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検査入院が始まった。
病室の白い天井を見上げながら、阿部は何度目かのため息をついた。
モルモットになってしまった気分だ。
医師たちは、少しでも多くのデータを集めようと、さまざまな検査を行っていた。
けれど、阿部の心は晴れなかった。
(もう……。)
(男には戻れないんだ。)
資料に書かれていた一文が何度も頭をよぎる。
何度考えても、答えは変わらない。
自暴自棄になりそうになる。
それでも、そのたびに目黒の顔が浮かんだ。
病室の外で目黒へ電話をかける。
『あべちゃん?』
聞き慣れた優しい声。
「ごめんね。」
「急に入院になって。」
『謝らないで。』
「検査が必要なんだ。」
「少しだけ時間がかかるみたい。」
治療法がないことも。
深澤や渡辺も一緒に入院していることも。
まだ話さなかった。
『ちゃんとご飯食べてる?』
「うん。」
『眠れてる?』
「大丈夫。」
嘘だった。
それでも目黒をこれ以上心配させたくなかった。
電話を切ったあと、小さく息を吐く。
深澤と渡辺は、他のメンバーには「急な海外ロケ」とだけ伝えてもらっていた。
マネージャーも口裏を合わせている。
今はまだ、本当のことを話すタイミングではない。
___________
病院内のカフェ。
阿部と深澤はコーヒーを飲んでいた。
病院らしい静かな空気が流れる。
深澤はコーヒーを見つめたまま呟いた。
「照との関係。」
「これで終わるのかな。」
阿部は黙って耳を傾けた。
「俺、自分が女になっても。」
「照とうまく付き合える自信がない。」
その声は、いつもの深澤からは想像できないくらい弱々しかった。
「恋人として見てもらえるのか。」
「何も分かんない。」
阿部は紙コップを両手で包みながら考える。
「……ねぇ。」
「うん?」
「照に会うなら。」
「女の子になってからの方がいいんじゃないかな。」
深澤が顔を上げる。
「どういうこと?」
「実際に変わったあとじゃないと。」
「照がどう思うかも。」
「ふっかがどう感じるかも。」
「きっと分からない。」
阿部は静かに続ける。
「照の反応を見てから。」
「その時に、これからどうするか考えても遅くないと思う。」
深澤はしばらく黙っていた。
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そして、ふっと笑う。
「……確かに。」
「俺、まだ起きてもいない未来に勝手に落ち込んでた。」
コーヒーを一口飲む。
「照がどう思うかなんて。」
「本人しか分かんないもんな。」
阿部も微笑む。
「うん。」
「だから。」
「今は検査を受けよう。」
「それしかできない。」
深澤はゆっくり頷いた。
「ありがとな。」
「少し楽になった。」
二人の間に穏やかな沈黙が流れる。
すると深澤が突然、自分の頬を触りながら笑い出した。
「一つだけ心配。」
「何?」
「女の子の俺、可愛くなかったらどうしよう。」
阿部は一瞬きょとんとしてから吹き出した。
「そこ!?」
「大事だろ!」
深澤もつられて笑う。
「ちょっとくらい美人になりたいじゃん。」
二人は顔を見合わせて笑った。
病院という閉ざされた空間の中で、その笑い声だけが少しだけ明るく響く。
先の見えない不安は、まだ消えていない。
それでも、ほんの少しだけ。
二人は前を向く力を取り戻し始めていた。
コメント
1件
みぅ🤍🥀 わぁ……第25話、すごく心に響きました。 検査入院が始まって、阿部くんの「戻れない」っていう諦めと、それでも目黒くんを思い浮かべる切なさが重かったな。 深澤くんが照くんとの関係に不安を吐露するシーン、弱ってる姿がリアルで、でも阿部くんの「変わったあとじゃないと分からない」っていう言葉が優しくて。最後に「女の子の俺、可愛くなかったらどうしよう」って笑い合える二人、少し救われた気持ちになりました。不安の中でも、一緒にいられる人がいるって強いですね。