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ムカついてしまったコユキは、プンスカしながら幸福寺の境内へと足を踏み入れ、思いもしない風景を前に立ち竦(すく)んでしまうのであった。
境内の真ん中辺りには祖母トシ子の肩を抱き涼しい顔で立つアスタの姿が見え、その周りを三頭の巨大な熊達が囲みこんでいる。
タマちゃんと仲間は順繰りにその凶悪な爪を振り下ろしてアスタを攻撃しているが、その度に自分の体に小さくない傷を負っては後方に下がって蹲り(うずくまり)、どうやら自己再生しているようだ。
治った先から再び攻撃を試み、又、蹲る…… そんな事を繰り返しているらしい。
祖母トシ子にも攻撃が加えられていたが、リフレクションの効果であろう、アスタ本人と同様に掠り傷一つ負ってはいない様に見えた。
「コユキさん、お帰りなさい、キヘヘヘ」
「うわっ! びっくりしたっ! って、うわあぁっ!! な、なによアンタあぁっ!」
突然傍らから聞こえた声に驚いた声をあげてしまったコユキは、声の主の方を見て、更なる驚愕、いいや恐れ戦(おのの)いた声、悲鳴をあげたのであった。
コユキの目前に現れた人物の姿とは、正しく西欧風の美しい女性が、その毛髪の一切を剃り上げて、青い瞳を大きく主張しながら直立状態で立っている様(さま)であったのである。
身長にしてコユキを優に上回る六尺越え、百八十センチほどであろうか?
碧眼(へきがん)と真っ白な顔色で口角をニっとあげ捲ったハゲ女を目にしたコユキは、正しく腰を抜かしつつ聞いたのである。
「も、もしかして? が、ガープちゃん? な、の?」
化け物染みたハゲ女、巨大なエウロパ風味に無表情をベースにした女的な存在は、ニッカ、と笑いながらコユキに答えてくれたのであった。
「はーい、ガープですよぉ! コユキさん! 何をそんなに驚いているんですかねぇ? キヘヘ! キヘッ?」
うん、この邪悪な感じ、確かに善悪ん家に昔から住みついている、ガープの物に違いない、座り込みながら確信するコユキであった。
にしても、大きい…… コユキの知るガープは精々二十センチ位の大きさだった筈である、決してこんなオオバヤシ的な巨大さではなかったのだ……
故にコユキは体を起こしながら聞いたのである。
「ってかガープちゃん? アンタ何でそんなに大きくなってんのよ? 熊対アスタとかよりソッチの方が見過ごせないわよ! 説明求む! 案件よっ!」
ハゲ西欧女ガープはコユキに答えるのであった。
「ああ、これね! そっかそっか、コユキサンはここ二、三日いなかったからなあ、初めて見たかもだもんねぇ! それじゃ説明しなくちゃね! これね、ガープの新スキルなんだよぉ、パズスとモラクスに教えて貰ったんだけどさ、魔力の障壁生成と成型スキルを併用して、自分の前に凸レンズを展開してね♪ んで光源調整して自分の大きさをマスターやコユキサンに合わせてみたんだけど、どう? 人間みたい?」
人間みたいってか? そう言う意味では中々に微妙だとしか言えないだろう……
だって瞬きもしていないし、そもそも造詣(ぞうけい)が大雑把過ぎて人のそれとは一線を画した物だったからね…… ハゲだし……
故にコユキは思ったままに、感じたままを言葉にしたのであった。
「ねぇ、ガープちゃん…… 正直に言って今のアンタの見た目って、その、『不気味の谷』の谷底よ? んまあ、アンタがそれで良いならアタシ的にもそれで良いんだけどさ…… 結構不気味よ、それって……」
歯に衣着せぬコユキのディスりに対して、意外にも嬉しそうな態度のガープ。
コユキは不思議そうな顔で聞くのであった。
「ねぇなんで嬉しそうなのよ? 不気味って言ったのよ、気味が悪いって! 分かってんのん? 」
喜びで体を小刻みに震わせながらガープが答える。
「ええ、ええ、そうでしょうとも! 気味が悪いなんて最高だ! 最高の褒め言葉でしょうとも、ええ、ええ」
「あぁー」
なるほど、そう言えばガープは美しい物の中に共存する醜さを好む悪魔、醜さの清廉(せいれん)さと美しさの醜怪(しゅうかい)さを愛でる、結構病んだ存在であったな。
そう言う意味でも『病』と呼ばれているのだろう。