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柱稽古
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“痣”を出現させた僕と甘露寺さん。柱合会議であまね様から告げられたのは、痣が現れた者は誰も彼も例外なく25歳までにその生涯を終えるという話。
鬼殺隊にいる以上、いつ命を落とすか分からない。そんなのとっくに覚悟していた。それなのに、胸の中に引っ掛かるものがあった。
茉鈴の存在だ。
僕は柱で、他の隊士より死に近いところにいる立場。いつ死ぬか分からない身だ。死ぬことなんて怖くなかったのに。憎い無惨を討ち滅ぼせるなら仲間の為に、大事な人の為に、命を差し出すことだって喜んでするのに。
僕は茉鈴を置いて死ぬのか?山にいた頃から、記憶のない時もずっと僕を支えてくれた彼女を独りにさせて。そんなのあまりにも身勝手じゃないか。
茉鈴といたい。この先もずっと。
茉鈴が好き。誰よりも好き。
記憶がなかった時も、美味しいごはんを作ってくれる人という認識で彼女のことを覚えて、屋敷の隠の中でいちばん好きだった茉鈴。
でも今は違う。そういう好きじゃない。今までの好きとは違うんだ。
茉鈴といると胸がドキドキするようになった。あの琥珀色の瞳が僕を捉えるだけで、柔らかな声を聞くだけで、胸が高鳴る。心臓がきゅっとなる。
僕を見てほしい。もっと声が聞きたい。その笑顔を独り占めしたい。一緒にいたい。これからもずっと。
これが“恋”だと知ったのは、甘露寺さんに相談してから。
特定の相手を前にした時の胸の高鳴り、笑顔を見たいと望む気持ち、その人に触れたいという気持ち。全部茉鈴に対してのそれと合致した。
今思い返せば、記憶がなかった頃も茉鈴の顔を見ると安心したり、一緒にいると落ち着いたりしていた。ぎゅっと抱き締めてくれた腕の温もりも、とくとくと響いてくる規則正しい心音も、今は全部覚えている。
この気持ちが恋だと気付く前から、どうやら僕は宝生茉鈴という女の子に対して、他とは違う特別な感情を抱いていたみたいだ。
『むい…、じゃなかった。時透様』
呼び止められて、鼓動が速くなる。
「茉鈴。…ねえ、その呼び方もうやめてよ」
『だって私たち、柱と隠だから。軽々しく“無一郎くん”なんて呼べない立場なんですよ』
「敬語もやだ。今から“時透様”呼びも禁止。上官命令ね」
『えぇ~。……分かった。上官命令なら仕方ない。前みたいに話すね、無一郎くん』
「うん、それがいい」
僕の返答に、茉鈴が困ったように笑った。
「ところで、何の用だった?」
『ああ、そうそう。来週から柱稽古が始まるんでしょ?隊士のみんなは通ってくるの?お泊まりするの?それを聞きたくて』
「全柱統一して泊まり込みで稽古に参加させようって話になった。寝る場所とか布団とかどうしよう?」
部屋はたくさんあるからあまり心配ないとして。布団は自分と泊まり込みの隠の分しかない。
『お布団は、藤の花の家紋の家からいくつか借りられるかもって聞いたよ。足りない分は買い足そうかな』
「1人に一組ずつ布団要るかな?雑魚寝じゃだめ?」
『それじゃ疲れが取れないんじゃない?しっかり休ませてあげないと翌日の稽古の効率も下がると思う』
それもそうか……。
『お布団が必要な柱の屋敷には新しいのを買うようにって。経費で落とせるから大丈夫。それでいい?』
「そっか。うん、ありがとう。……あと…茉鈴、稽古の間の隊士たちの食事なんだけどね…」
『うん。みんなの分もいっぺんに作ろうか?』
「!いいの?でも大変でしょ?」
『大丈夫よ。いつもより少し量が多いくらい平気よ。任せて』
「ありがとう。助かるよ」
茉鈴が早速紙に必要事項を書き留める。綺麗な字。
覆面から覗く目元。手に持った帳面に落とされた視線。伏せた長い睫毛が揺れる。
そんな彼女を今すぐ抱き締めたい衝動に駆られるけれど、ぐっと我慢する。
『…じゃあ、早速お布団の手配と、隊士のみんなが寝泊まりするお部屋の準備に取り掛からなくちゃね』
「うん。お世話になります」
『いいえ』
茉鈴が笑った。僕だけに向けられた笑顔。それだけで嬉しくなる。
