Side緑
楽屋のドアを開けると、いつもの5人の話し声が俺を迎える。
それから「おはよう」と口々に挨拶してくる。
「おはよ、みんな」
今日は一日中グループで仕事だ。それを喜んでいるのは俺だけではないだろう。
「久しぶりだね、6人揃うの」
「確かに。プライベートでも最近集まってないからな」
「また飯とか行きたいねー」なんて話すジェシーと北斗、高地。
樹は珍しく早いけど爆睡してるし、きょもはイヤホンを耳に突っ込んで完全に世界に入っている。
俺はごく自然を装って、ジェシーの隣に座った。
「なあジェシー、撮影って何時からだっけ」
「えーっとね…」と時計を見上げたが、
「あれ、もうすぐ?」
「…え、もう時間じゃね」
北斗もつぶやく。
うわあ、早く、などと騒ぎながら立ち上がる。
きょもがイヤホンを外して怪訝そうにこちらを見る。「ほら大我、樹、行くよ!」
眠りこけている樹を起こして、YouTubeの撮影へ向かった。
そのあたふたしたテンションはそのままに、いつものボケ満載で進んでいく。
ジェシーのボケに被せると、樹の鋭いツッコミが飛んでくる。
これが嬉しいんだ。好きな人のボケに反応したら、それで彼が笑ってくれるのが。
あの豪快な笑い方も、いつも元気をくれる。
ポジティブな言葉で溢れているその生き方自体が、俺は好き。
みんなのそれぞれの笑い声が響くこの楽しい時間も、もちろん好きだけど。
「いやー、楽しかったね」
「めっちゃ笑ったもん」
終わったあとの楽屋でもそんな会話が交わされる。
しかし一息つく間もなく、次の仕事の時間がやってくる。
移動車のじゃんけんでまた騒ぎ、6人で乗り込む。幸運にもジェシーの隣だった。
「好き」を自覚してから初めての彼の隣席。
何か話したい。でも今までこんなことを意識したことはないから、何も話題が出てこない。
そのうちジェシーは、例によって「こぉーちぃー」と後ろを振り返って高地を呼んだ。2人で何やら話したあと、体勢を直す。
「なあジェシ…」
話しかけようと思ったが、思ったより声が小さくなってしまった。
「うん?」
「……あ、いや、なんでもない」
窓の外に視線を向けた。
こんなにも想っている人が近くにいるのに何もできないもどかしさが、心を支配する。
ジェシーって、こんなに鈍感だったっけ。同じ男心なのにわかってくれない。
いや、むしろ気づいていて遊ばされているのではないか。
もうこのまま自分で火を消してしまうほかないのかな。
色んな考えが頭を巡り、それを止めようと首を振った。
次の仕事は頑張らないと、と気持ちを切り替えた。
続く
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