テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
佐伯の姿が完全に見えなくなってからも、
ひよりの胸の奥では、
さっきの記憶のざわつきがまだ消えずに残っていた。
陽はひよりの肩に手を添えたまま、
静かに息を合わせてくれている。
「……ひより、もう大丈夫だよ。
ここには俺しかいない」
その声に、
ひよりの指先がようやく少しだけ緩んだ。
ひよりは深く息を吸い、
震える声で呟いた。
「……陽くん……
ほんとに……ありがとう……」
陽は首を横に振った。
「ありがとうなんて言わなくていいよ。
ひよりが怖かったなら、そばにいるのは当たり前」
その言葉が胸に触れた瞬間、
ひよりの目に涙が滲んだ。
(……陽くん……
どうしてこんなに……)
ひよりは俯いたまま、
袖をぎゅっと握りしめた。
「……まだ……怖い……
思い出したくなかったのに……
名前聞いたら……全部……」
声が震える。
涙がこぼれそうになる。
陽はひよりの手をそっと包んだ。
「思い出したくないことって、
触れられただけで痛くなるよね」
ひよりは小さく頷いた。
「……うん……
痛い……
胸が……ぎゅって……」
陽はひよりの手を少しだけ強く握った。
「ひより、痛いときは言っていいんだよ。
我慢しなくていい」
その言葉に、
ひよりの胸がまた熱くなる。
(……陽くんの前だと……
なんでこんなに……)
ひよりは涙をこらえながら、
かすかに陽の袖を掴んだ。
「……陽くんが……いてくれて……
ほんとに……よかった……」
陽は驚いたように目を見開き、
それから優しく微笑んだ。
「俺も……ひよりが無事でよかった」
その笑顔に、
ひよりの胸の奥の震えが少しだけ静まった。
でも──
完全には消えていない。
陽はそれを分かっているように、
ひよりの隣にそっと座り直した。
「ひより、今日はもう無理しないで。
帰るとき、俺が送るよ」
ひよりは驚いて顔を上げた。
「……え……でも……」
陽は優しく言った。
「怖いまま一人で帰らせるわけないでしょ」
その言葉に、
ひよりの胸がまたぎゅっと締めつけられた。
(……陽くん……)
涙がこぼれそうになるのを、
ひよりは必死にこらえた。
夕方の光が完全に消え、
夜の気配が二人を包み始めていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#魔法
しろのね
283
藍 羅 . 🎧🌿
95
菜乃花🌸💫☘️
83