テラーノベル
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森の奥、湿った土と葉の匂いに包まれながら、健は紗羅をそっと地面に降ろした。月明かりが木々の隙間から差し込み、その光が彼の毛並みを白銀に輝かせる。
『はぁはぁ……』
息は荒く、肩が上下するたびに獣の筋肉が浮かび上がった。
紗羅が声をかけようとした瞬間、健の耳がピクリと動く。
次の瞬間……
ガァッ!!
鋭い牙が、紗羅の目の前まで迫った。
ほんの数センチ。
もし一歩でも遅れていたら、喉元を噛み砕かれていたかもしれない。
「け……健……!私だよ!」
必死に呼びかける声が、夜気に吸い込まれる。
だが健の目は血走り、瞳孔が細く尖っていた。
獣の本能が、紗羅を“獲物”と認識しているのが分かった。
爪が地面をえぐり、背中の毛が逆立つ。
森の静寂を破るのは、健の低い唸り声と、紗羅の震える呼吸だけ。
『……俺……もう、抑えられへんかもしれん……。』
その言葉はかすかに人間の声色を残していた。
でも次の瞬間、健は再び牙を剥き……
月光の下、獣と人間の境界線が、完全に消えかけていた。
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