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如月玲
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谷崎爽奈
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「ここまで来たら大丈夫かな。」
先ほど地獄を通り抜けてきたせいか、夏祭りの人がごった返す中走ったからか、軽く汗をかいた。
「うん、多分ね」
彼方が肩で息をしながらそう言った。
「走っちゃってごめん。」
「まったくですよ。」
北上先生が彼方以上に肩で息をして、にらみつけてくる。
「これってさ、加齢?運動不足?大丈夫?おじさん。」
ニッコニッコの優也が煽る。いや、彼としては煽っている自覚はないだろうが。
「ねぇねぇ、林檎飴って何?おいしいの?」
「おいしいんだけどね、食べにくいんだよね。あんず飴の方が食べやすいよ。」
優也がそう言った。圧倒的にはにねっちょりとくっつくような、あんず飴の方が食べにくいだろ。
多分、優也の狙いはできれば2つ以上当ててもらい、1つ貰おうという魂胆だろう。子供にたかるなよ。給料もらってんだろ。それに多分、経費で落ちる。
「うん。じゃぁそうする」
彼方の手に500円玉を握らせると、彼方はあんず飴に屋台に吸い込まれていく。
『最近の祭りは高くなった』と北上先生がぼやいていたが、よくわからない。
僕らはわき道にそれ、走ってあんず飴屋に行く彼方を見て、財布から1万円札を出し、優也の手に握らせた。
「ったく。ばれてたか。」
「子供にたかろうとするな。給料だってあるだろ?」
「‥‥はい」
「ボマくーん。2つ当たったよ。君にも一つあげるね。」
僕は先ほどまでの無表情からコロリと顔を変えて、笑顔で彼方のもとに駆け寄った。
「ありがと。」
彼方から手渡された、あんず飴を食べる。久しぶりに食べた。相変わらず歯に着くが、甘みと酸味が混ざって絶妙な味がする。
「ねぇ、畠中君。イカ焼きとビール買ってくれない?」
「断ります。」
「内申点あげるから。」
「教師としてあるまじき発言だな。」
「たった1500円で内申点が買えるんだよ。おっとくー」
「内申点の意味がなくなるのでいいです」
「ちぇっ。つまんないの」
北上先生はぶつくさ言いながら、屋台でイカ焼きと缶ビールを買った。
一方、彼方はあんず飴を大切そうに食べ終え、金魚すくいの屋台を物珍しそうに見つめていた。
「幸人、あの、金魚すくいって何?」
「ああ、あれはね…」
僕が説明しようとするより早く、優也が彼方の手を引いた。
「よし、じゃあ俺が教えてやるよ。」
優也は得意げに屋台の前に立ち、彼方のために丁寧にルールを説明し始めた。
「あっ。取れた。お兄ちゃんすごい」
「でしょー。お兄ちゃんすごいんだぞ。」
優也と彼方が盛り上がっているのを見ていると、北上先生が話しかけてきた。
「なぁ、幸人お前は彼方ちゃんのこと、椿ちゃんと‥‥」
「私はただ」
少々声が大きくなってしまった。
「‥‥与えられた職務を全うしているだけです。そこに私的な感情はありません。」
「‥‥そうか。」
「‥‥えぇ、そうですよ。」
北上先生はグビッとビールをあおり、イカ焼きをがぶりとかぶりついた。
「そういや、なんでお前は、芹奈のところにいるんだ?」
「僕はただただ、大義名分が欲しいだけなんです。この能力を持っている、理由が欲しかった。ただ、それだけです。」
「分からなくもない。俺もそうだった。いや、今もかな。無駄に、自分の立場に責任感を感じて行動したりして‥‥。俺らの人生は、俺らが望むがままに生きる物だよ。」
「‥‥たまには、教師っぽいことを言うじゃないですか。」
「なめんな。何年生きてきたと思ってるんだ?人生の大先輩だぞ。」
「尊敬します。イカ焼きを、もう一本いりますか?」
「いいや、今は大丈夫。欲しいものがあったら買ってもらうわ。」
「そうですか。」
なんとなくイカ焼きが食べたくなって、イカの姿焼きを買った。上からスナイパーのように狙っている普通の鴉が地味に怖い。
「ボマくーん。見て見て。一杯取れたよ。」
ビニール袋でできた袋に、6匹と多すぎず少なすぎずというちょうどいい量の出目金が入っている。
「俺も俺も。」
金魚すくいの金魚をすべて取ったかのようなほど、ぱんぱんに詰め込まれた出目金が入っていた。
「優也。返してきなさい。店のおじさんがかわいそうに見えてきた。」
シュンッと悲しそうな顔でうなだれてから、ちらっとこちらを見てくる。めんどくさっ。
「返してこい。」
「‥‥はい。」
その様子を北上先生がけらけら笑っていた。先ほどまでの教師のような雰囲気と全く違っている。
「あいつ能力使ったな。」
「でしょうね。じゃなきゃ無理ですよ。」
また、北上先生がけらけら笑った。それにつられてフッと微笑んでしまう。
「返してきたよ。」
こちら側を恨めしそうに見ている優也がいる。
「ねぇ、ボマ君、お兄ちゃん。ボール投げってやつやろ。」
