリだった。だが、彼女のトレンドマークであるそばかすは見られず、メイドをしていたときのヒカリよりこぎれいな感じだった。まるで貴族のご令嬢のような美しさを所々に感じた。

矢っ張り……と思いつつ、私は息をのむことしか出来なかった。

そうして、また沈黙が訪れ、どちらがその沈黙を破るかと息を潜めていると、ルフレがヒカリの方へ歩いて行きその右手を挙げ彼女の頬を叩いた。

檻に囲まれた闇の中でパシンと乾いた音が響く。

ルフレがヒカリを叩いたんだと理解したが、私はその場を動けなかった。これは、私の問題ではないから、口を挟むべきではないと思ったからか。


「ヒカリ、どういうことか説明しろ」


と、やはり何処か刺々しい命令口調で怒りを抑えきれず言うルフレ。

ヒカリは少し俯きつつも、はい。と静かに返事をした。


「私には、ルクス様を誘拐し、ヘウンデウン教に引き渡すことは出来ませんでした」


ヒカリはそう言うと大きく息を吸った。

やはり、誘拐犯はヒカリだったのかと、私は何処か悲しい気持ちになった。信じていたというか、自分と似ている部分が会った彼女がまさか犯罪に手を染めるとは思わなかったからだ。人は見た目に折らない。そんなことを痛感させられた。

でも、何か理由があるのだろうと、私は彼女とルフレの会話に聞き耳を立てる。


「以前、エトワール様がダズリング伯爵家を訪れた際、狩り場に放った狼に負の因子を埋め込み、暴走させたのも私です……ダズリング伯爵家の、ルクス様とルフレ様に使えると決まる前から全て計画されていたんです。私はそれに逆らえなかった」


と、ヒカリはぽつりと零した。

ようやくすれば、ヒカリはヘウンデウン教の駒として動いていたと言うことだろう。

だが、彼女の顔を見れば仕方なくやっていた、逆らったら何されるか分からない怖さがあったという恐怖で支配されたような人間の表情をしていた。だから、彼女はダメだと分かっていても実行するしかなかったのだ。自分の命と人の命を天秤にかけたら大半の人は自分を優先するだろう。

けれど、いくらヘウンデウン教がバッグにいたからといって、罪は罪で、犯してはいかないことだった。主人を騙し続けていたと言うことも勿論ある。


ルフレはそれを聞いて黙っていた。

彼は何も知らなかった、無知であったことを嘆くように、ギュッと拳を握っていた。それか、裏切られて悲しいという気持ちの表れだったか。

となると、ヒカリはいつからヘウンデウン教の手先として動いていたのだろうか。もしかすると、人質を取られているのかも知れないと思った。確かに、自分の命を優先する人が多いだろうが、ヒカリはルクスとルフレの事をとても大切に思っていた。主人としてずっと使えていたいというような、自分の役割に誇りと責任感を持っていた。


その立場や誇りをなげうってでもヘウンデウン教の命令に従わなければならなかった理由があるのか。

そう、私が思っていると、ヒカリは私の心中を察したように口を開いた。


「私には、妹がいました。ルクス様とルフレ様と同じ、双子の妹です」


と、ヒカリは静かに告げる。


その言葉を聞いて、この場にいた全員が固まった。となると、先ほど考えた人質を取られているのかも。という考えはあながち間違いではないのかと、私が思っているとヒカリはさらに続けた。


「私は元々、ラジエルダ王国出身の貴族で、王国がヘウンデウン教によって征服される前は伯爵家の人間でした」


ヒカリは過去を懐かしむように、それでいて悲しむように目を閉じた。

ルフレも本当に初耳だったと、嘘だ。と零していた。けれど、彼女の話を親身になって聞いていたのは、自分と同じ双子で、伯爵家の貴族だったと言う共通点からだろう。

ヒカリといえば、ゲーム内ではサラッとルクスとルフレのメイドという感じに出てきたのだが、彼女にそんな重いバックがあったとは思わなかった。


(それに、ラジエルダ王国って……)


以前アルベドとグランツが話してくれた、ヘウンデウン教に滅ぼされた国のことだ。その国で暮らしていた生き残りというのがヒカリなのだろう。


「王都は制圧され、ヘウンデウン教の魔の手が伯爵量へ迫ってきて、お父様は私とヒカルを逃すために囮となりました。しかし、お父様は殺され、ヒカルも馬車に乗っている際襲撃され、私を守って……そして、私はヘウンデウン教の教徒達に囲まれました。いっそのこと、殺してくれればと思っていましたが、彼らは私を殺さなかったのです」


何故か。とヒカリは息を継ぐ。


「私は、魔法が使えたからです。それも、魔力量は魔道士並みに、それ以上にあったから……妹であるヒカルは、武術には長けていましたが魔力はからっきしなく、双子である私が全て取って行ってしまったのだと何度も懺悔しました。其れを知ってか、ヘウンデウン教の教徒達は私を利用しようと考えたのでしょう」


と、ヒカリは言うと悔しそうに拳を握った。


目の前で妹が殺され、自分は妹を殺した人達に従わなければならない状況になってしまったら……自分だったらどうするだろうと、私は考えてしまった。

そんなの耐えられないだろうし、それこそ死んでしまいたくなるだろう。でも、ヒカリがそうしなかったのは、どういう意図があってか。ただ単純に生きたいと言うことではないだろう。

そう、ヒカリを見つめれば、彼女は私の視線に気がつき、口を開く。


「……ヒカルが、死ぬ間際に言ったのです。私の分まで生きてって……守られた命、妹に守ってもらった命をみすみす投げ出すわけにはいかなかったのです。例え、妹を殺した者達に従うことになっても、それでも妹の最後の願いだったから」


と、ヒカリはぽろぽろと涙をこぼした。それは悲しみの涙なのか、それとも悔恨の涙なのか私には分からなかった。

泣き出したヒカリを私達はただただ見つめることしか出来なかった。だが、ルフレだけは違った。


「なんで言わなかったの」

「言えるわけがありません。それに、ずっと騙していたんですから……ごめんなさい。ルフレ様」


ヒカリはそう言って頭を下げた。

すると、ルフレは少しの間身動きせず、その後彼女の両頬を掴んだ。


「僕達に言えばよかったじゃん。主に隠し事なんて、騙してたって思ってたんならもっと謝れよ!」


そう言ったルフレは彼女と同じようにボロボロと泣いていた。

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