翌週。ついに柱稽古が始まった。元音柱の宇随さんによる基礎体力向上訓練を受け終えた隊士たちが数人、また数人と僕の屋敷にやって来る。
全然だめ。甘すぎる。正直言って少し呆れてしまった。だけれどこんなへなちょこな隊士たちでも死なせるわけにはいかない。強くなってもらわなくちゃ。時間は限られているんだ。無惨が、鬼たちが動き出すのが、ひょっとしたら明日かもしれないんだから。
少々きつい言葉を浴びせてしまっているせいか、隊士たちは体力の面でも精神的な面でもかなり疲弊しているようだった。
でも。
『皆さん、お疲れ様です。ごはんにしましょう』
「「「うおおおお!!」」」
茉鈴が用意してくれる食事に、みんな大喜びで飛びつく。その美味しさにすっかり胃袋を鷲掴みにされたようだった。
お風呂もしっかり湯加減を調整してくれるし、布団も雨じゃない限りは毎日天日に干してくれるおかげでふかふかだ。
顔は隠れて見えないけれど、優しくて特徴的な瞳の色の茉鈴を、隊士たちはとても気に入ったみたいだった。でも僕としては、それはちょっと面白くなかったりする。
ある日の休憩時間。
軽く顔を洗いに行って戻ってきた僕の耳に、同じく休憩中の隊士の声が聞こえてきた。
「なあなあ、どう思う?」
「やっぱ絶対可愛いよな、宝生さん!」
「目しか見えないけど、優しいし、声も可愛いし、作ってくれる料理も美味いし、気配りができて。マジでいい子だと思う!あんないい子は絶対美人だろ」
「謎理論だな。…いやでも内面から滲み出る美しさが外見に反映されることだってあるよな」
「そうそう!それが言いたかったんだよ!」
茉鈴の話で大盛り上がりだ。
全く……。茉鈴ったらこんなに人気を集めてどうするの。
「なあ、やっぱどんな顔してるか気にならねえ?ちょっとした事故を装って、覆面剥ぎ取ってみようぜ」
は?何言ってんの。
「いやー、気になるけどよ、宝生さんって確か霞柱の専属の隠なんだろ?そんなのバレたらただじゃ済まないんじゃないか?」
その通りだよ。
「ねえ。時間だよ。いつまでもくっちゃべってないで打ち込み稽古の続きに取り掛かりなよ。こんなことわざわざ言われないと分からない程、君たちは頭が悪いの?」
「うわっ!? 霞柱!すすすすすすみません!」
急に現れた僕に、大慌てで稽古を再開する隊士たち。
事故を装って覆面を剥ぎ取る……。ほんとにそんなことするだろうか。でも絶対にないとは言い切れない。
僕はその後、さっきけしからん話をしていた隊士たちに、普段よりもっと厳しめに稽古をつけた。
その数日後。夕食を運んできてくれた茉鈴に、一同が注目する。
『皆さん今日もお疲れ様でした。たくさん食べてくださいね!』
「「「「ありがとうございます!! 」」」」
大喜びで料理を口に運ぶ隊士たち。それを嬉しそうに眺める茉鈴。
「…あの、宝生さん!」
『?はい』
片付けを行う際、ある隊士が茉鈴に声を掛けた。数日前、けしからん話をしていたうちの1人だった。
「単刀直入に言います!宝生さんの素顔が見たいです!」
「「「「「!!」」」」」
『えっ』
は?何言ってるの。無理矢理じゃないだけいいけどこんなド直球に頼むんだ。
『私の…素顔ですか?』
「はい!お願いします!」
『えっと……』
茉鈴が珍しくたじたじしている。
「俺たちも見たいです!」
「こんなお世話になってるのに顔も知らないのは申し訳ないです!」
「そ、そうです!こんなよくしてくれる人の顔、ちゃんと覚えておきたいんです!」
なんか最もらしいこと言ってるけど。
『うーん……。そんな面白いもんじゃないですよ?』
困ったように茉鈴が笑う。
「「「お願いします!!」」」
茉鈴がちらりとこちらを見た。“どうしよっか?”と言っているような視線で。
きっとみんな茉鈴の素顔を見るまで引かないだろう。でも何となく、言われるがまま素顔を見せるのは嫌だなって思ってしまった。
「茉鈴の顔が見たいなら、一刻も早く僕の稽古を終わらせて。次の柱のところに行ってよくなった人だけ、世話してくれた隠の顔を拝めるようにする」
「「「は、はい!!」」」
その晩、不死川さんたちと稽古に行こうとする僕に茉鈴が声を掛けた。
