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幼い頃から私は家から殆ど出る事が無かった。
大人である事をお母様やお父様から認められるまで、家の人以外との関わりを絶たれていた。1度お祖母様に 理由を聞いた事があったが、そういう”しきたり”だとしか教えられなかった。
もっとも、私自身も病弱であったため、外に出て遊びたいとは思わなかった。娯楽も充実していたため、家の中での生活は苦では無かったのだ。
外の世界への憧れが全く無かったかと言うと、そういう訳でもない。お兄様がコッソリ読ませてくれたご本を読んで、漠然と外の世界の壮大さを感じてはいた。そういう事もあって、家族への不信感はあった。ほかの子供たちがさせてもらえるような「おでかけ」を何故自分はさせて貰えないのだろうとは思っていた。
家族のせいで大人は好きではなかったが、メイドであったレイだけは例外だった。彼女は私によく外の世界の歌を歌ってくれた。ピアノの先生が厳しかったせいで音楽は嫌いだったが、レイの歌だけはどうも嫌いになれなかった。
そんな私に転機が訪れたのは、15歳の誕生日の時。
私は誕生日があまり好きでは無かった。お父様やお母様のように大人というものになってしまうのが怖かったため、歳をとる事も同じように怖かったからである。
憂鬱に迎えた誕生日の朝、三階にある自室を出て居間に向かうために螺旋階段を降りる。例年なら家族総出で騒がしく私を迎えてくれるはずが、この日はどうも静かだった。不信に思い居間を覗くと、そこには呆然と窓の外を見つめるレイだけが居た。
のちに分かった事だが、その時私とレイは屋敷ごと遠くの国に居たようだ。
その時は本当に驚いたし怖かったが、少ししてすぐに慣れてしまった。
約1週間ごとに見知らぬ土地に「転移」する私のお家の中でレイと二人の生活。 各地の人との交流や見たことの無い物を見るのは私にとってお稽古なんかよりよっぽど楽しかった。
次はどこに行くのだろう。次はどんな出会いが、どんな絶景が私を待っているのだろう。転移の度に窓から見える景色に心を踊らせた。
これは世界中を旅して、私が本当の意味で大人になって行く。そういう物語だ。