テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
莉瑠の日々は、あいかわらず変わらなかった。幻聴に苦しめられ、幻聴とだけ会話してまともなコミュニケーションも取れない。
短期大学では、課題をこなすだけで精一杯だった。友達もいない。課題をこなすための文字が莉瑠を救ってくれたからなんとかできただけだ。
「莉瑠さん、今日もよろしくね」精神科医の女性鈴木 美咲は、いつも莉瑠に優しく話しかけてくれる。しかし、莉瑠の幻聴が邪魔をして、莉瑠は幻聴の声にとらわれることしかできない。「お前は馬鹿だ」「役立たず」幻聴は莉瑠をののしる。「わたしは馬鹿じゃない、黙れ」莉瑠にとって両親から植えつけられた賢いことが全てなのだ。「そうよ、莉瑠さんは馬鹿じゃない、ちょっと落ち着いてわたしとお話しましょう」美咲は莉瑠の手を優しく包み込むように握った。莉瑠が幻聴としか話をしないのは、両親に自由に話すことを禁じられ、莉瑠は耐えきれずに、自分の思考を他人化させたのだ。「いやあああー、黙れ」莉瑠には美咲の言葉は届いていない。「先生、今日も無理ですね、精神安定剤を注射しましょう」看護師が莉瑠の声を聞きつけて病室に来た。
「莉瑠さん、わたしとはどうしてもお話してくれないのね、いつも注射であなたを鎮静化させることしかできなくてごめんなさい」美咲は莉瑠を抱きしめた。
(温かい……)知性の冷たさしか知らなかった莉瑠は、とまどい、離れた。勉強から逃れるすべはなく思考の他人化である幻聴と話をすることだけが莉瑠の生き延びるための手段だった。「うるさい、黙れ、わたしは馬鹿じゃない」莉瑠は幻聴の言葉にしかやはり耳を貸さない。「静かにしましょう」看護師は莉瑠に精神安定剤の注射を打った。(誰もわたしの話なんか聞いてくれない)いつでも莉瑠は、頭の中で話すしかなかったのだ。注射により朦朧として眠りについた。