『無一郎くん』
「茉鈴」
夕方のこと…どう思ってるかな。
『あの…夕方みんなと話してたことなんだけどね』
「!…う、うん」
今僕が気にしていた内容の話を茉鈴のほうから切り出した。
『無一郎くんが助け舟を出してくれて、正直すごくほっとしたの。なんか大勢いる中で覆面取るの、恥ずかしくて』
「いや…、僕も勝手にごめん。普通にだめって言えばよかったのにあんな提案しちゃって」
『ううん。霞柱の直々のお達しでみんなが稽古頑張れるならいいと思う』
ごめん、茉鈴。隊士のやる気を上げる為じゃなかったんだ。僕があの時大勢の隊士の望むがままに君の素顔を見せたくないって思っちゃったんだ。
「あんなこと言っちゃったから、次の柱のとこに行く隊士には約束通り、覆面取ったとこを見せてやってもらわないといけなくなったね」
『まあ、数人相手に顔見せるくらいなら大丈夫よ。減るもんでもないし』
「……やだ」
『えっ?』
茉鈴が驚いたようにこちらを見る。
「…ほんとは茉鈴の顔、みんなに見せたくない。僕だけが素顔を知ってればいい。…だって僕…、茉鈴のこと……」
“好きなんだ”
思わずそう口走りそうになって、ぐっと言葉を呑み込んだ。
『無一郎くん?』
「茉鈴のこと、取られちゃうような気がして…」
これも本心だ。だから嘘はついていない。
すると茉鈴が可笑しそうに笑った。
『そんなことあるわけないでしょ。私は霞柱様の専属の隠よ?どこにも行かない』
「あ…えっと、……うん。そうだよね…」
茉鈴の、僕の言葉の意味の捉え方がなんか違う気がしたけれど、まあいいや。
「…ねえ茉鈴。顔見せて?」
『え?…無一郎くん、なんか今日様子が変よ』
「そんなことない。通常運転だよ。……夜稽古の前に茉鈴の顔が見たい。だから、ね。お願い」
『…分かった』
茉鈴が覆面を外した。被り物も。
久々に見る彼女の素顔。可愛らしくて、綺麗な顔。
どくんどくん、と心臓が大きく脈打つ。
「…茉鈴……」
『む、無一郎くん…?』
そっと茉鈴の頬に触れる。彼女が僕を見上げた。
目が合う。琥珀色の瞳に自分の顔が写っている。
「……茉鈴、お化粧してる?」
『うん、少しだけね。この前、蜜璃さんとお買い物に行って。付き合ってくれたお礼に、っていくつか買っていただいたの』
「そうなんだ…」
『おかしいかな?』
「ううん。すごく綺麗」
こんな綺麗な顔、ますます他の隊士に見せたくない。
『無一郎くん、やっぱり今日なんか変だよ』
「そんなことないってば。………そろそろ不死川さんたちのとこに行かなくちゃ」
『あ、そっか。引き止めてごめんね。気をつけて』
「ううん。ありがとう」
僕は茉鈴の腕を引っ張り、彼女の華奢な身体をぎゅっと抱き締めた。茉鈴も腕を回してくれる。
「……元気出た。これで今夜も頑張れそう。行ってくるね」
『うん、よかった。気をつけて行ってらっしゃい』
茉鈴が笑った。覆面に邪魔されていない笑顔。僕の大好きな笑顔だ。
柱稽古で隊士たちが大勢いるから、茉鈴と2人きりで話せる時間はとても貴重になってしまって。できれば今ももっと長く茉鈴といたかったけれど仕方ない。
玄関まで見送ってくれた茉鈴に手を振って、僕は不死川さんと伊黒さんとの待ち合わせ場所に向かって走った。
あれからまた数日経ったけれど、僕の稽古を卒業できた隊士は未だに誰もいない。
どの隊士も全く相手にならない中、ようやく1人の骨のある隊士が僕のところにやって来た。
竈門炭治郎だ。僕が記憶を取り戻すきっかけをくれた隊士。
「炭治郎!待ってたよ!」
思わず笑みが零れる。
「元気そうだね。今日からよろしくお願いします!」
炭治郎も刀鍛冶の里での戦いで大分負傷していたから、つい最近まで療養して、やっと柱稽古に参加できるまで回復したようだった。
炭治郎も加わり、稽古を再開する。
すごいな。僕が言ったこと、少しずつだけどちゃんとできるようになっていってる。
『皆さん、そろそろお昼ごはんにしましょう』
「「「「うおおおおおっ!!」」」」
茉鈴の声に、隊士たちが食事をする部屋へと駆けていく。
『あ、炭治郎くん!いらっしゃい』
「宝生さん!今日からお世話になります!」
あれ?
