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51 - 第51話 それぞれの価値観

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2025年03月13日

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◻︎珍獣のツガイ



その後も、恵のアルバイト先でのトラブルの話を聞いた。

結論から言うと、私が知ってる昔の恵からは想像ができなかった。

YESかNOか、悪いのはどっちでどう対処したらいいか、そういう判断は的確で早かったと記憶している。


「ずーっと、ぐじぐじ言っててさ、俺も仕事で疲れて帰ってきて、その話を延々と聞かされるんだよ、美和ちゃんが話を聞いてくれて助かるよ」


人間関係のトラブルでも、それが仕事にも支障をきたしているのなら、キチンと対応すべきだよ、それは社員もアルバイトも関係ないと思う…そうアドバイスしたけど。


「ほらね!美和ちゃんも俺と同じ考えだろ?間違ってないから、はっきり言った方がいいって」

「…でもねぇ、そのあとの雰囲気が多分…悪くなってさぁ、仕事やりにくくなりそうでさぁ…」

「けど、それで恵がストレス抱えてもっと体調が悪くなったらダメじゃん?」

「…わかってるんだけどねぇ…」


何回話しても同じ答えだった。

具体的にエビデンスの話を出してみたり、上司に掛け合う時のきっかけの作り方も、思いつく限りのことをアドバイスしてみたけど。

うん、やってみる、とは最後まで言わなかった。


_____あれ?恵ってこんな感じだったっけ?


私は声には出さず、慎太郎を見た。

慎太郎は、“ほらね?”という顔で私を見た。


_____違和感とは、こういうことだったんだ


「あまりの急激な体調変化のせいか、メンタルも弱くなってるんだよ、恵ちゃんは。ぼーっとしてたり、突然苛立ったりかと思えば、なんでか泣いてたり。情緒不安定かな」

「症状が重いほうなんだね、私は運良く更年期障害みたいなものは出てないから、アドバイスとかできないけど。ホルモン補充とか漢方薬とかは?」

「やってみた、思いつく限りのことは。けどどれもイマイチでさ」


ふんだんなお金遣いには、こんな理由があったのかと思った。

『もしかしたら明日には死んでしまうかも?』そんな強迫観念みたいなものを、払拭したくて側から見たら派手な暮らしになったのかも。


理由がわかったら、その暮らしにも納得がいった。


_____そしてそんな恵に寄り添うように、価値観を同じように合わせている慎太郎君は、すごく恵を愛してるんだな


で、うちのご主人さまは?と振り返ったら、いつのまにか、リビングの隅っこでミルクと丸くなって寝ていた。

少し小さい、おそらくミルクのための毛布を2人(?)でかぶっていた。


_____ま、いっか



恵の体調不良は少し気になったけど、どれだけ検査をしても特に原因がわからないのなら、やっぱり更年期障害ということなんだろう。


「辛そうだったね、恵ちゃん」


酔ってミルクと寝てただけかと思ってた夫が、ポツリと言った。


「聞いてたの?」

「まぁ、なんとなく。そう思うと美和子は、ほとんど症状がなくてよかったね」

「うん、考えてみたら遠野さんとこと食事会した時に、ブワーっと暑くなったくらいかな?あとは自覚ないかな?」

「たまに、イライラしてることもあったけど、今は落ち着いてるよね?」

「あ、あったあった、まぁ、いまはね」


食事会の前後は、すごくイライラしてた記憶がある。

あれも更年期障害だったのかなあ?と思うけど。


今は、秘密基地もあるし雪平さんとのこともあって、毎日がそこそこ楽しいからかイライラしなくなった。


_____もしかすると、雪平さんのことで後ろめたいから優しくできるのかも?


それはそれでいいと思うことにした。


「あのさ、再来週末、俺、三連休なんだけど」

「うん」

「友達と旅行行ってきてもいい?」

「うん、いいよ。私は礼子と遊ぶから」

「よっしゃ!ちょいお洒落なジーンズでも買ってこようかな?」

「あー、それなら、こっちのカード使っていいよ」


私は、生活費用のカードを渡そうとした。


「あ、いや、いい、自分のやつだから自分で買うよ、ポイント貯まるし」

「あ、そう。いいならいいけど」


_____友達は女の子かも?


とピン!ときた。そうでないと、こんな行動はしないから。

誰と行くの?どこに行くの?とか、問い詰める気はないけど。



去年、固定電話に、夫のことを尋ねる電話があった。


「はい、田中です」

『あの、田中課長の部下の佐伯といいます。課長はいらっしゃいますか?』

「えっと、今日は出張だとかでもう出かけましたけど。何か用事でしたら携帯の番号を教えましょうか?」

『あ、いえ、それならいいんです。失礼しました』


そこで、電話が切れた。

その日夫は、急に出張になったとかで慌てて荷造りをして出かけた。

仕事での出張なら、部下は知ってて当たり前だと思ったから、違和感があった。

行き先も聞かなかったけど、大体はお土産でどこへ行ったかわかるし、どこへ行ったとしても電話さえつながれば問題はない。


そして、その出張には、お土産がなかった。


_____ふーん、そういうことか



“女の子といる時に、奥さんへのお土産なんて、買えないよね?”

と思ったけど、同時に

“それでいいんだよ、後ろめたさの塊のお土産なんていらないし”

とも思った。


そういうときの夫は、髭も剃るし髪も整えたりしてまぁまぁの男になる。

そういうことはきっと、私も同じなんだと思う。

お互いに言わないけど。







「つまり、あれだ、旦那さんの賞味期限はまだ切れてないってことなんだね?」


礼子が言う。


「うん、お洒落とか頑張ってるうちは大丈夫でしょ」

「美和子夫婦って、不思議な関係だよね?そういうことを見て見ぬふりで過ごせるって」

「別に家庭に面倒を持ち込むわけでもないし、そこは何故かしっかり信用できるからかな?」


いや、珍しい夫婦だよと、しきりに礼子が言うのが、なんだかとてもおかしかった。


「私ら夫婦は、珍獣のつがいか?」











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