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ラジエルダ王国の辺境に住む伯爵の元で生れた双子。
貴族の双子と言えば、魔力を二つにわけて生れてくるためあまりいい存在として扱われなかった。そのため、双子は此の世界ではあまりいい存在とは思われず忌み嫌われた存在として扱われてきた。
しかし、その伯爵は愛する妻の残した双子をそれはもう溺愛した。
姉にはヒカリ、妹にはヒカルと名付けて、二人の未来が明るい光あるものにと言う願いを込めた。
双子はその名の通り明るい性格で、すくすくと育ち仲のいい姉妹であった。
姉は、読書家で貴族の令嬢としての作法をすぐ覚えたが、妹は活発的な性格でお茶会よりも農業や動物に興味を持った。二人は対照的に育ったが、それでも仲のいい姉妹だった。
しかし、ヘウンデウン教が攻めてきたことでラジエルダ王国は占領され、伯爵も殺されてしまった。
妹は自分を守る為に盾となり死んだ。
残された姉は、生きてと自分にい残した妹と、悪いことを強いられて生きていくことを選ぶしかなかった。
「……ごめんなさい、ごめんなさい。私は、ルクス様とルフレ様を裏切って、ずっと騙していて」
と、ヒカリは泣いていた。
ルフレの言葉が響いたらしく、さらにボロボロと泣いた彼女を見て、私は酷く胸が締め付けられた。ずっと彼女は大好きな主人を騙してきたという罪悪感にかられながら生きていたのだろうと。妹に生きろと言われて死ぬことを選ばず生きていたが、生きることすら辛かったのではないかと。
故人の残した言葉は、生者を強く縛るから。
ルフレは、ヒカリの話を聞いて彼女同様泣いていたが、これ以上泣いている姿が見られたくないと思ったのか、グッと涙を拭っていた。彼は小さいながらに彼女の主としての自覚があるのだと、強い子だと思った。
「もう終わったことは仕方ないし、でも許せるわけじゃない」
「はい……」
「……僕だけじゃなくて、ルクスにも謝らないといけないと思う。でも、少なくとも僕はお前の話を聞いて、少し同情した」
自分も双子の片割れで、もし片方が死んだとき、そう言われたとしたら生きることを選ぶだろうと。
ヒカリは、魔力は妹よりも持っていたが、体力面では全く妹には叶わなかったらしい。また、妹の明るさや、貴族の令嬢でありながらも土を弄ったり、動物と話したり、活発な性格にも憧れていたらしい。自分は、貴族の令嬢で長女だから社交界では背を伸しておかなければと力を入れていたらしい。その少し窮屈な思いをしながら、伯爵の名が汚れないように努力してきた自分と、自由に生きる妹を比べて、ヒカリは羨ましいと嫉妬したことがあるのだと。
その事が、ルフレは自分と似ているとヒカリに言った。
ルフレは魔力を持つ兄のルクスを羨ましいと思っていた、嫉妬していた。だから、幾ら双子であれど違う存在で、持っているものが違うこと、相手にあって自分に無いものを強請ってしまっていたこと。
ヒカリもまた、自分が持っていないものを持っている妹に嫉妬し、そして、妹が死んでしまったことを後悔していると言った。
ルフレはそんな彼女を慰めるように頭を撫でた。それから、ヒカリは私達の方へ向き直ると、頭を下げた。
「今回は、私のせいで、エトワール様も煩わせてしまい誠にに申し訳ありませんでした」
と、ヒカリは謝罪を述べた。
けれど、私はヒカリの謝罪を受け入れられなかった。否、そんな謝罪なくてもいいと思ったのだ。
彼女はこれまでずっと苦しんできて、辛い思いをしてきたんだ。だから、それから解放されるなら、それだけでいい気がした。それが私にとっても救いになる。
「ううん、ヒカリ気にしないで。ヒカリにそんな過去があった何て知らなかったし、辛かった……って私が言えることじゃないけれど、これで少しスッキリするなら、私はそれだけでいいよ」
「エトワール様」
ヒカリは顔を上げる。
私はそんなヒカリに微笑んだ。後ろでアルバはうんうんと、頷いておりグランツもようやく剣を鞘に収めた。
これで一応は一件落着かと私は息を吐いた。
ヒカリ曰く、私達が助けに来ることは予想しており、もし助けに来なかった場合奴隷商側を裏切って伯爵家に戻ってくるつもりだったと。やはり、自分にはルクスをヘウンデウン教に引き渡すことは出来なかったのだと述べた。ヒカリにとってヘウンデウン教は妹や父親の敵でもあるから。そんな敵に何年もしたがっていたヒカリのメンタルは凄いと思った。
「そういえば、ヒカリってそばかすなかったんだ……その、魔法で?」
「は、はい。そうです。妹と顔だけは似ていたんですが、妹にはそばかすがあって。彼女を忘れないために魔法で」
と、ヒカリは説明してくれた。
