テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
215
※事件については全て大捏造。警察についても犯罪についてもよく知らないので、実際はかなり簡単なコトだと思いますが、温かい目で…。頭をパーにして見ることをおすすめします!※
今朝は黒岩の機嫌が悪い。
なぜそう思ったか。いつもなら横を通り過ぎる時にはふわりと柔らかい香水の匂いが鼻を抜ける。
俺はそれがまたあいつの狂気を感じてあの香りが近くでするだけで背筋が凍るものだ。
だがそれがどうだ。今日は香水の匂いがしないどころか、全身をタバコのにおいが覆っている。
らしくない。
いつもならピシャリときめたスーツもこころなしか今日は少し着崩れている気がした。
(こりゃ今日は何言っても睨まれるな)
そう思いながら一応ご機嫌を取る。むしろ、やらない方がヤバい目に遭う。睨むどころじゃ済まないだろう。
「お疲れさまです。あァー…コーヒー淹れましょうか」
何も答えず資料に目を向けたまま、指を机にトントントン、とだけやって合図する。
くそ、いくら上司だろうと態度ってもんがあるだろう。そんな言葉を口にしてしまえば待っているのは死だけなので大人しく従う。
淹れたコーヒーを無言で机に置く。文句も言わず淹れてやったんだ、感謝して飲みやが───
「おい」
「はひ…っ?!」
突然話しかけられ、驚きで声が裏返る。まさか声に出てしまっていただろうかという心配で鼓動が速くなるのを悟られないようにと思うと、さらに心臓の音がうるさく耳に響いた。
「ンだテメェそのふざけた返事は」
そっちがいきなり話しかけてきたのに八つ当たりにも程があるだろ!!
「は、はは…すみません」
目が合い気づいたが、黒岩のやつ珍しく目の下に薄く隈を作っている。
と、合っていた目が逸らされてしまう。
今回の事件に相当頭を抱えているようだ。
こんなエリートでもわからないことがあんだな。
「それで…どうしたんすか…?」
「お前なら、こうなった時どうする」
手に持っていた資料を机に広げ、ここを読めと指でさす。
詐欺…そして殺害…。こいつはすごい。読み進めるたび犯した罪が増えていく。
今回は薬物関連で追われているらしい。
“某ファミレス店で薬物の売買───…”
読んでいて思った。
これ、そんなに頭抱えるような事件じゃなくね?
むしろ簡単すぎる気がするのは俺だけだろうか…。数々の狂った仕事を手がけてきたせいで感覚が鈍くなったのか?
「あ、あの…一ついいですか…」
「なんだ」
恐る恐る聞くと意外にも普通に答えてくれた。
「俺、フツーの事件にしか見えないんすけど…そのォ、俺の目がおかしいんですかね」
フッと、鼻で笑われる。黒岩のよくする、人を小馬鹿にするような笑い方。
「まずはお前がこの状況でどう動くかを言え」
「……。そうっすね…俺なら、まず目のつかない場所に薬を隠して売る相手よりも早く店で待ちますね」
「ほぅ?続けろ」
コイツ…俺がボロ出すのを狙ってるだろ。
「そしたら…何気ない会話して、周りの目がないタイミング狙って会話続けながら…ごく普通にコトを進めると思います」
俺のいつもやっている手口とは被らないように、慎重に言葉を繋げる。
「ハッ綾部らしいやり方だな?お前、防犯カメラは気にするか」
「あっ…えぇ、そりゃその立場になったら気にするんじゃないですかね…」
「そうか。コイツはなぁ、店の防犯カメラ以外どこにも映ってねぇんだ。しかもそいつは自分の顔も、商売相手の顔も絶対に映らねぇようにしてる」
「はぁ…?」
なかなかのやり手だ。俺にもぜひとも教えてほしい。
ん?でもそれなら…。
「どうやって薬物売買や殺人が分かったんですか?だって顔も映ってないんでしょう?取引の手元もよく見えないはずですが…」
背もたれに深くもたれかかり、足を組み直してからこちらを見る。
