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ゆゆゆゆ
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エリオットは、路地裏に立つ影を見つめたまま数秒だけ動かない。
それから――
ゆっくりと、足を動かす。
「……」
マフィオソの前で、止まる。
「来ると思ってた」
低い声。
エリオットは、少しだけ眉を寄せる。
「……勝手に決めるな」
「だが、来ただろう」
即答。
言い返せない。
沈黙が落ちる。
エリオットは小さく息を吐く。
「……一つ聞く」
マフィオソはわずかに首を傾ける。
「なんだ」
視線を逸らさずに、言う。
「なんで、お前」
ほんの一瞬だけ、言葉を選ぶ。
「チャンスに執着してるのに――」
そのまま、まっすぐ見て。
「こっちに来る」
静かな問い。
マフィオソは、少しだけ目を細める。
「簡単な話だ」
間を置かずに答える。
「君が“繋がっている”からだ」
「……」
「彼に」
それだけ。
けれど、十分すぎるほどの答え。
エリオットの喉がわずかに動く。
「……それだけか」
「それ以上必要か?」
淡々と返される。
「君は、彼の中にいる」
「そして彼は、君の中にいる」
昨日聞いた言葉と、同じ。
逃げ場がない。
「だから、どちらに触れても同じだ」
「……同じじゃない」
思わず、否定が出る。
マフィオソは、その反応にわずかに笑う。
「そうか?」
一歩、距離を詰める。
「ではなぜ、君はここにいる」
言葉が詰まる。
分かっている。
完全な否定は、できない。
「……」
沈黙。
マフィオソは、それを見て満足そうに目を細める。
「だが」
少しだけ、声のトーンが落ちる。
「無理に来る必要はない」
エリオットの目が、わずかに動く。
「……は?」
「君が望まないなら、来ない」
あまりにもあっさりとした言い方。
「私は彼を追えばいいだけだ」
淡々と。
「君を介さなくてもな」
その言葉が、妙に引っかかる。
「……じゃあ」
喉の奥で、言葉が引っかかる。
「なんで今、ここにいる」
マフィオソは、少しだけ間を置く。
それから――
「君が来るからだ」
静かな答え。
逃げ場がない。
そして。
ほんのわずかに、首を傾ける。
「――もう来ない方がいいのか?」
問い。
そのまま、エリオットを見る。
試すように。
エリオットは答えなかった。
答えられなかった、じゃない。
“答えたくなかった”。
拒絶すれば終わる。
でも――終わらせる理由が、見つからない。
マフィオソはそれを見て、わずかに口角を上げた。
「そうか」
それだけ言って、距離を詰める。
逃げる理由も、止める理由も、
エリオットの中に存在しない。
「君は優しいな」
低く囁かれる。
「拒絶できないのは、彼に似ている」
その言葉に、微かに引っかかる。
けれど――
考えるより先に、触れられる。
今度はキスじゃない。
頬。
耳元。
首筋。
軽い接触のはずなのに、
“輪郭”がずれる。
(……違う)
チャンスの触れ方とは違う。
温度も、間も、呼吸も。
なのに――
(似てる)
その矛盾が、思考を鈍らせる。
「ほら」
マフィオソが、顎に指をかける。
「確かめてみろ」
――キス。
今度は、エリオットから。
触れた瞬間。
“混ざる”。
チャンスの気配。
マフィオソの気配。
どちらでもあって、どちらでもない。
(……どっちだ)
掴もうとするほど、曖昧になる。
唇が離れたあとも、感覚が残る。
「わからなくなってきただろう」
マフィオソは静かに笑う。
「君はもう、“彼だけ”を見ていない」
その言葉に、
初めて――明確な恐怖が走る。
――その夜。
帰宅。
チャンスはリビングにいた。
「遅い」
短く、それだけ。
いつもと同じ声。
同じ顔。
なのに。
(……違う)
違和感が、先に立つ。
「仕事」
短く返す。
チャンスは立ち上がる。
距離を詰める。
「……あいつに会ったか」
一瞬、沈黙。
否定も、肯定もできる。
でも――
「……どう思う」
エリオットは、逆に問い返した。
チャンスの眉がわずかに動く。
「何が」
「俺と、あいつ」
空気が変わる。
チャンスの目が、まっすぐこちらを捉える。
「似てる?」
核心。
チャンスは、少しだけ黙ったあと――
「似てない」
即答。
強く、迷いなく。
「全然違う」
一歩、近づく。
「お前が触れていいのは、俺だけだ」
手首を掴まれる。
強い力。
でも――震えている。
「……あいつは違う」
低く、押し殺した声。
エリオットは、その手を見て――
(……同じだ)
と、思ってしまう。
力の入り方。
指の位置。
ほんの一瞬、
マフィオソと“重なる”。
「……キスして」
気づけば、口にしていた。
チャンスが止まる。
「……何」
「確かめたい」
正直すぎる言葉。
チャンスは、わずかに息を呑んで――
それでも、逃げなかった。
ゆっくり、距離を詰める。
触れる直前。
「……あいつのこと、考えてるか」
――沈黙。
否定すればいい。
簡単に。
でも。
「……少し」
チャンスの目が、明確に揺れた。
それでも――
キスする。
触れた瞬間。
(……違う)
はっきり、わかる。
温度も、呼吸も、すべて。
チャンスは、チャンスだ。
なのに――
(……足りない)
一瞬でも、そう思ってしまった。
唇が離れる。
チャンスは何も言わない。
ただ、
エリオットを見ている。
「……なあ」
エリオットは、かすれた声で言う。
「どこまでが、“お前”なんだ」
その問いに、
チャンスは答えなかった。
ただ、
ゆっくりと――
手を、離した。
――初めて、
“距離”が生まれた。