「2人ともいつの間に知り合ったの?」
僕が聞くと、炭治郎と茉鈴がこちらに向き直った。
「えっと、俺と禰豆子が鬼殺隊にいる許可をもらった日の後くらいかな」
『誰かさんが炭治郎くんに石をぶつけたから。そのお詫びに行ったのよ』
「そうだったんだ」
そんなこともあったなあ。ごめんね炭治郎。
炭治郎も一緒に食事に行く。茉鈴の料理を初めて食べた彼も、その美味しさにすごくびっくりしていた。
「こんな大人数の食事、作るの大変じゃないですか?」
「僕も気に掛かってたんだけどね。茉鈴は大丈夫って言うんだ」
『ほんとに大丈夫よ。ごはん作るの好きだし。“美味しい”って言ってもらえるのもすごく嬉しいから』
茉鈴が目を細めた。
「あの、もしよかったらなんですけど、俺も何か手伝いますよ。家が炭焼き小屋だったんでごはんを炊くくらいなら上手くできる自信があります!」
『えっ、いいの?でも稽古が最優先だから……』
「炭治郎は色々とできてるから、茉鈴が必要なら手伝ってもらいなよ。僕も炭治郎が炊いたごはん気になる」
『そっか。じゃあ炭治郎くんがいい時にお手伝いお願い』
「はい!任せてください!」
次の日の昼食から炭治郎がお米を炊いてくれた。やっぱり毎食手伝ってもらうのは申し訳ないから、と茉鈴が気にするので、お米を炊くのはお昼だけ炭治郎にお願いすることになった。
『今日のもすっごく美味しい!炭治郎くん、ごはん炊くのほんとに上手ね!』
覆面の下で炭治郎が炊いたお米で握ったおにぎりを食べて、茉鈴が目を輝かせる。
「みんなにも好評だよ。炭治郎がごはん担当してくれる分、茉鈴がいつもより多い種類のおかず作ってくれるし。みんな喜んでる」
「へへっ、よかった!」
僕もおにぎりを食べながら、まだ食卓に並べていない、できたてのおかずをつまみ食いする。
『あっ、ま〜た無一郎くんつまみ食いして…』
「だって美味しいもん。それに僕だって毎日大勢の隊士相手に稽古つけてお腹ぺこぺこなんだ」
『まあ、そうよね。でもつまみ食いで全部食べちゃわないでね』
茉鈴が仕方なさそうに笑った。
「…なあ。気になってたんだけど、時透くんと宝生さんってすごく仲がいいんだな。親しげに話すし」
あ、そっか。炭治郎は僕たちの関係性を知らないんだ。
「茉鈴と僕は幼馴染みなんだ」
『そうなの。他の人たちがいるところでは敬語で話すし“時透様”って呼ぶけどね。それ以外では昔みたいに話してって上官命令が下ったのよ』
「そうだったのか!どうりで……」
え、炭治郎。何を言おうとしたの?
