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ゆゆゆゆ
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#doublefedora
「……ごめん、明日早いから」
ぽつりと落とす。
チャンスの視線を受けながら、エリオットはそのままベッドに入る。
背を向ける形。
「……」
チャンスは何も言わない。
ただ、その場に立ったまま、しばらく動かなかった。
部屋の空気だけが、妙に重い。
エリオットは目を閉じる。
眠るつもりはない。
ただ、これ以上何も考えないために。
それでも――
浮かぶ。
さっきのキス。
“違った”感覚。
そして――
“あっちの方が近かった”という、最悪の実感。
「……」
小さく息を吐く。
聞こえないように。
そのまま、意識を沈める。
朝。
まだ暗さが残る時間。
エリオットは静かに起きる。
隣を見る。
チャンスは、寝ている。
表情は穏やかで、何も知らないみたいに見える。
「……」
一瞬だけ、見つめる。
何かを確かめるように。
けれど――
何も分からない。
視線を外す。
音を立てないように準備をして、部屋を出る。
ドアが閉まる音。
その瞬間。
ベッドの上で、チャンスの目が開く。
店。
朝の仕込みの匂い。
まだ客の少ない静かな時間。
エリオットはいつも通りの動きで作業を始める。
生地を伸ばす。
具材を並べる。
手は、問題なく動く。
「……」
頭は、全然追いついていない。
“違う”
その感覚が、ずっと残っている。
同じはずなのに。
同じであるべきなのに。
どうしても、比べてしまう。
「……っ」
無意識に、手が止まる。
ソースを塗る途中で。
「おい、エリオット」
奥から声が飛ぶ。
「手止まってるぞ」
「ああ……悪い」
すぐに動かす。
いつも通り。
何も問題ないふりをして。
けれど――
集中できない。
頭の中で、何度も繰り返される。
“さっきの方が近かった”
「……はあ」
小さく息を吐く。
自分でも分かっている。
おかしい。
普通じゃない。
それでも。
消えない。
むしろ――
確かめたくなる。
どこが違うのか。
何が足りないのか。
「……」
視線が、無意識に入口へ向く。
来るはずない。
分かっている。
それでも。
どこかで、期待している。
「……来るなよ」
小さく呟く。
自分に向けて。
来たら、また――
戻れなくなる。
「そろそろ小麦粉届く時間じゃない?」
スタッフが言う。
「じゃあ俺見てくるよ」
エリオットは軽く手を拭いて裏口に向かう。
忙しいと、考えこまなくて済む。
裏口の扉を開ける。
日差しの当たらない路地の奥に。
――黒い影。
フェドラ帽。
「……」
喉が、わずかに鳴る。
来るなと思ったのに。
来てほしいとも思っていた。
矛盾。
そのまま、目が合う。
マフィオソが、わずかに笑う。
「……早いな」
低い声。
まるで、分かっていたみたいに。
エリオットは何も言わない。
ただ――
少しだけ、目を逸らす。
完全には、逸らさない。
心の中で、はっきりしている。
――落ちてる。
まだ、完全じゃないだけで。
確実に。
日常が、もう“日常じゃない”。