変装の魔法は簡単な魔法であったが、持続して使うことは難しいと思った。と言うことは、ヒカリには私が想像している以上にたくさんの魔力があると言うことになる。
もし、そんなヒカリが私達に手を貸してくれるなら……
そもそも、彼女が本当に敵じゃなくて良かったと心底思った。
「ヒカリが奴隷商側の人達を全員倒してくれたし、このまま皆で帰ろう」
私はそう、ルフレやヒカリ、皆に向かって言った。
ヒカリが倒した男達は未だ、起きる様子はない。今のうちにルクスを連れて帰ることが出来たら。と、ちらりとルクスの方を見た。ルクスは私達がこんな風に話しているのにピクリとも動かず、口を挟むことはなかった。
(凄い傷……いつつけられたんだろう……)
会場で見たときから、ルクスの身体には沢山の傷跡があり、青痣も出来ていた。一日でそれほどまでに酷い仕打ちを受けたのかと、今すぐに治癒魔法をかけてあげなければと近付いた。すると、私が近付いた瞬間ルクスの目がぐるんと私の方に向けられた。いつもの快晴のような瞳は濁っていて、雨が降りそうな空の色になっていた。
そんなルクスから嫌な空気が漏れ出ていることに私は気づく。
「ヒカリ、ルクスに何があったの……?」
「え、はい。えっと、詳しくは見ていないのですが、席を外していたので……奴隷商の男達に何かされたのではないかと。私が帰ってきたときには既に……」
「そう……」
ヒカリは言葉を濁していたが、一部始終見ていたのだろう。あの時はまだ作戦を決行できるタイミングではなかったらしく、ただただルクスが酷い目に遭わされているのを見て見ぬふりしか出来なかったのだろう。ルクスはプライドの高い男だから、きっと暴れたに違いない。魔力もあまり感じられないことから魔法を使って抵抗したのだろう。
「ルクス……」
ルクスの名前を呼んでも返事はなく、ただ私を見つめているだけだった。
(何か、嫌な感じがする……)
「グランツ、ルクスを背負ってここからでられる?」
「はい」
「アルバ、他に敵がいないか確認して」
「分かりました。エトワール様」
私はグランツとアルバに指示を出して、この場から一刻も早くはなれようと思った。
何だか嫌な胸騒ぎがしたからだ。
私は、もう一度ルクスの方を見た。彼の目のはフッと違う方向を向いて、口を少し開いた。
その瞬間、ブワッと負のオーラがルクスを中心に広がった。その負のオーラはこの間感じたリースのものと似ていた。
(え……っ!?)
ガタガタガタ……ッ、と積まれている檻が揺れ出し、地面も大きく揺れ出した。次第に揺れは大きくなり、竜巻のようなものがルクスを軸としてできあがる。
あの時と同じ、強大な負のオーラが地下一杯に広がった。
「……ルクス様!?」
「ルクス!」
ヒカリとルフレは、ルクスの異様な変化に驚き二人は慌ててルクスに駆け寄ろうとしたが、グランツとアルバがそれを止めるように前に出た。
「あれに近付いたら、飲まれますよ」
と、グランツはヒカリとルフレに釘を刺す。アルバも状況を理解できているため、彼らがこれ以上ルクスに近付かないようにと、剣を構えて警戒をしていた。
ルクスは相変わらず無表情のままこちらを見ている。
そんなルクスの視線から目を離さず、私もヒカリ達と同じようにいつでも動けるように構える。
そうして、私の目の前に警告表示のようにウィンドウが現われた。ジジ……ジジ……とあの時のようにノイズが走る。表示されたのはルクス救出のクエストだったがそれが次第にノイズがかって変わっていく。
【緊急クエスト:憤怒の片割れルクス・ダズリング】
それは、リースが暴走したときと同じ緊急クエストだった。
(これって、あの時の……!)
私は、見覚えのある赤い表示に目を見開いた。あのルクスの嫌な感じは、負の感情に飲まれた時のリースや、あの調査の肉塊を思い出せた。
そして極めつけはそのクエストの内容だった。
リースの時は、強欲の皇太子で今回は憤怒の片割れ……嫌な想像は、だんだんと固まっていく。
(もしかして、七つの大罪?)
順番はどういう風か分からないが、憤怒、強欲……と来たため頭に浮かんだのは七つの大罪だった。と言うことは、傲慢、怠惰、色欲、暴食、嫉妬……後何人かまた暴走するとでも言うのだろうか。そう考えると、攻略キャラと数が合わない気がするが……などと、冴えた頭が色々な考察を出しては、頭の片隅に消えていく。
だが、取り敢えずは目の前で暴走したルクスをどうにかしなければならない。
私は、グッと拳を握った。
あの時は、暴走したのがリースで暴走した理由も分かったから助けられたがルクスは如何だろうか。彼は一番好感度が低く、私も彼のことがよく分かっていない。どういう理由で暴走したのか、そこから突き止めないと。
私はクエストを受けるために、YESのボタンを強く押した。