こういう時には彼方の無邪気さん救われる。
「えぇ、そうしましょうか」
「じゃぁ、それをやろうか。」
ボール投げとは何か。野球ボールが6つ渡されて、それを8mほどありそうな距離の先にある缶のタワーを倒すものである。そして、何球目で倒すかでもらえる景品が変わるのである。これは普通、元野球場などのお父さんたちがやることが多いゲームである。
「やらせてください」
一人500円なので1000円札を柄が悪そうなお姉さんに渡した。そると、5つのボールが入った入れ物にを渡された。
「お兄ちゃん頑張っちゃおっかな」
「ある程度自制しろよ。」
優也に対して、一応注意喚起をしておく。
「善処する。」
楽しそうにフッと笑った。あぁ、だめだ。これは守らない顔だ。夏祭りを楽しむのも一興か。
学生がやるということ自体が珍しいためか、優也の美貌のためか、多くの観衆が見守る中投げた1投目。
見えなかった。全ての缶を倒した瞬間を。優也は、投げるレーンの4つに積み上げられた缶を、すべて倒した。僕の動体視力の良さをもって見たが、ボールは缶に当たっていなかった。ボールによる風圧で倒れたのだろう。昔、屋台ごと吹き飛ばしたことに比べれば数倍ましだろう。
「えっと‥‥」
店員さん、観客共に、何があったかがよくわからず目をまるくしている。北上先生は抱腹絶倒ということわざ通りになっている。
「じゃぁ、僕がやってもいいですか?」
「えっ。あっ。はい。」
驚きで固まっていた女性が、優也が倒した缶を全て並べなおした。
「じゃぁ、始めますね。」
僕も同じく、1投目で自分のレーンの全ての缶を倒したが、やはり優也と比べると見劣りしてしまうのは致し方ないだろう。
「‥‥おめでとうございます。‥‥景品を1等のところから選んでください。」
優也と並んで1等の景品を見ると、最近はやっているゲーム機、テーマパークへの旅行券、ブランド家電‥‥。など、もろもろである。これを彼方に選ばせようと思うが、はっきり言って、テーマパークへの旅行券はただただ困る。萩野さんに殺されるどころじゃすまないだろう。
「彼方、何が欲しい?」
「あれが欲しい。」
彼方がさしたのはオルゴールだった。彼方に聞こえないくらいの小ささで安堵のため息をついたことは秘密である。
「はい。あともう一つ選んでいいんだよ。」
優也の分と僕の分でそれぞれ、1等なので、あともう一つ選べるのだが‥‥。なんで俺は一等なんて取ったんだろう?
「ないっ。」
なんて子だ。物欲がない。大丈夫?ふつうこの年頃だったら、あれ欲しいとか、これ欲しいとか、物欲の権化かと思うほどに欲しいものがあるイメージだったのでこの回答には心底驚いた。
「優也は?」
「ない。」
「そうか」
「じゃぁ、私が貰おうかな。」
「どうぞご勝手に」
「ありがと。じゃぁ、これにしようかな。」
北上先生は、VRゴーグルを選んだ。これは近年、人や物を別のものに変えて日々歩くのが楽しくなるというやつだ。これは、人や物はそのままなので安全面にも気を使っているため、安全性も高い。それに子供が良く歩くようになったと、あまり歩きたがら子供たちの親からは人気だそうだ。
早速北上先生がつけているが、新品のものに充電がされているわけもなく。「真っ暗になっただけだわ。」という感想だった。
「じゃぁ、帰りましょうか。」
北上先生の車に乗り込み、彼方を平賀さんの世界に戻してから、僕らも家に送り届けてもらった。
「じゃぁ、また今度。」
そう言って、北上先生は帰って行った。
「ただいま。」
「お帰り。」
それから食事を軽くして、部屋にこもって新書を読んでいた。結構前に買った飯田先生の親書を今読み切ったところだ。はっきり言って、僕が変異者じゃなければ、『戯言をほざいてる』というほどの内容。
内容について説明するなら『2083年3月13日に発生した東京大震災と富士山の噴火という複合災害は、想定外に少ない死者・行方不明者数という謎を残し、さらに避難所では高熱・悪寒および記憶障害を主症状とするレテ・ウイルスによるクラスターが発生したものの、即座に開発された新薬で収束したことから、「超能力者」の介入があったと私は考える』以上。考えもなし。ふわっとしている。結論なし。はっきり言って、僕が変異者でなければ破って捨てて、焼却場に直行。
「しかし、これも問題だな。変異者の存在がばれ始めてる。」
はぁぁ。と、大きなため息をついてベッドの上に寝転がった。
「幸人。ゲームしよ。」
コメント
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あおいです🌷 第24話、読み終えました。夏祭り、いいですね〜。彼方さんが無邪気に屋台を楽しむ様子が可愛くて、特にあんず飴のエピソードがほっこりしました🍬 一方で、北上先生との会話から幸人さんの内面が見えたシーンが印象的。「私的な感情はありません」と言いながらも、意外に優しいところが垣間見えて、グッときました。最後の新書のシーンで物語の深みが一気に出てきて、続きが気になります!