テラーノベル
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薄暗くなり始めたかぶき町の路地裏、俺は菓子屋の店先から数メートル離れた電柱の陰で、もう一時間近くも立ち往生していた。
懐にねじ込んだ小さな包みが、やけに重く感じられて忌々しい。
中身は、銀色の包装紙で包まれたチョコレートだ。
不器用な俺が自分で作るはずもなく、わざわざ人目を忍んで買った上等なやつだった。
今日がバレンタインデーだなんてことは、数日前から大騒ぎしている隊士たちの姿を見て嫌でも知っていた。
あいつに何か贈りたい。そんな甘ったれた動機で動いた自分が、今は無性に腹立たしい。
「……何やってんだ、俺は」
煙草に火をつけ、紫煙と一緒にため息を吐き出す。
視線の先には、万事屋のあの怠け者の姿があった。
たまたま買い出しにでも出ていたのか、両手に駄菓子屋の袋を下げて、だらしなく鼻を鳴らしながら歩いている。
声をかければ、あいつはいつものへらへらした調子で振り返るだろう。
そして、俺がこの包みを差し出せば、どんな顔をする?
きっと、一瞬だけきょとんとした後、盛大に顔をしかめるに違いない。
『げぇっ、土方くん何これ? 男からチョコ? 勘弁してよ、銀さんただでさえ血糖値やばいのに、男の熱い情念がこもったチョコなんか食ったら一発で糖尿病悪化するわ。どうせなら可愛いお姉ちゃんからの本命チョコが欲しかったね。甘いのは糖分だけで十分なんだよ』
――そんな軽口が、容易に脳裏に再生された。
そうだ。
あいつは甘いものが死ぬほど好きだが、それ以上に普通の、まともな男だ。
バレンタインデーにチョコレートをもらうなら、むさ苦しい男、それも日々言い争いばかりしている警察組織の副長からではなく、着物の似合う綺麗な姉ちゃんや、キャバクラの女の子から貰う方が何百倍も嬉しいに決まっている。
俺が独りで募らせているこの重い感情を、あんな風に冗談めかして受け流されるのも、あるいは本気で引かれるのも、どちらも想像するだけで胸がひりついた。
万事屋の影が、通りの向こうへと消えていく。
「……帰るか」
短くなった煙草を携帯灰皿に押し込み、俺は踵を返した。
結局、俺の自己満足に付き合わせる必要なんてないのだ。
あいつの日常に、俺のこの割り切れない想いを持ち込むべきではない。
懐の包みにそっと手を触れる。
これは屯所に帰ったら、総悟にでも押し付けるか、あるいは自分でマヨネーズでもぶっかけて無理やり腹に収めてしまえばいい。
冷たい夜風が、火照った顔を通り過ぎていく。
あいつに届くことのないチョコレートを抱えたまま、俺は薄暗い夜道を、ただ一人屯所に向かって歩き続けた。
風花🎧🫧🥀@中学受験生
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かんな
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コメント
1件
わあ、めっちゃ切ない…🥀 土方さんがチョコ渡せずに帰るシーン、胸がぎゅってなった。銀さんの軽口を想像して自分で諦めちゃうとこ、土方さんらしい不器用さが溢れてて…。あの「俺の自己満足」って言葉に、重い想いを抱える大人の苦さがにじんでる。 バレンタインの闇をこんなに丁寧に描けるの、本当にすごいです。届かないチョコ、でも確かにそこにあった気持ち——その温度が伝わってきました。作者さんの筆致、好きです。