「あくまでも“可能性”だ けど同じような手口での殺人も何件かある。特定のカメラ以外映らない。服装も似たようなものばかりだ。」
警察を弄んでいるのだろうか。はたまたいつバレるか一人でチキンレースでもしているのか。
どちらにせよ、承認欲求があるのには違いがない。普通なら全てを避けて行動する。
「まぁよくわからないのは同感ですけど、アンタみたいな人が夜通しで悩むような内容すか?」
「…フッまぁな」
実際簡単なトリックではある。手にあったはずのコインが耳の裏から出てきましたーっというくらい、仕組みを理解しちゃえば簡単だ。…少しばかり工夫を加えられてはいるが。
「簡単すぎてもしっぽ掴めねぇんだよ。やり方に手が込んでると逃げるときも手が込んで大変なことになる だけどそこまで作り込まなきゃ逃げるときも簡単に手が引ける」
「へぇ〜…」
正直、この場にいたくないので、適当に相槌をしいつの間にか空になってた黒岩の紙コップを手に取り、捨てときますねと顔で伝え、くしゃりと紙コップを丸める。
「なんつーか、少し仮眠でもなんでもしたほうがアンタのためだと思いますよ せっかく面(だけは)いいんですから、隈なんか作ってちゃもったいないっすよ」
そういい背を向けて立ち去ろうとすると、後ろから嫌味が聞こえたが苦笑いしながらその場を離れる。ついでにタバコの臭いも何とかしてくれ。
ーーーーー
あれから数時間。あっという間に昼の時間だ。
腹も空いたし、仕事の気晴らしも含め外に出ようとしたその時、後ろから聞き慣れた男の声が俺を呼び止めた。
「よお どこ行く気だ」
今朝とは違い、いつも通りスーツがしっかりと着こなされ、全身を覆っていたタバコのにおいもすっかりとあの香水の匂いへと変わっていた。
顔色は…まぁほんの少しだけ良くなったんじゃねぇかな。多分。
「昼なんでメシ行こうと思って」
「もうそんな時間だったか。俺も一緒に行く」
「は?いや、なんでですか」
「なんだ?無理な理由でもあったか?それともまたサボり目的でバーに入り浸るんじゃねぇだろうな」
「アハハ…サボりだなんてそんな、嫌ですねぇ俺を疑うなんて…」
まさか俺を嫌ってて、俺自身も嫌ってる上司が昼メシに付いてくるなんて思わねぇだろ。一回顔洗ってこいよ。寝不足で脳のメモリ足りてねぇぞ。
それともこれも“監視”の内に入るのか?アンタもそんなのストレスだろうよ。
「ま、まあ…いいですけど…黒岩さん、ラーメンとか食うんですか…」
「俺をなんだと思ってやがる」
愛想笑いをし、俺の行きつけでいいんすかー仕事大丈夫なんすかーなど少しでも気まずさを和らげようと話しかけるが全てに「ああ」とだけ返されてしまう始末だ。せっかくの昼が気晴らしどころか気休めにもならない。
店に着くと顔見知りの店員に「いつものでいいっすか?」と聞かれ、頷き定位置の席に着く。
「あー、お連れの方は?」
「まだメニューも見てないし───」
「これで頼むよ」
「了解っす」
ほぼメニューも見ずに、一番最初に目に入ったであろう醤油ラーメンを指差し“市民に向ける顔”で注文をする。
本当にいいのかよそれで…。
「あっ…」
「あんだよ」
なんでも…と言おうとしたが、睨まれたので素直に言うことにする。
「いやぁ…せっかく香水のイイニオイがしてたのにラーメン屋にしちゃったなーって」
「お前にしちゃ気が利くな。別に俺は構わない」
今日はいつもに増して機嫌が悪いのは確かだが、所々いつもは感じない空気の軽さを感じる気がする。やっぱ寝不足のせいでおかしくなってるのだろうか。
こういう時はいつ地雷を踏んで身体が吹き飛ぶか分からないのでとてつもなく怖い。
しばらくすると注文したものが机に運ばれてくる。どうもと礼を言い箸を手に取る。
「どうぞ」
「ありがとよ」
しばらくの沈黙。
「どうしたんだよ。さっさと食え。休憩時間は無限じゃねぇぞ」
「あ、いえ、黒岩さんが手つけるまで待ってようと」
その言葉に黒岩に似合わぬポカンとした顔をされた。なにかおかしなことを言っただろうか?
