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落ちてきた星。


その夜、森はしんと静まりかえっていた。

カナは一人、ランタンを手に、細い獣道を歩いていた。家からそう遠くない場所――けれど街灯もなく、音といえば草を踏む自分の足音だけ。


「……いたらいいのに、流れ星」


そうつぶやいたときだった。

空が、ふいに明るくなった。カナが顔を上げると、夜空に一筋の光が走った。

普通の流れ星とは違う。それは流れるというよりも、落ちてくるようだった。

まるで、何かがこの世界へ向かって降りてくるように。


光は、ふわりふわりと風に舞う羽のように、ゆっくりと森の奥へと落ちていった。


「……今の、なに……?」


心が、わずかに震えた。

怖さよりも、不思議な胸騒ぎに引かれるように、カナはその光の跡を追いかけた。



森の中は、静寂の中に命の音が潜んでいた。

風が葉を揺らす音。どこかでフクロウが羽ばたく気配。土と緑の匂い。

けれど、目の前に広がった光景は――この世のものとは思えなかった。


そこには、淡く青白い光をまとった少年が倒れていた。

まるで月の雫を形にしたような、儚く透き通るような姿だった。

衣服は見たこともない布でできていて、触れれば消えてしまいそうなほど薄く、

肌はほのかに光っていた。


「……あなた、大丈夫……?」


声をかけると、少年はゆっくりと目を開けた。

その瞳は、夜空の深い藍に星の瞬きを浮かべたような、神秘的な色をしていた。


「……ここは……地上?」


「地上って……まさか、空から?」


少年はかすかに笑った。そして、かすれるような声で言った。


「僕は星だよ。空に浮かんでいた、小さな名もない星。

誰にも見つけられず、誰の願いも届かなくて、落ちてきた。」


カナは何も言えずに、ただその言葉を胸に刻んだ。

彼の声は悲しさよりも、優しさを帯びていた。まるで、長い旅の終わりに安らぎを求めたかのように。


「……じゃあ、うちに来て。名前のない星でも、私が名前をあげるから。」


そう言って手を差し伸べると、少年は一瞬きょとんとした後、小さくうなずいた。


カナの手を取ったその瞬間――彼の光が、ほんの少しだけ、温かく強くなった気がした。


一瞬の星、永遠の夜

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