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天井に広がる、偽物の空。ぽつんと置かれたベンチに並んで座るスケルトンは、側から見ればシュールな光景だろうか。



「なあ、アンタはさ、」


「ん?」


「星って、見たことあるかい?」


「…本の中でなら。」


「ははっ、オイラも。」



相変わらずのニヤケ面を貼り付けたままの、

その目に宿す彗星色が、今日は一段と輝いて見えた。



「本物はもっと、綺麗なんだろうな」



いつもは決められたような台詞しか喋らないコイツが、初めて本音で語ったような気がした。


きっと、どんな星よりも。

お前の方が綺麗だって。

小っ恥ずかしい口説き文句がカラッポの頭に浮かんでは消えてゆく。

何か、言ってやりたかった。



「…いつか……」


「え?」


「…見にこうぜ。一緒に。」



なんとも馬鹿げた約束を取り付けたものだ。

果たせない約束だって分かってる。

だって俺たちは”サンズ”だから。



「へへ…ありがとう。マスタード。」



でも、そう言って笑ったケチャップの顔は、

いつも貼り付けてるあのニヤケ面じゃなく、

やさしい、やさしい笑みを帯びていた。







──

────

──────

────────






随分とまあ、懐かしい夢を見た気がする。

意識がはっきりしていくとともに夢で聞いた言葉たちがぼやけていく。

ケチャップのあの表情だけが鮮明に頭に残ってる。


…なーんか女々しくて自己嫌悪っつうか……



「ッチ。だっせぇ…」



ところで、あれから何回かオリジナルの世界に行ったが、あのタコ共に絡まれて散々だ。

俺のことをオモチャかなんかと勘違いしてんのか知らねえが…

オリジナルもオリジナルでヘラヘラしてるだけだしよぉ…

そういうとこはアイツと変わんねえんだよな。


──いっけね。そろそろ仕事行かねえと。

BOSSに怒られちまうな。


床に放り投げてあったファーコートを羽織って、部屋から出ようとした───が、

目の前に現れた影にそれは阻止された。

ドロドロの液体に身を包んだ黒い姿。

なんとも気味悪い4本の触手。



「テメェ…なんでここにいる」



嫌悪感丸出しでそう言えば、

ソイツ…ナイトメアは面白いとでも言いたげな笑みを作った。



「いやぁ?可哀想な子犬を慰めてあげようかと思ってな。」


「どういうことだ…」


「……なんとも滑稽だと思わないか?

忘れられて尚恋情を抱き続けるなんて。」



本心を暴かれる感覚。

冷や汗をかく俺そっちのけで─

ナイトメアは何かを思い出したように真顔になり、淡々と言葉を並べた。



「…”あれ”に執着するのはやめておいたほうがいい。…後悔するのはオマエだぞ?」


「……お前に……俺の何が分かるんだ」



呟くように言葉を絞り出し、逃げるようにして部屋から去った。


アイツが何を言いたいのか。

アイツらは何のためにオリジナルの世界に現れたのか。

どうして俺にそんなことを言う?


ああ、仕事行かなきゃだったな。

疑問を募らせながら、塵と雪の積もる道を急いだ。














──────────────────────────



ナイトメアは遠く、足早に駆けていくファーコートの背中を眺めていた。



「…お前が頼み事をするなんて珍しいと思ったが。まさかこんな事とはな。

情でも沸いたか?」



突然何に話しかけたのかと思えば、

いつからそこにいたのやら、塵まみれのパーカーのフードを深く被った骨があった。



「…」



どうやら答える気のないその骨に、ナイトメアはつまらなそうな顔をしながら二つの影を闇へと消した。

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