『あ、そろそろ向こうに持っていかなくちゃ。2人も早く来てねー!』
「うん」
茉鈴ができあがった料理を大きめのお盆に乗せて台所を後にしたので、その場には炭治郎と僕だけになった。
「…なあ、時透くん。違ったら悪いんだけど、もしかして宝生さんのこと、好き?…その、恋愛的な意味で」
「!」
図星すぎて固まる。でも誤魔化したところで炭治郎にはバレバレなんだろうな。
「………うん…好き……」
「そっかあ。時透くんから宝生さんのことが大好きって匂いがするから」
「ずるいよ。君の鼻はそんなことまで分かっちゃうんだ」
ほんとにどうなってんの、その鼻。
「…茉鈴はね、特別なんだ。小さい頃から仲良くしてくれて、いっぱい優しくしてくれた。僕と同じ時期に柱就任の声が掛かるくらい強いのに、あっさりそれを断って僕の専属の隠になってくれた。ずっと支えててくれたんだ」
「そうだったのか。ほんとに優しいんだな、宝生さん」
炭治郎が嬉しそうに微笑む。
「宝生さんからもさ、時透くんをものすごく大事に思っている匂いがするから。ほんとに2人はお互いを信頼してるんだなあと思ってさ」
「!」
炭治郎の言葉に鼓動が大きく速くなる。
「…そっか……。嬉しい…」
「俺は2人のこと応援してるからな」
「僕が茉鈴を好きなこと、誰にも言わないでね?」
「当たり前だよ」
男と男の約束だ、と炭治郎が笑った。
そして、僕たちはお昼ごはんを食べにみんなのもとへと向かった。
午後も稽古をする。日中は隊士を相手に。夜は他の柱と一緒に。
朝方帰ってきてから、軽く湯浴みをして午前中の稽古が始まるまでの時間で睡眠を取る。
最初は少ししんどかったけれど、同じような生活を繰り返しているうちに慣れてきた。
炭治郎が来て5日目。
僕が言ったことをちゃんとできるようになった彼に、次の柱のところへ行っていいと告げた。
その日の午後は、炭治郎の提案でみんなで紙飛行機を折って飛ばした。
久し振りに飛ばした紙飛行機。とても楽しかった。兄さんも見てるかな。
「宝生さん」
『あ、炭治郎くん。お疲れ様』
入浴を終えた炭治郎が、廊下ですれ違った茉鈴に声を掛けた。
「俺、明日から次の柱のところに行くんです」
『そうなのね!早いね。まだ5日?くらいなのに。すごいわ』
「はい。お世話になりました」
深々と頭を下げる炭治郎。
『こちらこそ、美味しいごはんを炊いてくれてありがとう。炭治郎くんが教えてくれた炊き方も応用してやってみる』
「宝生さんの料理、ほんとに美味しかったです。栄養たっぷりで彩りも綺麗で。たくさんの愛情を込めて作ってくれてるんだってことが伝わってきました」
真っ直ぐな炭治郎の言葉に、茉鈴が少し照れたように俯いた。
『もう…褒め過ぎ。でもありがとう。嬉しい。…言ってくれた通り、愛情はこれでもかというくらい込めてるつもりだから。伝わっててよかった』
茉鈴が笑った。
「……蝶屋敷で初めて話した時もそうでしたけど…、宝生さんと話してるとすごく心の中があったかくなります。あの時俺と禰豆子を鬼殺隊の仲間として受け入れてくれて、応援してるって言ってくれて。すごく嬉しかったんだ。あれから色々あって精神的にすごくつらい時期もあったんですけど、宝生さんの言葉が俺を慰めると同時に奮い立たせてくれたんです」
炭治郎の言葉を静かに聞いている茉鈴。
「だから、ほんとに感謝してるんです。あの時も、この稽古の期間中も、宝生さんの優しさにたくさん触れさせてもらって」
『私はなんにもしてないよ。ただ自分が思ったことを口にして、自分がしたいと望んだことを実行してきただけ。むしろ私たちのほうが、炭治郎くんや禰豆子ちゃんのひたむきな姿に力をもらってたんだから』
茉鈴が炭治郎の手をきゅ、と握った。そして彼の赤みがかった瞳を真っ直ぐに見つめる。
『絶対に無惨を倒そう。今の私たちならきっと無惨に勝てる。禰豆子ちゃんもきっと人間に戻れるよ。だからもう少しだけ、一緒に頑張ろうね』
「…っ…、はい!」
不覚にも涙が零れてしまった。
それをそっと寝間着の袖で拭う。
『明日は早いの?朝ごはんまで食べる時間があるなら、食べてから出発するといいわ』
「次は甘露寺さんのところで、あんまり遠くないみたいだしそうさせてもらいます」
『うん。無一郎くんも喜ぶと思う』
「はい!」
おやすみなさい、と挨拶をして、炭治郎は隊士たちが寝泊まりする部屋に戻っていった。
続く
コメント
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やっぱり、無一郎くんは恋愛的にすきだったのか、、、見ててキュンキュンしますね、、w 面白すぎて1000いいねも押してしまったw 今回は少し長くて嬉しかったです! 頑張ってくださーい!