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白山小梅
白山小梅
12
帰り道の途中、
ひよりは突然立ち止まった。
陽も足を止め、ひよりの横顔を覗き込む。
「……ひより?」
ひよりは胸元を押さえ、
苦しそうに息を吸った。
「……ごめん……
ちょっと……苦しくて……」
陽は驚いたように目を見開いた。
「胸? 痛いの?」
ひよりは首を振る。
「違う……
痛いっていうより……
なんか……ぐちゃぐちゃして……
息が……」
陽はひよりの肩に手を添えたが、
その表情は今までと違っていた。
心配だけじゃない。
どこか、焦りに似たものが混ざっている。
「……ひより、無理しないで。
座ろう」
ひよりは頷き、
近くの階段に腰を下ろした。
陽は隣に座らず、
ひよりの前にしゃがみ込んだ。
「顔、真っ青だよ。
ほんとに大丈夫?」
ひよりは俯いたまま、
震える声で呟いた。
「……陽くん……
私……
あの人のこと……
思い出したくなかった……」
陽の表情が変わった。
今までの“優しい陽”じゃない。
ひよりの痛みに対して、
怒りに近い感情が一瞬だけ浮かんだ。
「……ひよりをそんなふうにさせるなら、
やっぱり……俺、黙ってられない」
ひよりは顔を上げた。
「……え……?」
陽はひよりの目をまっすぐ見つめた。
「謝りたいって言ってたけど……
ひよりがこんなに苦しむなら、
あの人に近づかせたくない」
ひよりの胸が跳ねた。
陽がこんなふうに言うのは初めてだった。
「……陽くん……
怒ってるの……?」
陽は少しだけ目を伏せ、
それから静かに言った。
「怒ってるよ。
ひよりが苦しんでるのに、
何も感じないわけない」
ひよりの胸の奥が、
別の意味でぎゅっと締めつけられた。
(……陽くん……
そんなふうに……)
陽はひよりの手をそっと取った。
「ひより。
俺に……頼っていいから」
その言葉は、
今までの“優しさ”とは違う温度を持っていた。
ひよりは息を呑んだ。
胸の痛みはまだ残っている。
でも、
陽の言葉がその痛みの奥に
新しい何かを落としていった。
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