「変なところ真面目なんだなお前」
「えっ上司を待つのが普通でしょうよ」
黒岩が手をつけたのを見てようやくこちらも箸を割って手を合わせる。
男二人の間に会話が特にあるわけでもなく、ただただ麺を啜る音だけが響く。
ニオイもだが、汁も飛んじまうな…ラーメンにしなければよかった。
けどなんかシャレた店を知ってるわけでもないし…次回なんてごめんだが、万が一を考えて店を調べておこう。
ラーメンを食い終わり会計を済ませてから店を出る。
並んで歩くのも嫌なので、黒岩の一歩後ろを歩く。黒岩も特にそれで文句はないらしい。
(なんか落ち着かねぇな)
空を見上げながら歩いていると突然何かにぶつかる。
「おわっ、あっすみませんよそ見してて…」
黒岩が急に立ち止まったのだ。空を見ていたせいで完全に気が付かなかった。やばいかもしれない…。
ぶたれる覚悟をしていたが、立ち止まってからこちらに振り返りもせず、一向に動こうとしない。
「黒岩さん…?」
「あぁ…犯人は一人じゃねぇな」
「はい??」
「綾部、さっさと戻るぞ」
腕を強引に掴まれ早足に歩き出す。転ばないようにとなんとか黒岩のスピードに合わせて従う。
なんなんだ、本当。
ーーーーー
「それで…一人じゃないってのはどういう事なんですか」
署に戻り、黒岩が席についたところで問う。
「防犯カメラの映像を思い出してな。思ったんだ あいつ、よく見ると映ってるカメラによって体格が違う」
「…なる、ほど…?」
よくわからずにいるとこの事件のファイルを開き写真を渡された。
「しっかり見てみろ それにだ、足元もどうだ」
「あ…」
本当に体格が少しだが違っていた。カメラのせいも疑ったが違うだろう。
そして言われた通り足元にも注目すると、一人は厚底らしき靴を履いている。
なるほど…これで全員を同じ背丈にして一人の犯行だと見せかけたのか。頭がいい集団だ。
けど、黒岩の手にかかっちゃ結局こうしてバレてしまうが。
「一人じゃないのはわかりましたけど、どうやって追い詰めます?難しそうっすよ」
「んなもんは当たり前だろ じゃなきゃ今頃こいつらはとっくに檻の中だ」
防犯カメラにもまともに映り込んでいないため行動パターンもわかりにくい。
どこのルートで防犯カメラを避けているのか、それを掴めれば多少は楽になりそうだが、可能性はきわめて低そうだ。
「どんどん穴埋めしていくしかなさそうですね」
手始めにどこから行こうか。こいつらの犯行は全て神室町内で起こっている。てことは、神室町に拠点を置いているかもしれない。
事件が起きた場所は…。
行動範囲はそこまで広くないな。
───つってもめんどくさいものはめんどくさい。
ひたすら同一犯のものと思われる事件がまとめられたファイルを読み漁り、犯人の“クセ”がないかを探す。必ず一つや二つクセがあってそこから手がかりに近づくが、何度読み返してもカメラに映らない事以外目立ったモノはない。
なんか…「モグラみてぇだな…」
「いいとこ突くなお前」
後ろから声とともに香水の匂いが鼻にはいる。
あ、やべ声に出てた…。
モグラは数ヶ月前突如として姿を消した。目玉をくり抜かれるような死体もでなくなり、結局正体も分からずじまい。今も必死こいて探してる奴はいるっちゃいるが誰もそんな注目はしない。
殺されたやつらが反社な事もあってうわべでしかみな善人ぶらない。
それで…。
「く、黒岩さん…!なんだか似ていて…もしかしたらモグラの可能性もあるかなぁーって…方向性を変えた…的な、ねぇ?」
「ハッそりゃねえな」
「ですよねェー」
なんだその知ってるかのような口ぶり。まあアンタも騒がれてた頃は真面目にモグラ追ってた一人だもんな。きっとハッキリした違いがわかるのだろう。
「少し、席外します」
ギロリとした鋭い視線が肌を突き刺してくるのでこちらは「サボりなんかしませんよ」と笑っておく。そこにまた釘を刺されてしまったが…。
ーーーー−
ああ言ってしまったからにはサボりに出れない…。いつもならサボるけど、なんせ今日は機嫌が悪いから下手したら殺されちまう。
なので外にある喫煙所でタバコを吸う事にする。
肺いっぱいに煙を吸い込んでそのまま吐き出す。
立ちのぼる灰色の煙を眺める。
「はあああ…意味のわからない輩ばっかだなこの町は」
「もしかしたら案外、身近な人間の可能性もあるのかもな」
それはそれでこちらとしてもいい情報になって美味い話だ。高値で売れる。“警察”という立場としてはたまったもんじゃないだろうけど。
怖いし、早く戻ろ。
タバコの火を消して短い休憩を終える。
ーーーーー
「ほぉ珍しい。お前が本当にサボらず真面目に帰ってくるとはなぁ」
いまだ資料に目を通しながらこちらには目もくれず話される。
「サボりなんかしませんって」
「だがそうだな。お前がさっき言ったように、コイツらはモグラに似てる というよりモグラを真似てる」
「真似てる?」
「手口なんかがな。 だが所詮はただの真似事だ わかっちまった今すぐに見つけられるだろうよ 」
「俺にはよくわかりませんね…」
こちらを向き、目が合い今日一不気味な顔でニヤリと笑うと頬杖をついて俺の名前を呼ぶ。
「綾部、ネズミを誘い込む罠仕掛けに行くぞ」
少しは休んだらどうなんだ…仕事熱心なのはいいことだけど…。
そして、“罠を仕掛ける”以外なにも教えられず、昼と同じく腕を掴まれ半分引きずられながら付いていく。
すごく長くなりそうなので一旦区切りということで…。
コメント
2件
ね〜!本当に語彙力凄すぎ…!!! この前布教された方々のやつですよね!? 作品に連れ込まれていく✨続き待ってます!